2017年8月14日月曜日

20170814

『量子コンピュータが人工知能を加速する』(西森秀稔・大関真之:日経BP社)

数式を全く使わない量子コンピュータの入門書。著者は商用で販売されている量子コンピュータの駆動原理「量子アニーリング」の第一人者。

量子コンピュータは従来のコンピュータと比較して「組み合わせ最適化問題」を高速に解くことができるというのが大きな特徴。
グーグルやNASAが「1億倍速かった」と発表したことで話題を集めた。
カナダのベンチャーD-WAVE社が商用量子コンピュータを販売している。

【巡回セールスマン問題】
組み合わせ最適化問題の例として有名。
5箇所を訪問する宅配便のドライバーが最短距離となるルートを、近似を使わずに真面目に計算してみる。
5箇所の組み合わせは5×4×3×2×1120通りになるので、それぞれの距離を計算して、最も短くなるルートを選ぶ。ここまでなら従来のコンピュータでも一瞬で計算できる。

しかし、これが10箇所になると組み合わせ数は360万、15箇所で1兆3000億、30箇所になると2.7×10^32となってしまう。30箇所を巡る最短ルートを厳密に計算して求めようとすると、スーパーコンピュータ京で計算しても8.4億年も掛かるという。
30個のタスクを片付ける順番を決めることも、現代の最新計算機を使ってもまともには計算できないというのが現実。

【アニーリング】
金属を一旦高温にしてから冷ますことで歪みをとったりする「焼きなまし」のこと。
例えるならば、ビー玉をたくさん乱雑にざっと箱に放り込んだのが初期状態。
温度を上げるのはビー玉が少し動けるような程度に箱を揺すっていること。
しばらく揺すってから動きを止めると、綺麗にビー玉が並んだ状態になる(エネルギーが最安定な構造をとっている)

量子アニーリングも、外部から掛けている力を最初は大きく、その後小さくしていって安定値に持っていくところがアナロジーになっている。
全ての量子ビットが「0」「1」の重なり合った状態で外部から横磁場を掛ける。その後、横磁場を弱めながら量子ビット間の相互作用を強めていくと、やがてそれぞれの量子ビットが「0」か「1」の値を取るようになって答えが求まる。

機械学習においては、分類分けやクラスタリングなどの判断を行う過程がある。それはアルゴリズムに沿って最もマッチした境界線を選んでいく計算になるので、最適化問題になる。ここはまさに量子アニーリングを用いた量子コンピュータの得意とするところ。

量子アニーリングの原理は著者の西森氏の発案であり、ソフトウェアも含めた要素技術は日本で生まれたものも多い。
商用とはいえ1台15億円の専門装置。1999年に創業して初めて顧客がついたのが2011年。そこまで良く投資家の皆さんが支えたものだなぁ・・・



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