2018年1月12日金曜日

20180112:素材産業における「ものづくり」の将来像

今日は産総研のシンポジウムに東大 藤本先生の講演を目当てに参加。

素材産業の現状と課題がまとめて議論されていて、全体像が分かって有意義だった。

2FlowSTシンポジウム 素材産業における「ものづくり」の将来像
人にやさしい社会の実現を目指して―

講演 「ものづくり経営学からみたプロセス産業」
藤本隆宏 東京大学教授

  • 今日の講演スライド作ってない!と朝4時から作り始めて7時に完成した。その後で、実はもう既に作って印刷用に送信していたことが分かった。内容を見たら3分の2くらいは共通していた。
  • コネクテッドと言われるが、ドイツでは行き詰まりの様相が見えている。ドイツの中小企業は競争力があって輸出力も相当強い。それら中小企業がGoogleAppleなど制空権を持ったアメリカ企業の下請に甘んじないように、ファイアウォールをどうやって築くかと言う点の議論が多かった。「つなぐ」ありきではどの中小企業もついてこない。彼らはつながらなくても利益が出ているから、「繋がりましょうよ」と勧めに言っても断られている。つなぎたいときに即つながると言う、コネクタブルが本質だと思う。
  • 付加価値は設計情報に宿る。作業者や設備が持っている設計情報を素材に転写して行くのが生産。自動車など組立産業では設計転写型として理解できる。一方で、化学素材産業はミクロの組立。無数に存在する分子たちが気持ちよく作業できるように環境を整備してあげる。これは自己組織型と言える。鉄鋼などは成分調整だけではなくて、熱履歴をうまく使って普通の鉄で特性を引き出すと言うモノづくりをしている。これは秘中の秘であり、これを調整して分子レベルで良い素材を作っているのが日本の強さ。この強さはずっと続くと思う。
  • 生産を設計情報の転写と考えると、情報は発信側(作業者・機械)と受信側(製品)に別れる。情報発信側の生産性は、稼働時間に対して製品に情報を転写している正味の作業時間は5%~10%程度だった。無駄とりを重ねて30%程度まで引き上げた。情報を受け取る受信側も正味の作業時間に対して何も情報が転写されてこない待ち時間が膨大に長かった。この割合は良くて0.5%で、普通は0.05%。生産リードタイムのうち、大半はて在庫や搬送などの待ち時間ばかり。日本は賃金が20分の1だった中国企業と戦うために、情報の発信側も受信側も生産性を高める努力を積み重ねてきた。淘汰された企業も多いが、それでも日本の製造業が生き残っているのはこれらの努力の成果。密度・速度・精度を上げる努力が必要。この考え方を中国の鉛筆工場に導入したところ、リードタイムが30日から5時間まで短縮された。
  • 電子機器が落ち込んできた中で、自動車や素材などはしぶとく競争力を持っている。各工程が個別最適を図るだけでは良いものが作れず、工程間の連携プレーで良い製品を作るノウハウが生きる製品が日本で生き残っている。重さのある世界で連立方程式を解くモノづくりが得意。素材と言っても、モジュラー型の仕様さえ決まれば標準が買えるものであれば海外メーカーが主流になっている。
  • 自社製品がインテグラルかモジュラーか、顧客の製品・工程がインテグラルかモジュラーかで2×2が出来る。自社もインテグラルで顧客もインテグラルなのが自動車やシステムLSIなど。自社はインテグラルだが顧客はモジュラーと言うのがインテルのMPUや村田製作所のセラミックコンデンサ。規格を自分たちで作ってAppleにも了承させ、1個30銭のコンデンサを数兆個全数検査して納品して、それで利益率20%とかやってる。自社がモジュラーで顧客がインテグラルなのがキーエンスなどのソリューション型。標準品を使ってカスタマイズしているので提案する営業が鍵。自社の顧客もモジュラーなのは汎用DRAMなどで日本企業は得意ではない分野。
  • 現場が頑張るだけではなくて、アーキテクチャをどのように設計するか本部の判断もとても大切。良い設計を良い流れで作って顧客を満足させるべし。



講演 「将来の「ものづくり」を見据えた日本の化学産業のあり方とJACIの役割」
石塚博昭 新化学技術推進協会 会長 (三菱ケミカル株式会社相談役)

  • 地球環境に優しく、人に優しく、経済合理性がある。この3点が今後の化学産業には欠かせない重要なポイント。
  • 化学産業はまだ日本企業が世界的シェアを持っている分野ではあるが、経営資源は劣化している。設備の老朽化・要員の高齢化が進んでいて、投資回収期間の短縮が求められ、人材も不足している。
  • 高付加価値製品を生み出すためにはAIIoTの活用は欠かせない。データマイニングや計算も必要で、研究者の勘に頼っていると属人的になってしまう。
  • 液晶やバッテリーなどのシェアは、最初100%だったのが10年もしないうちに10%を切るくらいに暴落してきた。素材メーカー並の世界シェアを維持していて欲しい。バッテリー用の素材はシェアを持っていても、EV用バッテリーで30%程度になり、EV自体は10%を切る。最終製品になる程海外に取られている。今は素材を買ってくれているが、特許御構い無しで真似して作ってくる。
  • 化学品では、欧米企業は基礎化学(石油化学等)から機能性化学(高機能プラスティック・ファインケミカル等)にシフトしている。アジアの新しい企業は基礎化学だけ。日本企業も機能性化学にシフトしつつあるが、欧米に比べると遅い。事業の撤退や売却をしようとすると先代社長から怒られるのが良くない(笑)



講演 「フロー精密合成による「ものづくり」のイノベーション」
小林 産総研特定フェロー (東京大学教授)

  • バッチ法とはフラスコに薬品を入れて反応させて生成物を取り出す作り方。医薬品を含むファインケミカルはこのやり方で作られているが、ゴミが大量にでる。1kgの製品を得るために5トンのゴミが出るのもザラ。この処理にコストが掛かっている。合成反応をさせて、不要な物を取り除いて合成したかったものだけ取り出して・・・という合成と分離の工程を医薬品の場合は50回以上繰り返す。
  • フロー法とはパイプの一方から原料が投入させると、パイプの端から生成物が排出されるような連続生産の方式。バッチ法と比較して省エネ・省スペースで必要な量だけ生産できる。今まではアンモニアなどバルクケミカルでは採用されてきたが、今後は機能性化学品にも応用して行くことが大切。
  • 2006年にLey教授がフロー法を使った有機合成の論文を出した。触媒をうまく導入するところがノウハウになるが、研究室のラボレベルでも高い収率で合成できることが分かった。数kgの量で良い材料もあるので、ラボレベルから量産レベルまで引き上げることも可能。


パネルディスカッション

日本がモノづくりで食べて行く国であるためには日本には何が必要か?

石塚氏:製品メーカーが海外にいると、いつか素材のノウハウも真似されてしまう。本当に垂直統合が必要だと思う。

藤本氏:危機意識を持って語るのが経営者の仕事だとは思うが、日本の現場は本当によく頑張っている。中国の製造業とハンデ20倍を乗り越えて生産性を上げる凄まじい努力をして生き残った。今は仕事がありすぎてオーバーフローしている。製造業がGDPに占める割合は30%から下がり始めて今は1819%程度で下げ止まっている。ドイツは2223%あるけど。先進国でこの水準は珍しい。製造業は10%切るところまで下がるもの。国内ではユーザーの細かいニーズを聞いてカスタマイズしつつ、海外では同じ機能の標準品を売りまくることだ。

石塚氏:確かに中国・韓国・台湾は標準品を安く大量に買いたがる。日本はもっとカスタマイズされたものを買いたがる。

藤本氏:日本企業が「うちも標準品で良いよ」と言わないで欲しいもの。頑張ってくれと。

小林氏:昔、理学部は象牙の塔みたいな雰囲気があって、研究は国からの予算だけでやるのが当然だった。あれから10年経ってガラッと変わった。基礎研究であっても「社会実装」と書いておかないと予算が通らない。とは言っても企業家とすぐにつながるわけではない。打開策として産学連携でやろうと言う話になった。社会連携講座という形でも610社に協力もらってやっている。

佐藤氏:確かに企業と付き合うと怒られる時代もあった。一方で、野依先生などは産業に役立つ化学をやるべしという考えで、100g作らないと論文を出させてもらえなかった。数mgの合成で論文をだす人もいたのに。企業との共同研究では「クリーンで性能が良いのはわかるけど、コストがかかりすぎだ」と言われたことがあり、産学をつなぐ人材が必要と感じた。提案する力をもつ人材をどう作るか。

藤本氏:能力(現場)とアーキテクチャ(現物)の考え方は技術者には実はわかっているもの。本社側でアーキテクチャの位置取り戦略が大切。

石塚氏:化学産業の中でフロープロセスを採用したものもある。これからは環境と人に優しく経済合理性のあるものづくりが求められる。機能性化学でもバッチのままでは持続できない。化学産業でも日本の有機合成は強い。連続フロー生産が必要。

小林氏:フローといっても、バルクとは異なる。ところで、日本企業は機能性化学にシフトするという話だが、今でも基礎科学の割合は高い。基礎化学は今後どうすべきか?

石塚氏:住友さんは製薬もあるし農薬も世界的に強いから機能性化学の割合が高いんです・・・どうして私が住友の営業やってるんだか(石塚氏は元三菱ケミカル社長)三菱ケミカルの基礎化学の割合が高いのは三菱レーヨンの世界トップシェア品が含まれているから。基礎化学品は市況や環境で大きく変動する。機能性を増やして行くという方向性は変わらない。

佐藤氏:今までバッチだったものをフローで作る。これはフローで使える反応や触媒は限られて行くので、学術的にも期待されている。

藤本氏:石油化学は分解型だが、ファインケミカルはミクロサイズの組み立て型のものづくり。先ほどの話で家電製品みたいなオープンモジュラー型だと右肩下がりにシェアは下がるけど、新規参入が標準化して一部を奪って行くので当然の話。それでも比較優位があれば下げ止まってしっかり儲かるはず。「素晴らしい」と「勝てる」は別物。完全にモジュラー型だったら完全に奪われてしまう。

小林氏:フローではインラインの分析がとても重要。観測結果をデータベース化して予測するところがキモになるので、IoTAIが採用されるところ。研究としては早くから取り組むべき。

日本は良い研究をするけれど、事業では負けてしまうのはなぜか?

石塚氏:RDのテーマの決め方が大切。部品・完成品メーカーの声をしっかり聞くこと。客の期待に応える。トヨタから要求をもらって、バンパーを鉄やウレタンではなくてオレフィンで作った。結果、オレフィン製バンパーを採用してもらったのが素材メーカー共同で頑張った成果。日本の化学メーカーには部品・製品メーカーのニーズに応えるだけの実力があるので、ぜひ欲しいものを言って欲しい。電子産業は素材メーカーとの議論を避けがちに感じる。

藤本氏:バンパーを丸ごと作る気迫がすごかった。こんなことは日本企業同士でないとやらないだろう。素材メーカーが顧客の顧客にまでスコープを持っていることが大切。消費財は顧客に提案した方が良いが、産業材は顧客がプロなのでついて行った方が勝つと言われていた。しかし、研究の結果では産業財であっても顧客に提案した方が良いことがわかった。いつでもカスタマーが言ってくれるわけではないから、提案していく方が良い。技術と製品をすり合わせるために先行開発センターを作るというのも一つの手段。技術も製品も両方わかっているミッドフィルダーを置いておけば、状況を見て確実にパスを出せる。的外れなロングボールを放り込むより成功確率が高い。商品開発側に目利きが欲しい。面白いことをやっているのを見て「それは役に立つ!」と企業側が指摘できるように。大学の先生から提案されなくてもなぁ(笑)

小林氏:企業の声を聞くプラットフォームは欲しいと思う。開発した技術で世界のゴミが減るなら実現したい。全世界で一気に広まるのではなく、誰かがリーダーになって引っ張っていくはず。技術の囲い込みはある程度必要だろう。

佐藤氏:産学連携では「私の反応は役に立ちません!」と言い切ってしまう先生がいても良い。この素材の特性を100倍にします!と言って大学が研究するのも、面白ければありだろう。産総研で以前に特性を改善したレジストを作って企業に持って行った時、2~3年前からそのレジストに対するニーズはあったそうだ。信頼されなければニーズは拾えない。ラボの研究の後はスケールアップとコストダウンが待っている。これは論文にも特許にもならない部分だが、避けては通れない。ここもサポートする必要があるだろう。

人材育成についてはどう考えているか?

石塚氏:教育は小学校から始まっているが、求められる人物像は時代に応じて変化している。教育の区分けは昔のままでは困る。AIIoTの技術者は外部から採用してケミカルを教えている。

藤本氏:東大ものづくり経営研究センターではものづくりインストラクターを養成している。シニアが元気なうちに子供世代に引き継ぐ。本当に親と子くらい歳が離れているペアを作ると結構うまくいく。ベテラン刑事と若手刑事みたいな感じ(笑)

藤本氏:ドイツではAIを使って全面自動化することには興味を持っていない。班長の指導をアシストするような良い質問を考えさせるようなデータを渡すところにAIを使おうとしている。AIと班長が協力して強い現場を作ろうとしている。単能工は置き換わるが、多能工は変わらない。日本では人不足だし、女性を活用するのは当たり前。CADを任せて会社の中核に据える社員が地元の高専をでた女性という会社もあった。活躍してもらわないとやっていけないのが実情。子供の理科離れは、小学校の工場見学がつまらないのがいかん(笑)今のものづくりの現場はとても洗練されている。そう行った工場を見せるべき。

小林氏:基礎科学では境界を明確にしているが、大学3年以上ではなんでもやるくらい越境している。研究室の3割は留学生だし、学部でも大学院でも授業は英語でやっている。いまの学生は外に出ていくことを躊躇しない。有機化学はフラスコで合成するものという文化を変えないといけない。AIも早く取り込みたい。

佐藤:研究者は保守的。AIを使った触媒の自動発見も、研究者にやれと行ってもやらない。AI技術者をあてがって一緒に仕事をさせるようにした。最近、成果が出てきた。




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