2017年3月6日月曜日

20170122

『すばらしい新世界 新訳版』(オルダス・ハクスリー著 大森望訳:早川書房)



最新テクノロジーによって“完全なる幸せリア充生活”が約束された世界をブラックユーモアたっぷりに描いたディストピア小説。

【家族がない】
人間は全て管理された環境で人工授精によって瓶から生まれる。夫婦や親子といった概念はなく、誰とでも自由に交際できる。逆に決まった相手とだけ交際することは恥ずかしいとされ、親から子が生まれるという概念も野蛮で禁忌とされている。

【社会構造】
受精卵の段階で計画・制御され、アルファ・ベータ・ガンマ・デルタ・イプシロンと社会階層が決められて生まれてくる。階層の低い人間は数十人規模の一卵性多胎児として生まれ、全く同じ単純労働について高度な効率化を実現している。子供の頃から睡眠学習システムによって社会階層が当然と認識されるように教育されている。

【宗教がない】
宗教は全て排除され、万人の幸福を目的としてフォード主義が行き渡っている。西暦に変わって1908年(フォード・モーター設立の年)を元年と定めたフォード歴が採用されており「My God!」の代わりに「My Ford!」が使われ、十字架の代わりにTがイコンとなっている。ちなみに小説の舞台は西暦2540年。

【病気・老化がない】
病気に対するワクチンは成長過程で接種され、60歳まで若い身体を保ったまま人生を堪能し、センターで眠るように死ぬ。死を恐れたり悲しんだりしないように睡眠学習で刷り込まれており、不愉快なことがあっても夢を見てストレスを発散させる合法的な薬が提供されている。

【文学がない】
テレビや映画などの娯楽は提供されているものの、文学作品は遥か昔に禁書となっており、誰もこの社会が歪んでいると考えないように徹底されている。

小説の後半は自然の残る保護区の中で古書であるシェイクスピア全集を読んで育った野人が登場し、当たり前と思っていた幸せな生活に疑問を投げかけながらストーリーが展開する。
この作品は1932年に執筆されたものだが、全く古さを感じない内容に驚いて思わず一気読み。リア充が保証される代わりに何も自分では考えず「自由とは?」などの疑問が浮かぶことすらない極限的な社会。全ての境界条件を取り払った上で、人類の問題を最小化した社会の1つを描いたようなものだね。
Amazonで薦められるがままにカートに放り込んだりして、自分から自由を少しずつ捨ててる部分は確かに感じるな(笑)
AIも個人の効用を最大化する選択肢を提案するところまでは行けるだろうから、それがあらゆるところで導入されきった後は、どうなるんだろうかな。
さすがの名著でござった。




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