グローバルビジネス学会第4回全国大会に参加。
今回のテーマは『AI(人工知能)時代に向けたグローバルビジネスのあり方』
<1日目>
【開会挨拶】
小林潔司先生 京都大学
- 時代が変わっても1日24時間が変わるわけではない。人は色んなことに時間を配分しているが、配分先を変えることは難しい。その一方で技術革新が進んでいる。
- 阪神淡路大震災のとき、携帯電話もネット検索も今ほどは普及していなかった。あれから20年ちょっとしか経っていない。大学で学んだ知識・知恵だけでは維持できて10年程度で20年持てば良い方。これからは、ずっと勉強していかないといけない時代。
- 学ぶ必要が出てきている以上、アウトソーシングして効率化できるところを効率化しないといけない。アウトソーシングして効率化できないところが大事な時間。つまり、遊ぶところと勉強するところ。それ以外のところはアウトソーシングする時代になった。アウトソーシングして遊んで学ぶところをしっかりやすべき時代になったということ。
【IoT・AI時代のビジネスモデル -自動化と超速化-】
根来 龍之先生 早稲田大学
- 情報システムの役割とは、現実をモデル化してシミュレーションを行うこと。現実を模写する性質がある。現実が何であるかというデータを投入することで現実を可視化し、予測して介入を行う。
- IoTとしての理想形のモデルはデータ入力・可視化と制御・最適化が全て自動化されるもの。現実世界のモノとITの世界が自動で通信されてデータを自動取得する。概念としてのIoTは全てが自動化されているが、現状では部分的に人の介入が残っている。
- コンビニの受発注関連システム:レジでバーコードを読んで購買データを取得し、顧客特性は店員が手入力している。データウェアハウスに蓄積された過去の受発注データに基づいてシミュレーションを行うが、仮設の設定やデータの解釈は人間が担当する。
- 走行情報の自動車保険への活用:ドライバーの走行情報から事故確率などを算出して保険料に反映させる。
- GEのPredix :飛行機のエンジンを運行しながらモニタリングする。自動でデータを解析してアラートを出し、飛行機が空港に着くと整備スタッフがすぐにやって来てメンテができる。
- コマツの自動制御:工事エリアの計測の部分は操縦者がいるため、データ取得には人が介入している。
- データ取得・シミュレーション・ハード制御にAIが使われるようになる。計算が早くできるのは素晴らしいことのように思えるが、計算が早いのは目標を外側から与えている。ゲームに勝つという目標を与えられればできるが、楽しくやるという目標には到達できない。
- ハード制御について、クラウドからの制御ではラグがあって間に合わないので、ローカルで制御する必要がある。
- 昨年発売されたAIBOは欲しいけど29万円と結構高い。データを自動取得し、複数のAIBOで得られたデータをクラウド上で学習して個別にフィードバックすることで、集合的な学習ができている。
- Spectee:視聴者撮影映像がSNSからメディアにピックアップされる時代になっている。かつてはテレビ局が24時間SNSを人力監視・検索していた。しかし、事件の映像を検索で見つけ出すことは意外に難しい。火事の投稿を探そうとしてもテキスト検索では事件の条件にたどり着けるとは限らない。そもそも投稿では「火事」と書かない人が多く、テキスト検索ではそのようなことができない。Spectee はAI関連特許を持ち、投稿で使われがちなキーワードを探索しつつ、投稿映像の中から消防車・煙・火などを自動で判断し、位置情報も探る。これを自動で検索して集めて提供する。画像認識に国境があるわけではなく、同社の売上の半分は海外になっている。判別してニュースにして、原稿作成から読み上げまでの自動化を目指している面白い会社。
【Society5.0実現に向けた人工知能戦略について】
新田 隆夫様 内閣府政策統括官
- Society5.0とはサイバー空間とフィジカル空間を高度に融合させたシステムのこと。経済発展と社会的課題の解決の両立を目指すが、あくまでも人間中心の社会を構築する。人間中心に力点を置いているかどうかが、他の国の政策との違いかもしれない。
- AIによって膨大な技術をネット上から集めて、究極の自動化を進めていく。人間中心ということで、人間の役に立つ・人間に寄り添ってくれるなどにあるべき。
- AI戦略については、いかに社会実装を進めていくのか?総務省・文科省・経産省だけで集まっても仕方ない。出口となる関係省庁もあつまってもらった。
- 人工知能技術戦略実行計画は目標と年限を設定したアクションプラン。アメリカ・イギリス・フランス・ドイツも策定しているが、内容を読むとそんなに変わらない。研究開発・人材育成・産学官が有するデータおよびツール群の環境整備・ベンチャー支援・AI技術の開発に係る理解促進
- GAFAと競合しようとしても、資金量・データ量で圧倒的に負けている。日本としてはどこを狙うのか?を考えると、工場現場のデータ・教育・介護・医療のデータになる。これらは大手のプラットフォームは集めきれておらず、機械学習させるには都合が良い。
- ディープラーニングを掘り下げるのではなく。人が寄り添う対等なコミュニケーションといったヒューマンインタラクションも重要。
- 日本固有で、スモールデータでもクレンジングされてなくてもそこそこ学習できるといった分野も探索する必要がある。
【すべての人に移動の自由を トヨタの先進安全・自動運転技術開発への取り組み】
鯉渕健様 トヨタ自動車株式会社
- 自動運転で世の中はどのように変わっていくか?安全・自由な移動・物流・新規ビジネスなどが大きく変わるだろう。
- トヨタは全ての人が、安全・スムース・自由に移動できる社会の実現を目指している。自分で運転できずに移動できない人でも移動できる社会が良い。
- トヨタはドライバーを大切に考えていて、運転を楽しみたいときは運転できる車を作る。その一方で全ての人に移動の自由を提供したいと考えており、完全自動運転まで突き詰めていく。
- 30年にわたって自動運転に挑戦してきた。第1期は渋滞追従や白線テールマーカ追従など、第2期はインフラ利用システム、第3期が自律型。センサ性能・ハードウェア処理能力・ソフトウェアの進歩によって実現に近づいた。
- 自動運転技術の構成としては、認知・判断・操作のプロセスを機械が代行すること。地図&周辺認識→状況判断&運転計画→車両制御とつながる。運転の知能化・人と車の協調・つながるといった、知能化を進めることが大切。
- 運転知能の進化:網羅的に周辺を認識して、動きを予測して賢い判断をするようになった。過去の学習や経験を踏まえて初めての事象にも適切に対処できるようにしている。
- 従来は事前に定義したパターンマッチングだったが、ディープラーニングでは大量のデータをアルゴリズムに食わせて学習させると性能が上がっていく。従来技術はデータ量が多くても性能は頭打ちになっていたが、ディープラーニングはデータ量が増えれば従来を大きく超えるポテンシャルを持ちうる。
- 人と車の協調:ドライバーに車の状態を提示し、人と車が気持ちの通った関係を築く。実写に近い運転ができるシミュレータを作って、どの環境でドライバーに知らせれば良いのかを研究している。
- つながる知能化:車のセンサーでは見えないところまで、コネクテッドのデータを使って認識してもらう。システムを常に進化させる。自動運転に必要な地図を自動生成することができる。たくさんの顧客で地図を作って重ね合わせると自動でできる。
- 激化する開発競争:100年に1度の生きるか死ぬかの戦いになっている。所有者がいるオーナーカーも、移動サービスで使われるサービスカーも両方手がけていく。両者の性格は非常に異なる。
- 高速道路など自動車専門道向けのシステムよりも一般道向けシステムはより複雑でいろんなものをケアしなくてはいけない。逆にMaasにつかう自動運転システムではドライバーがいなくてよければ、システムにコストがかけられるし、スタイリングを気にせずもっとも最適な場所にセンサーを配置できる。サービスカーは地域を限定して始めから高い自動化を狙う。
- 安全性・信頼性の担保が必要だが、実車で走り回るのは大変。バーチャルデータで検証していく必要がある。
- 法規の問題も存在する。人間の運転と比べてどこまで安全なら良いのか?人間の10倍事故率がさげれば良いのか?責任の所在と社会受容生を考えなくてはならない。
パネルディスカッション(1)
「ハイパー・グローバリゼーション時代のAIとビジネス」
モデレーター:
関口 和一様 株式会社日本経済新聞社
パネリスト:
佐野 究一郎様 内閣官房 日本経済再生総合事務局 参事官
鯉渕健様 トヨタ自動車株式会社
茶谷 公之様 楽天株式会社
【楽天におけるAI-nization】
- Customer satisfaction improvement with AI 楽天にはグローバルで95百万人以上の会員がいる。コンピュータ中心から人間中心へ目指し、ルーティンタスク>意思決定>コラボの順で進めている。
- Vague intention will be understood by AI Shopping AIではユーザーは「子供の誕生日パーティ用に」といった漠然とした質問を投げかけても、きちんと解釈して子供の年齢に合いそうなおもちゃやエリアに配達可能なバースデーケーキを提案したりする。商品を選ぶ中で「もっと可愛いもの」といった指示でも、パステル調や柄の大きなものなど、言葉の意図を汲んで検索条件を変更する。
- 楽天 AIプラットフォームは日本IBMとワトソンを使った。カスタマーサポートでは多くのトラフィックがチャットボットに流れている。これによって年間1万5千時間のデジタルレイバーが作られていることになる。
- 次世代モビリティシステムの構築
- 次世代産業システム プラットフォーム間でのデータ連携
- フィンテック・キャッシュレス社会の実現
- デジタルガバメントの実現:行政からの生産性革命
- AI時代に求められる人材の育成:小中高大学での教育+社会人の学び直し(リカレント教育)
- 大企業からイノベーションを生み出すことはできない。ベンチャーがやって大企業が取り込む。新技術実証の推進(サンドボックス)とプラットフォーム選択環境の整備が重要
【パネルディスカッション:ハイパー・グローバリゼーション時代のAIとビジネス】
関口モデレーター:5月の下旬からノルウェー・イギリス・イスラエル・ドイツ・上海を回ってきた。世の中は相当なスピードで動いている中で、日本の動きが遅いのではないかという印象を持って帰ってきた。イスラエルでは年間600-800社のベンチャーが生まれ、政府も資金援助などを行っている。ノルウェーでは新車の半分は電気自動車になっている。GDPRは欧米ではビジネスチャンスになっている。
政府のAIの取り組みは不十分ではないかと思っている。政府の予算が数百億円レベルで、海外とは2桁はオーダーが違う。理研やNICT、産総研で技術を開発すればよいという発想に見える。民間と連携ができているのかな?という問題提起をしたい。
佐野:公式答弁をすると、研究機関3つが連携しています、となる。研究機関の研究が直接ビジネスになるとは思っていない。もう実装のレベルなので民間企業の場で行われるべきと考えている。東大のAIで著名な先生ゼミ学生を大企業が採用したところ、3ヶ月経っても名刺の渡し方の練習をしていたという話も聞いたことがある。大企業の受け入れ方が変わっていないのも問題ではないか?
関口:ソフトバンクの孫さんがアームを買収していた。買収額3兆円の1割でも国内投資に回してくれたらとも思ったが。トヨタもシリコンバレーで投資をしている。日本との関係はどうか?また、楽天も相当アメリカにお金を使っているが、日本の研究開発との連携はどうか?
鯉渕:アメリカでリサーチして日本で製品化というのは距離がありすぎる。決してアメリカを偏重しているわけではない。政府の投資額とGAFAの投資額を同列に扱って良いとは思わない。彼らも企業間で協調しているわけではない。AIの性能がちょっと向上すると収益があがるというお金を積極的に投資する理由になっている。自動運転社は人工知能投資から製品化までお金がかかる。
茶谷:楽天は英語化を進めたことで、AI部署では30名ちょっとのエンジニアが在籍しているが、8割は日本人ではない。チャットボットは日本語だけど、メンバーは日本人ではない。買収も増えており、社員数も国外が増えている。いろんな場所・国籍メンバーで仕事としているため、日本だけという区切りは難しい。
関口:企業はそれで良いと思うが、日本政府とのリンケージはあるのか・
茶谷:楽天技術研究所はアカデミアの成果をビジネスに活かすことを重視している。その研究成果を商用化する取り組みをしている。
関口:トヨタと政府との連携は?
鯉渕:自動運転にも協調領域はある。地図の作成やルールメイキングの部分については各社が個別に政府とやっているとお互いに大変なので、意見をあつめてワンボックスで交渉することはある。
佐野:民間との連携で、実証実験については世界の中でも規制が緩やかな感じになっている。手放し運転では届出を出さなくても実験できる。遠隔操作であれば無人運転でも認められる。世界でも優遇されているはず。政府の方でやっている実証は地域限定型のレベル4など、社会実装の検証。民間とは住み分けをはかりながらできているのでは。
関口:GAFAとガチンコ勝負はむずかしい。日本の強みが活かせるのはどの分野になるか?
佐野:サイバーの世界ではなかなか敵わない。リアルと重なる部分では勝ち目があると思う。ものづくり・自動走行・医療介護とか。
鯉渕:自動車はやるしかない。車の中のデータ量を大量に集めるのが誰かについては勝負がついていない。我々にもチャンスがあるし、やっていきたい。日本が世界に先駆けて高齢化するなら、住みやすい世の中にするソリューションを提供することができれば、パッケージとして輸出できる。
茶谷:高齢化していく日本を題材とした産業は何だろうなと思っている。思い出せない・忘れるという部分が生じるし、動けないのは自動運転で開発できる。国のインフラとして広げていくところがビジネスチャンスになる。
関口:アウディはすでに実現している中で、日本企業の足取りが遅いのではないかと思える。2020年代にレベル4を出すという話だがどうなんだろう?
鯉渕:自動運転のプロモーションについてはバブルになっていると感じる。ビデオで夢を見せているが、現実はそんなに甘くない。人間にたいして腰が引けているのではないか?と批判されるが、真剣に考えれば簡単ではない。人間が運転する車の10分の1の事故率になったとしても、普及台数を考えれば事故で亡くなる方は一定数は存在する。その交通事故者を自動車メーカーで受け止められるだろうか?1億台が普及すれば、確率的には多くの方が自動運転で亡くなってしまう。
関口:自動運転で先行しているのはGoogleやテスラや中国。IT屋さんがリードしている。テスラは17インチの液晶パネルがあるし、運転席の前に全面スクリーンがある。自動運転をどこかで斜に構えているところもあるのではないか?
鯉渕:ある一定の割合はドライバー思考で、運転好きな人には運転するのが楽しい車に乗ってもらいたい。その一方で、目的地につきさえすれば良いなどの価値観がある。自分で運転できなかった人が、好きなところに移動できるようになるのであれば、その人にとっての愛車になる。
関口:かつてのモータリゼーションは自分が車にのってやっていった。イーパレットは店が自分のところに来てくれる。
楽天はドローンをやっているが、ドローンも日本は腰がひけていないか?ハードウェア本体を作りにいこうとしていないのではないか?
茶谷:ドローン含めて自動運転は、デリバリーでの期待は大きい。ゴルフ場でドローンで配送などはやった。自動運転のデリバリーでは運転手がいらないので、新しい生活を提供できるかもしれない。
サイバー空間では商品空間に対して、ユーザーをどのようにナビゲートして届けるか?必ずしも自動運転の技術ではなく、その考え方をサイバーの中で活用しても寄与がえられるのでは?
関口:DeNAが日産と組んでやっている。楽天は自動運転はやるのか?
茶谷:車はやっていないが、リフトには出資している。自動運転に興味があるところに出資している。シェアードサービス。
関口:CASE (Connected Autonomous Shared Electronic)という言葉がある。カーシェア用の車を1台作ると、新車23台が売れなくなるという試算もある。
佐野:個人的には全てシェアリングでもよいと思っている。自動車を所有するモチベーションが減っていくだろう。全てが自動運転でシェアリングになると、駐車場などになっている場所が他の用途に使えるようになるのでは?他のサービスが保管すれば良い?
鯉渕:シェアリングが出てきたときに、どれだけ車が減るのかはわからない。いろんな試算がある。人口密度が高すぎる東京都内はそもそもシェアリングがいらない。地下鉄の方が良いから。人口密度が低すぎると借りる人がいなくてビジネスが成り立たない。ちょうど良い人口密度が必要。日本の場合、過密な都市のすぐ脇に車がないと話にならないエリアがあって日本は難しい。アメリカはちょうどよい人口密度があり、公共交通機関が整備されていなかった。そう簡単にはオーナーカーは減らないのでは?と見ている。
中国では登録すればシェアリングもできる車も販売されたが、自分で買った人はさすがに人に貸したくないという結果になった。そう簡単ではない。自動運転が入れば、到着地から自動で戻ってくることもできるようになるので、シェアリングビジネス自体も自動運転によって使いやすくなることもある。
関口:田舎では高齢者が買い物難民になってしまう。1週間に一回、自動運転車が来てくれれば、パブリックな使い方になるかもしれない。
茶谷:病院・散髪・買い物への交通手段が、1時間に一回のバスしかないというのは問題。交通機関のスケジュールに合わせなければならない。シェアードでいつでも車が来る状態になるならとてもありがたい。しかし、ペイするかどうかはとても大切。
関口:地方にいけばバス・タクシーは疲弊してしまっている。公共政策としてやった方がよいのではないか?自動運転が日本の強みと仮定した時、阻んでいる要素や障害などネックになる点は何だろうか?
佐野:完全自動運転になると、ジュネーブ条約上をクリアしないといけない。道交法も改訂しないといけない。レベル3の議論をしているところ。場合によっては道交法を改訂する。経産省にも言ってある。
関口:ジュネーブ条約は各国に示しているものだ。日本だけというハードルはあるか?ドローンが官邸の屋上に落ちて注目を集めてしまい、目で見て操作できる範囲と限定されてしまった。日本は初めから規制を作りまくって芽をつぶしているようにも見える。
佐野:2020年度をめどにルールを整備しようとしている。山間部の荷物配送など、目視外飛行もできるようになる。都市部で飛ぶためにはどうするか、人の上に落ちそうなときにどうするかのルールを決めていく。
鯉渕:日本はかなり自由。アメリカは州ごとに独自のルールが必要なので手続きはある。日本は規制はあるけれど、比較的やりやすい。自動運転はハードウェアやソフトなどかなりの部分は共通だが、学習させる部分はかなりローカル。日本で開発して、そのままアメリカで一発で動くわけでもない。ある意味、その国の人と共通させることがある。
関口:空飛ぶ車など広州のベンチャーなども開発されつつある。
鯉渕:トヨタは過去に飛行機を出そうとしたことがある、車は衝突安全を厳しくしているので、どんなに設計技術が発達しても車自体は重くなっている。一方で飛行機は軽くなっている。両方できる空飛ぶ車を作るよりも、飛行機と車を1台ずつ持った方が良いのでは?と思う。
飛行機の羽根に小型モーターを沢山つけることで、5分の1の羽根の長さで空が飛べる技術も生まれている。
関口:ドライバーが運転よりも配送で時間を食われている。
茶谷:これはチャンスで、デリバリーが変わるとロジスティックスの考え方も変わる。お客さんに届ける時間も大きく変わる。楽天ではトラザクションデータはたくさん持っている。需要の予測ができると影響が大きいため、規制緩和の面で希望を出している。
関口: IoT・AI・データをどうやって有効活用すべきか? 日本が弱いのではないか?何をすべきか?
佐野:データ連携は2年前は企業もおよび腰だったが、今はかなり進んできた。メンテナンスは共有しようという議論も出てきた。船舶の運航データも船主や運航会社もあり、共有しようという動きは出始めている。
茶谷:楽天ではイーコマースに関わるデータはオープンデータとして公開している。研究用にデータを渡している。企業間で共有することで、ビジネスの本質に時間を取れるようになるのでは?AIとうまく組み合わせることがブレイクスルーになるだろう
関口:買い物データを他に使って欲しくないという気持ちがあるのではないか。
茶谷:顧客からの要請もある。金融庁からのガイダンス、いろんな事業をやっているので、いろんなルールに従う必要がある。お客さまに対してどのようなデータを持つべきかを考えなくてはならない。
関口:自動運転をするためには精緻な3Dマップが必要。カーナビの地図の会社を買収しているところもある。日本ではデータ連携が進んでなかったようにも見えたが、どう評価しているか?
鯉渕:地図はメンテナンスも必要で、自動生成が必要。大きな地図システムを作らなくてはならない。地図ができるのに必要な十分な台数のアライアンスが必要。地図はローカルな情報で国策で国家機密扱いのところもある。走った車のデータをその国・地域から持ち出せない場合もある。地域で完結させなくてはならない。
関口:人作りの話。ソフト人材が不足している。企業はどうやって人材を確保していくか?
茶谷:ロングタームでみれば、データサイエンティストはAIができる。しかし現状ではデータを取り扱える人は圧倒的に足りない。楽天の場合は外国社員が増えている。テクノロジー部門の6割は海外。日本では足りないので海外からエンジニアを集めている。
関口:日本ではとれないから、海外エンジニアをとるようにした?
茶谷:ボリュームの差はある。バンガロールだけでIT技術者が毎年3万人生まれてくるが、日本では全国合わせて1万人くらいが上限。
鯉渕:海外のエンジニアを採用する仕組みを取り入れつつある。研究に関連する部門の共用語を英語にしたり、処遇を本社と切り離したり。AI技術者をトヨタに入れて、幸せそうにみえないとよく言われる(笑)。IT技術者の立場からみたら、悪の権化のように見えているらしい(苦笑)
関口:人事・総務の壁がある。人は同じもという発想があって、同じ基準に当てはめようとする。
佐野:レガシーの仕組みで、カスタマイズで食っている人を解剖しなくてはならない。レガシーを撲滅してクラウドにきりかえてリカレントしていく。金融機関メガバンクで人がいらなくなるので、再教育していくことは必要。
関口:8割のコストは現行システムの維持に振り分けられている。モデル全体を変えていく必要があるだろう。
シリコンバレーの企業には手足となるハードウェアを持っていない。アジアの技術を持った企業と組みたいと言っている。米中摩擦を考えると。中国とは組めず、日本と組みたいと言っている。
このパネルディスカッションを通じて、日本の強いところが浮き彫りになったのではないか。
【人間と人口知能】
松原仁先生 公立はこだて未来大学
- 人口知能には3回目のブームが来ている。人工知能の専門家の間でも決まった定義がない。
- 目標は明確で人工物に知能を持たせること。知能とはなんぞやを科学的に探求する。人工知能を考えることは人間を考えることでもある。
- どれだけできると人工知能ができたことになるのか?定義がはっきりしない。
- 鉄腕アトムはAIの象徴。こんなロボットができれば良い。実現すると、人間とは独立に知能が存在することになる。
- 以前に『人口知能とは』という本を出版した。人工知能とは?を歴代の人工知能学会の会長が述べているが、各自が違うことを書いている。言葉を喋るのが大事(自然言語処理)、見たものをわかるのが大事(画像処理)など。本になるくらい人工知能の定義が共通していない。みんな言うことが違う。
- 研究分野で三回もブームがあるのはおかしい。過去二回は期待ハズレで失敗したということ。「2度あることが3度ある」だとまた冬が来てしまう。それでは困るので「3度目の正直」にしたい(笑)
- 人工知能の成果が社会で使われるようになって、人間の能力に追いつく・追いこす分野が現れるようになってきた。将棋囲碁ではルールが明確で範囲が限定されていたのでAIが得意な分野。世の中の多くの問題はルールが不明確で範囲が非限定。
- 50年~60年のブーム:日本には来ていない。1956年にAIという名称がついた。このときは人間の能力を過小評価していて、実質なにもできなかった。
- 80年~90年のブーム:エキスパートシステムが日本にも来て、86年に学会ができたが、ものにならずに再び冬の時代に入った。今では普通になってしまったけれど、仮名漢字変換ができたのはこの時期。
- 2010年代:ディープラーニングを使ってないとAIではないという風潮になっている。多かれ少なかれ知的なことをするのがAI。
- AIに小説を書かせる研究をやっていた。1次審査を通ったときは大騒ぎになったが、その後は入賞に至っていない。入賞はまだ先かもしれない。
- 将棋の藤井聡太はAIのソフトで指して学んだ。彼の手はAIに近いと言われている。次の一手を考えるテストをしたとき、どれだけAIと同じ手を解に選んだかという基準でみると、藤井聡太は80点以上のスコアを獲得した。コンピュータと同じ手を指していることがわかった。AIから人間が学ぶ時代になってきている。
- 大学の地元函館に関するテーマで定置網漁業がある。定置網では来た魚を取ってしまうが、小さなマグロが大量にかかってしまうと漁獲規制がかかっているので社会問題になってしまう。定置網に入っていたら、逃がしてあげないといけない。魚群探知機の信号画面を見ていて、素人目ではさっぱりわからないけれど、専門の漁師はマグロだ・イカだと言い当てる。それをうまく使えば、AIが小さなマグロを検出していくこともできる。魚群探知機のデータをAIが解析して、漁師のアップルウォッチに魚の精度を報告する仕組みはできている。
- 「人間+人工知能」として賢くなっていく。人間の概念が拡張していく。
【人工知能は未来の経済をどう変えるか?】
井上 智洋先生 駒澤大学
- 文春新書から『人工知能と未来の経済』という本を出したが、帯の孫泰蔵さんの名前の方が著者の名前よりも大きく目立つ(笑)
- 雇用なき爆発的な経済成長が来ると考えているが、これにはポジティブ・ネガティブ両方存在する。
- 新しい技術の導入がもたらす失業は、産業革命以来繰り返し起こっていること。手織り工がラッダイト運動で機械織り機を壊したり、自動車が普及した20世紀に、馬車の御者が失業したりしてきた。
- 2020年に日本から確実になくなる仕事は電気のメーターを見て検診する仕事。この年にはスマートメーターが全過程に普及するので、人が見て回ることがなくなる。
- しかし、職業はそんなにポンポンとなくなったりはしない。オズボーンの研究結果が有名だが、仕事がなくなってしまうとは思っていない。職業が消滅するかどうかよりも、雇用が減るかどうかに注目すべき。これからどれだけ雇用が減っていくのか?と見るのが大事。
- アメリカの労働参加率・高齢化・IT化の影響を鑑みると、雇用が減っていると言えなくもない状況。
- IT化によって事務労働が減少し、現在の有効求人倍率は0.45倍で人手がだぶついている。ITによって長期的に減らされている。
- 汎用AI・汎用ロボットが登場したとき、人間が価値を出せるのはクリエイティビティ・マネジメント・ホスピタリティ
- AIでクリエイティビティを発揮しやすい・しにくいものがある。構成要素が多いか少ないかで考えた単純←→複雑軸と、考えるか感じるかで悟性↑↓感性という軸でマトリックスを考えてみる。単純で感性よりだと俳句になるが、複雑になると小説になっていく。感性が影響する方が難しいと日本人は思いがちがが、実は考える力の方がAIに人間が勝てる領域だ。
- 通常の職業の所得分布では中間層が最も高くなるが、クリエイティブ系職業の場合は中間層のピークがなく、貧困層が極端に大きくなる。ベーシックインカムはAIの進歩と共に考えなくてはいけない問題。
- 今のように人と機械の両方を使った経済経済成長率は2%くらいで横ばいになる。しかし、AIとロボットを組み合わせることで爆発的に成長することが数理的にわかった。
- はじめにテイクオフするのはアメリカだと思っていたが、今は中国・インドではないか?と考えている。日本は停滞してから後でテイクオフするのかもしれない。
【自在化肉体】
稲見 昌彦先生 東京大学
- ヒューマンインターフェース・バーチャルリアリティの研究を行っている。様々なセンサーやロボットの助けを借りて、人間の力を超えて振る舞えるようになるかもしれない。自分の後ろを写した画像をヘッドマウントディスプレイに表示しておくと、本来はない知覚がトレーニングされる。それによって、後ろから飛んで来たボールも受け止めることができるようになる。センシング能力の拡張によって思考能力も拡張する。
- 山本一成氏は人工知能で将棋名人に勝つのが人生の目標だったが、達成してしまった(笑)
- やりたくないことはロボットに任せれば良いし(自動化)、やりたいことは自分がどこにいてもやれるようにしたい(自在化)。
- 興福寺阿修羅像を参考にして阿修羅システムを作った。これは自分に2本の腕を追加し、足のコントローラで腕を動かす。やがて足の感覚と一致するようになる。
- 人機一体:社会と心とのインターフェースとしての新たな体。コンピュータを含めて自分なんだという感覚。
- ロボットがこれから何をしようとしているのかを表示する仕組みが望まれている。人工知能・コンピュータに任せきりが不安というのは昔からある。フィードバックの仕組みを作ることで、お互いにとって使いやすいAIシステムができるはず。
パネルディスカッション(2)
「多様化するAI活用の可能性と課題:経済と倫理を考える」
モデレーター:
池上 重輔先生 早稲田大学
パネリスト:
井上 智洋先生 駒澤大学
松原仁先生 公立はこだて未来大学
稲見 昌彦先生 東京大学
池上:打ち合わせのままだと、そのままだと盛り上がらないんじゃないか?簡単に答えられる質問を1つずつやっていこうと思う。
そもそも論のところでAIの定義がばらついていることを聞いて安心した。経営学でも「経営戦略」の定義がバラバラで、教員が10人いると定義が12種類あるとも言われる(笑)
ばらついているとはいえ、AIの共通項の定義があるとすると何だろうか?
松原:答えを言うと「ない」東洋的な研究者と欧米研究者で違う。
稲見:それは「知能の定義はあるか?」という質問でもある。知能の定義が違うからAIの定義が違って来るのではないか?
池上:すでにチームワークが発揮されていますね(笑)。井上先生、素人が考えると単純・複雑、感性の方にいくと考えがち。思考力悟性が大事というのはどうか?ビジネススクールでは感情の反対にロジックを置くことが多いのだけれど、悟性・思考力とロジックの関係はどうだろうか?
井上:ロジックはA=B、B=CならばA=Cとする。直感や知覚は難しいけれどAIでできるようになった。知覚的に得た「猫は鳴く」という情報から「猫ならば鳴く」という因果関係の連鎖を作るのはまだできていない。人間は因果の連鎖を作っていって、世界全体のモデルを作ることをしている。それが思考力。ロジックはその背後にある。
池上:その思考力に価値があるのではないか。井上先生が若い研究者とおっしゃっていたが、先生自体はアラフォー。AIではアラフォーがおっさん扱い。私は国際経営学会では52歳で若手の方なんですけど。そういうジェネレーションで動いている世界なんですね。
松原:日本で最年長が70歳いってないくらい、上がいない若い分野。
池上:稲見先生、自動化と自在化の話。自動化はない方がよいものを代わりにやってくれてマイナスをへらしてくれる。自在化はもっとあるものがありがたいものを増やしてくれる。そういう認識で合ってる?
稲見:その通り。両方にとってAIが必要になる。胃や心臓も同じ、勝手に自動でやってくれている。
池上:人の働き方が変わっている。企業研修をしていて、自動車関係の会社ではFuture of Mobilityについてハイレベルの情報を持っているけれど、同じものを見ているのに会社によって解釈が違う。
これからFuture of Educationについて議論してみたいと思う。教育の未来とはどうなっていくのだろうか?
稲見:教育がこの後どのように変わって行くだろうかという点をバーチャル化のトレンドの中で話す。何かがバーチャル化したときにイノベーションが起きている。歴史上、現物交換取引だったところから貨幣としてマネーが生まれた。社会のいろんなものがバーチャル化している。AIを取り込むことによって、実際のものよりも大きな価値を生み出している。
グローバライゼーションは単一世界ではない。世界はどんどん多元化している。今まではNHKしかなかったのが、多チャンネルに変わっているということ。チャンネルを切り替えていくザッピングがスキルになるかもしれない。
バーチャルユーチューバーという中身がいったい何で、何が起こっているのかさっぱりわからない。自分は過去に女性のCGキャラで授業をしたことがあったが、学生が真面目に聞いてくれた(笑)
これまではスーパーマンを作って行く教育だったのが、違う性質を持った人が組みながら、七人の侍を作って行くことが大事かもしれない。人間のヒューマンインタラクションが大事なのではないか。
井上:頭脳資本主義みたいなものがやってくる。ほどほどの教養を身につけて送り出せば良いとはならない。高度の知識・理解力を身につけないとビジネスマンとして活躍できない。縦軸に悟性・感性の軸を作った。商品企画・ビジネスモデルを作るのは悟性になる。モデルを作る力は日本は弱い。強いはずの、ものを作る力は将来的には価値を産まない工程になってしまう。
海外のサービスが多く、日本人がビジネスモデルが作れていない。普通の情報システムを作るだけでも高い知識レベルが必要。これまではあまり数学は使わなかった。歴史上はじめて数学がお金になる時代になった。
ただ、強迫観念的に勉強するのは良くない。OECD24カ国で調査すると、日本はトップクラスだった。その一方で知的好奇心はビリを争っている。勉強はできるのに勉強きらいな日本人。強迫観念的に学ぶ・働くのはよくない。
頭脳レベルを高めるのは大切だが、楽しんで学ぶことが大切。そうしないと、面白い・暮らしやすい社会になっていかないのではないか。
松原:教育は大事なことを覚える記憶が多かった。ただその分野はスマホの方が得意とする分野。将来的にはスマホの延長線上のものを必ず持ち歩くようになる。
井上さんのいう悟性をどう使っていくかが重要になるだろう。大学教育とか試験を変えるなどはその走り。今までそんな教育をしたことがない。記憶がいらないかというと、考えるために最低限な知識は必要。それをどう与えるか。必要十分なポイントがどこにあるかを考えなくてはいけない。
大工は見習い時代に修行して身につけた知識があれば、最後まで働くことができた。でもそんな時代ではない。
プログラム言語なども学生と同じタイミングで勉強しなくてはならない。新しいことを学ぶ能力を身につけなくてはならない。抽象化して新しいことを学び続ける必要がある。その能力を身につけさせることが大事。
池上:それぞれ被るところを絶妙に避けながら、論を立ててくれて素晴らしい!稲見さんの話で、AIのツール的な話をすることが多い中で、AIを通じて価値がどう変わっていくだろうか?アウトプットの目的がどう変わっていくのだろうか?今後の世の中に対しては「世界は情報が共有されて、統一化・フラット化をもたらす」「世界にさらに多様化をもたらす」という論がある。多様化・多元化の方向にいくという意見だったが、なぜそう考えるのか?
稲見:工業社会においては、如何にばらつきがないかが大切だった。それが工業規格。ただ、最近はゾゾスーツみたいなものも出て来ている。人間は衣食住が満たされたら、後は情報を食って生きていく。フラット化していない情報をいかに提供するか?その違いを大きくするようなところに価値がある。
井上:新しい価値を作らなくてはならないのに、文化的にはフラットになりがち。京都大学で立て看板を撤去するとか。カオス・野蛮なものがイノベーションの要因になる。なんでも綺麗にしてしまうと、想像力を掻き立てるものがなくなってしまうのではないか?綺麗になりつつある。
稲見:公共空間は1つしかないので、皆で共有するものはフラットになる。その一方で情報空間は汚い(笑)ポケモンGoの世界。
井上:ネットは大好きだ。情報空間にない現実のカオスを大事にしたいよね。
池上:カオスはルールのなさ、ルールの中で使われているもののわい雑さ。リアルの世界はルールがあり、程度のコントロールが効いている。早稲田の看板も減っているし(笑)
ネットはルールのスタンダードもつくられていない。リアルな世界のコントロール・抑制がかなり効いているようにも感じる。バーチャルな世界をうまく活用していくことで、野蛮性・わい雑性からくるイノベーションが促進される可能性がある。教育の場合もネットはエンハンスした方がよいのでは?
稲見:現実世界ではリアルに死ぬし、情報世界では社会的に死ぬかもしれない。リテラシーは必要。
松原:AIがブームなのはありがたいが、そもそもがとってもわい雑な学問。逆説的かもしれないが、私が人工知能をやると言ったときは、いろんな先生から止められたり白い目で見られた。ところが今となっては、目をキラキラさせて「AIやりたい」と学生が言って来るようになった。彼らには「AIはそんな健全なものじゃないよ」と言ってやりたい(笑)
教育はもともと型にはめるもの。一人ができることを統一化する。資本主義はそれでうまくいっていた。日本はまだそこから脱却できていない。
池上:イノベーションのネタがないわけではない。ストーリー・形にしてビジネスモデル・戦略にしていくところが弱い。ストーリーを持った構想力を磨く力が弱いのだとするならば、どうやったら強化されるだろうか?必要なのはわかったが、どうやれば良いのか?
井上:世界をモデリングする、抽象化して概念を組み立ててモデル化するなどの能力が格好な学問が哲学。日本は哲学の教育をあまりにしなさすぎ。逆にフランスは力をいれすぎ(笑)。抽象概念を頭の中で作って自由自在にグリグリ回すことが大事ではないか。
プログラミングはその能力を育てる技術。小学生からプログラミングさせるというのはSEを量産するためではなくて、アルゴリズム的思考を鍛えるため。
忘れてはいけないのは経済学。半分はポジショントーク(笑)。経済雑誌や日経で書かれているテーマをやっていると思われるが、経済現象をいかに数理モデルに組み立てるかという技能を必要とする学問。学生にマクロ経済を教えているが、数学や経済モデルに興味があってもなお難しい。計算問題は解けても、何をしているかわからない。教室でアンケートを取ったら「何してるかわからない」に全員が手を挙げてしまった(笑)このような教育は高校までに経験しないで来ている。早いうちから訓練してはどうか?
稲見:ディープラーニングは究極の詰め込み学習。そこから抽象化して構造化する。効率的な詰め込み学習を考えた方が良いかもしれない。これまでは無理やりとオーバーフィッティングで詰め込み学習した。AIから詰め込み学習を学ぶと言う逆説的な意見も思いついた。
松原:藤井聡太さんはAIから学んでいる。あれも一種の詰め込み学習。学習は一種強制力をもたないといけない。AIは文句も言わずに学習してくれるが、人間は途中で愚痴ってやめてしまう(笑)人間もある程度は必要。教育論システムとして加えていくことは大切。
AIでシミュレーションをして、AIをモデルとして人間もやれという学習をしていくことも大切ではないか。
池上:松原先生がおっしゃった。発射台として最低限の知識は必要。最低限の知識としてボリュームはどうなんだろうか? AIを参考に効率的に質の良い知識をいくつ放り込めばわかるようになるのでは?
幅もボリュームもある程度必要になるが、楽しくなるためのラーニングのメソッドがAIによって可能となるのでは?
稲見:オンライン学習では教わる人間側を最適化している。エンターテイメントコンピューティング。人間の達成度を見ながら出す課題をチューニングしている。教育もゲームで楽しい。ドラクエみたいに少しずつ強くなるとか。
井上:知識として学んでおく必要がある。効率的な詰め込み教育が必要。古典的な作品は思考パターンの宝庫なので、論語やシェイクスピアを暗記するのも大切。AIで楽しく暗記できるようにしてほしい。どこにパターンが埋まっているのかも気づかせてほしい。
空手で強くなるには型を覚えろと言われる。実際の戦いでは崩すかもしれないけれど、型を覚えておくのはだ維持。思考力も一緒で、思考のパターンを頭の中に放り込んで使い方を変えていくことが大事。
池上:教育テーマだけでも1泊2日議論できそう(笑)話は変わって、皆さんは日本をどのように見ているか?
松原:AIの本家はアメリカ。国というよりもGAFAみたいな引っ張っている会社になるが。日本は2位グループをずっと行っている。中国が出て来て、AIの学会の国際会議の発表件数が1位になった。日本は3位以下に。中国が本気出すとなんでも出てくる。
AIでは出遅れた傾向がある。日本にはソフトウェア軽視の傾向がある。足りないと言われて久しいのに、ちょっと厳しい。Googleは研究開発費を年間1兆円くらい出しているのに、日本の成長戦略が数百億円。1つの会社と比べても厳しい。同じことをやっていても難しい
日本にはものづくりやハードウェアとの結びつきがあるので、そこは強い。
もともとはソフトウェアに対する理解が弱かったと思う。
稲見:AIを定義できなかった問題。彼らが知的だと思っているところで負けている。仮名漢字変換、予測入力など言語情報があふれているのは日本が一番。漢字が忘れた人でもテキストコンテンツをたくさんつくっている。
紙すきのベテラン職人の動きもVRなどの分析システムを使えば、10回やってもらえれば動きをトレースできる。それを知的と定義すればまだまだ戦える。
池上:競争のルールメイキングが大事ということ
井上:中国の台頭が著しい。時価総額ランキングでちょっと前はアメリカが18社、中国が2社だけだった。しかし、今年のデータではアメリカ11社、中国9社まで来ている。米中以外の企業は入っていない。民間レベルでAIに力を入れている。中国はロードマップに従って着々と進めている。AIにこだわるのは、産業革命の蒸気機関みたいなもの。中国の首脳部は理系出身で、AIが大事だとわかっている。AIには国の生き死にがかかっている。それくらい大事。
日本は科学技術力が劣ってきている。論文数の相対的なシェアが減るのは仕方ないが、論文数が減っているのは問題。この20年くらいの教育研究に関わるのは間違っていたのではないか。
地方の国立大学の疲弊ぶりをなんとかしないと研究の伝統が途切れてしまうのではないか。科学技術立国として返り咲きたい。
池上:日本は2015年まで特許の数でカウントすると日本がトップだった。トップ100社のうち、日本が半分くらいしめていた。しかし、売上ランキングではトップ100には8社しかない、時価総額でも数社しかない。特許・技術はいっぱい持っているのに、ビジネスに使えていない。そこに大きな乖離がある。
どうやって銭にするかのプロセス論・ルールメイキングがない。その上、技術まで下がってしまってはどうするのか?
どうしたらよいのだろうか?イノベーション論・戦略論を見て来たが、どうやったらビジネスに変えるかという議論はまずない。イノベーションをお金に変える論はない。ブルー・オーシャン戦略がそれに該当していた。数少ない、天才がいなくても組織でイノベーションを起こしていく仕組みが述べられている。
池上:ソフトウェアとハードウェアはここがパラダイムなのでは?そこのパラダイムは変えなくてもよいのか?
井上:未だに日本を工業立国だと思っている人も多いが、サービス業は労働集約型産業と考えられていた。生産性の効率は上がっているが、美容院で髪を切ってもらうのはまったく変わっていない。生産性を上げる可能性があるところはAI
ロボットの部分に限られる。事務作業など専門職のお仕事の省力化を図っていく。めんどくさいことはAIにやらせる
池上:今までの議論は暗黙の前提として大企業を想定していた。中堅企業や非テクノロジー企業も多い。そのような会社に対するアドバイスはあるだろうか?
稲見:コンピュータプログラマの話。AIにおけるアップルみたいな会社が生まれてくれば、生産性を上げて楽しく仕事をするために生まれたものが普及し、機能がどんどんバーチャル化される。
第1次産業的なところはモノなので残る。地域とAIの関係性なども考えなくてはいけない。
松原:地方では小さい産業が多い。どうすれば良いんだ?という話はある。まだ過渡期。プロを育てるのはうちの大学がやっているところ。AIのプログラムをもっとかけるように。近い将来はいる。今からAIの勉強をしてくれるのが良い。導入チャンスになったときに頑張ってくれると良い。
池上:興味を持て、心の窓を開け、知的好奇心の対象を持てということ。ITリテラシーがハードルだと結構高い。
井上:建設業界の中小企業の事例では、建設現場からファックスが送られてきて、人間がタイピングして文章に起こしている。OCRで読み取れば省人化されるのだが、職人の中には癖のある字を書く人も多い。そもそもメールで送れば解決するのだが、年配の人ばかりでスマホすら使えない。年配の人にタイピングを覚えさせるのは難しいかもしれないが、音声入力などを使ってスマホを使えるようになってほしい。なんでこんなにファックスがつかっているのかな?年配の方に楽しく講習会に出てもらって、 陽気な先生が出ると良さそう。
池上:とても根深い問題で、パンドラの箱になっている。最初に来るのがソリューション。AIを使う前にITだろう。その前にファックスからITへ動け(笑)
ゼミのIT企業に勤めている学生が中小企業のクラウドのスタディをしたけれど、愕然とするくらい低かった。現実を知らなかった。
それを教えよう、頭を変えてもらおうという教育のところ。身体性まで考えて、高齢者向けに考えた方が良いのかもしれない。調べた方が良い。AIを使って使い方を教えるなど。ぐるっと回って解決するかもしれない。
稲見:福祉工学の考え方では「障害者はいない、技術に障害がある」と考える。ITに高齢者とコミュニケーションをとるリテラシーがないはず。ボイスコントロールであれば高齢者も使いこなせるはず。はっきりと話すことが大切。
対人コミュニケーションではなく、対AIコミュニケーション教育が盛り上がるかも。がはっきり喋る必要があるなど。翻訳されやすい日本語をどう書くかとか。
松原:いかに機会翻訳でうまく翻訳される綺麗な日本語を書くかというコンテストがあった。すごくいい英訳される日本語を書けるようになる。人間とAIの両方があることを前提とした教育もありうる。英語下手だから、グーグルがわかるようなアブストラクトを書けば良いのだ。そういったリテラシーが必要。
井上:だいたい稲見先生にいわれた(笑)画像認識のレベルがあがったし、音声認識も使われている。これから機械の耳も非常に大事になる。ボイスコントロールができるよういなってくる。
池上:多様な発車台から始まって、微妙な意見の一致を見た。これまで多くの2014-15年からAIのシンポジウムがビジネスサイドで開かれるようになったが、当時はウェイクアップコールのような内容だった。ポジショントークのプッシュセミナーが多く、どうすれば良いのか、我々は?というAIセミナーが多く開催されていた。
しかし、今回はどうしたら良いのか?に力点を置いていた。どういう準備をして何を学ばなくてはならないかを今後も考えたい。
【Methodology for optimizing and a sharing Holographic Space】
落合 陽一先生 筑波大学
- 学生40人&スタッフ10人いるが、教員は自分一人だけ。ピクシーは17人くらい。
- 20世紀 映像のプラットフォーム 2次元平面 光と音
- 21世紀 1人ごとに違う光と音
- 耳が聞こえないと聾学校にいかないといけないが、全ての音声が文字化されて表示されれば大丈夫なのではないか?。
- 高齢化・人口減少の問題が大きい。サービス付き高齢者住宅も増えている。そこでどうやってヘルパーが楽な車椅子を作るか?については、現場の人とコミュニケーションをしなくてはならない。それらは「おはよう日本」で紹介されて終わりではダメ。「おはよう日本」の先にいくためには必要なものを揃えなくてはならない。
- 2014年ごろは簡単なデモで通じた。養生テープとミスミの機械で出来たが、もうアウト。ITビジネス的にも勝てない。科研費からのファンドレイズでは足りない。自走しないとIT系の研究はできない。純アカデミックはむり。
- 耳が聞こえない人向けの製品を作っても、聾学校の生徒1万人がマーケットでは市場拡大が狙えない。でも、年をとって耳が聞こえなくなったら利用者は増える。マーケットストラテジーが違う。そこをサポートするのはクレバーな考え方。
- 人口の曲線が切実な問題だと思っている。有権者の半分が65歳だと、科学技術イノベーションよりも保険料が安くなる候補に票を入れる人が増える。東京はそうかもしれないが、地方は違う。
- ロボティクスと自動化を駆使して「テクノロジーこそが社会保障である。高齢化にテクノロジーで向かい合う」スタンスを打ち出すこと。そっちの方にエネルギーを向かわせる。介護雑誌に連載を始めたのも、現場のヘルパーさんが読まないと始まらないから。
- こんな人口カーブをたどる国は少ない。ミクロネシアにある島が地球温暖化で沈むと言われたかもしれないけど、他の国にとっては他人事。日本の高齢化社会で話すと「日本は大変だね」と言われておしまい。
- オーディオ・ビジュアル・触覚・ロボをやっているが、やがて限界費用ゼロ以外のものを配置できなくなる。
- 目の前に相手がいなくてもできることは多い。風邪をひいたときの診察とか、UFOキャッチャーの操作とか。
- 義手・義足の問題ではヒーローが足りなかった。自分事として社会実装してもらえれば共有できるし、これがとても重要。実際のユーザーにプログラミングしてもらうということ。障害のある人を集めて機械学習の勉強会をひらく。
- 問題がTechとSocialの2つの問題がある。
- ダイバーシティの社会をサステイナブルにできるか?多様なやばい社会になっている。ユーザーと一緒に解決していくためのフレームワーク作りをやっていかなくてはならない。
【AI時代の共通価値創造経営】
名和 高司先生 一橋大学
- ポーターの弟子。ポーターは競争戦略で人をどうやって蹴落とすかを考えていた(笑)。これからは社会的な価値を上げながら、企業的価値を上げていく。
- 私はAIではなくてCI(コラボラティブインテリジェンス)と呼んでいる。AIと一緒に何かをする世界で、それは生産性が上がって良い。CSVをCIを使って実現する。
- 先進事例はGoogle。「邪悪になるな」とあるが、ペンタゴンからドローンの受注をして研究して良いのか?と社員からの反対があったときも中止した。どんな個人でも追跡できてしまうドローンは悪となった。
- Google Xの製品でGoogle glassがあった。3000ドルもしたが、レアものだから買ってしまった。しかし、3ヶ月後に商業化をやめてしまった。盗撮できてプライバシー侵害につながり、反社会的なネタに使われるのはやめようとなった。
- Google Xでは「Huge problem」「Radical Solution」「Break through technology」の3つの輪の交点を狙う。Xの意味は「10年掛けて良い」「世の中に10倍のインパクトを出す。ムーンショット」。これはトップ三人が75%の株式を持っているから実行できている。
- Google Yは社会インフラ。サイバーフィジカルなものを作っていたが、インフラがY。AIが入った渋滞を避けるエンジンなど。単純に迂回路を示すと代わりに迂回路が混んでしまうが、車の流入を最初から避けるやり方がある。例えば混雑しそうな道に入りそうな車が入るのをやめるとポイントが貯まるなど。
- ファーストリテイリング(ユニクロ)は社会を変えようとしているCSVのベストプラクティス。20世紀の服は他の自分に化ける服だった。しかし、ユニクロは一番心地よい服を目指している。しかし、これだけだとただの哲学。
- ZARAは3週間で全部仕上げてしまうバリューチェーンを作っている。中国で服をつくて、一旦スペインに全部集めてから販売地域に空輸している。これではCO2ばらまきまくり。
- ユニクロの場合、バリューチェーンではなくてバリューサークルにしている。注文を聞いて体に合うものを作る。顧客に5日間待ってもらって、もっともフィットするものを届ける。
- アパレル産業は無駄を作る産業。ものが少なくなると機会損失になるので多め作る。次の年になると売れなくなるので、そのシーズンの終わりが近づくとセールを初めて売り切る。ZARAは敢えて品薄に作っておいて、今しか買えないという感じをだしているが、ユニクロは最初から無駄を省いて7割の価格で売る。そんな商売をやろう。情報製造小売でAIをふんだんに使いながらやる。
- 味の素:みんなで食べると美味しい(共食)が、最近では1人で食べる孤食が多くなっている。孤食では食が細い、あまり食べない。アルコールを飲みすぎる。皆で食べるのが楽しい。味の素的にはいっぱい食べてもらわないといけない。
- 味の素の研究テーマでは人間心理を科学している。楽しい食べ方をするとハッピーになる。今希少価値があるのはハピネス。
- これは東大松尾先生とタッグを組んでやっている。AIは日本は遅れてしまっている。金融と医療はだいぶ遅れてしまった。しかし、車と食はいろんな人が関わる。
- 自動車業界ではAIを使いこなすか?がとても重要。プリファードネットワークはトヨタと組んでエッジコンピューティングをやっている。クラウドではサイバー・フィジカルはできない。命に関わるものをサイバー・フィジカルに落とし込むには、スピードのずれが許されない。クラウドではなくてエッジである必要がある。ステアリングに脳が入っている。瞬時に反応できるように自律分散型で機器の中に埋め込んでおく。
- 機会の中に脳が入っている世界は実装技術が大事になってくる。フィジカルのチャンピオンである日本がまだ入っていける世界。サイバーフィジカルになるほどやっていける。ソフトバンクがアームを買ったのもよくわかる。
日本的なCSV(J―CSV)の可能性を探る。マズローの5段階欲求で見た時、低次の欲求が解決されると即座になくなってしまう。生理的欲求・安全欲求は進行社会的課題fearにつながる。所属と愛の欲求・承認の欲求・自己実現の欲求は成長社会的課題Greedにつながる。5段階を超えた自己超越の欲求は成熟社会的課題Mindにつながる。
からだの健康は当たり前、こころの健康までを見る:
安全 → 安心
ランドスケープ(もの・風景) → マインドスケープ(心象風景)
健康 → 幸福
共感共創力:
個 → 共
狩猟民族 → 農耕民族 → 遊牧民族へ
必然 → 偶然(セレンティピティ)リコメンドばかりが増えると、セレンティピティがなくなる。
日本的価値観
品質 → QoX( Quality of something)
Pure → Fusion
交感神経 → 副交感神経
Mouthful → Mindful
- 自動車メーカーはQuality of car ではなくて、Quality of mobilityを目指すべき。
- 刺激が強いコーラの時代は終わった、これからはカルピスの時代。
- 禅のメッカは日本。海外からの客を禅寺につれていくと喜ぶ。自分の心の静寂に戻るのが大事。そのメッカは日本にある。
- 人間とAIが共創して価値を作ることが大切。
<2日目>
【開会挨拶】
川上 智子先生 早稲田大学
- 1日目夕方の懇親会は大勢の方に来てくださった結果、食べ物が足りなくなった(笑)
- ブルーオーシャンは競争のない市場を作り出す。どうやったら見つかる?ではなく、作るもの。ユニークなアイディアを思いつくことも大事だが、作り続けることが最も大事。
- グローバル人材育成はWBSに来て4年目。前職である関西大学で学部生を教えていた。ビジネスリーダー特別プログラム2008年に5000万円の補助金を頂いて作った。2年生の秋学期から学生45人をTOEIC400点から700~800点まで上げる。教育は時間を経ないと結果がでない。教え子たちが世界各地に赴任して海外でゼロから立ち上げる根性を身につけた。南米・インド・ヨーロッパ・アメリカに飛びだっている。教育でグローバル人材を育成可能ではないか?と考えている。ビジネススクールでもアカデミックとプラックティスの両方が大事。
- 1日目だった昨日はWBSの修士論文提出日だった。ビジネススクールで論文は必要か?という議論はあるが、インプットされた知識について、頭で考えてアウトプットしていくプロセスは大事だと思っている。論文を書いてもらう指導の意味を確認できた。
【挨拶】
林康夫様 日本貿易振興機構(JETRO)顧問/元理事長
- 2001年に発足したドーハ・ラウンドがデッドロックになった。その後、二国間・多国間のFTAにシフトしている。WTOも死に体になってしまった。
- 中国が急速に台頭して来て、自国の巨大マーケットをベースにした市場歪曲的な行動をとるようになった。統治システムと一体化したデータ管理に走り始めた。
- アメリカが自国優先主義で関税を引き上げている。結果、米中が勝手な行動に走り始めている。世界経済の発展を支えて来た自由貿易はどうなるのか?
- FTAは結果として締結国のマーケットの拡大をしている。韓国は小さなマーケットだったが、FTAが70%くらいをカバーしている。日本は20%くらい。国内マーケットの成長が促進される。
- 日本のFTAを拡大していくのはMUST。TPPはアメリカの離脱によってTPP11に合意している。非常に重要な発展を支える。
「国際経済連携協定の現状と今後を考える」
モデレーター:
井之上 喬先生 京都大学
パネリスト:
澁谷 和久様 内閣官房 TPP 等政府対策本部 政策調整統括官
林 康夫様 日本貿易振興機構(JETRO)顧問
渡邊 頼純先生 慶応義塾大学
中林 美恵子先生 早稲田大学
青木 康夫様 一般社団法人日本自動車工業会
井之上:自民党はTPPに反対だった。6・29に手続きが終わった。
【TPP11の合意と今後の対応】
澁谷 和久 内閣官房 TPP 等政府対策本部 政策調整統括官
- 茂木大臣とアメリカとの通商協議を担当することになった。2016年TPPの国会承認が通ってすぐにトランプ大統領に変わったが、TPP11関連の国内法が成立し、ニュージーランドに通報した。
- アメリカは離脱したものの、せっかくまとまったTPPを日本がリーダーシップをとってまとめてくれとオーストラリアとニュージーランドから言われた。日本がやるなら付いていくと言われたのが印象的。
- 指定交渉官が着任したときに状況をお伝えしたら「オーストラリアとニュージーランドが日本のサポートをしてくれるなんてあるわけない」と考えられていた。日本が言えばどんどん書類を作ってくれる感じになっていた。年内には6カ国が揃う(最初の6カ国はTPP新規加盟国の面談ができる)
- 営業秘密を盗んだら刑事罰という項目も加わった。医療機器事業でベトナムに投資したい中小企業も知的財産が盗まれることを心配していた。TPPの条文を見て安心して投資できるようになった。グローバルに踏み切れなかった中小企業を助ける効果もある。
- TPP11はGDP1.5%押し上げ効果を見込んでいる。新輸出大国・国内産業の競争力強化・農業体質強化といった影響がある。
- イギリスは50人くらい住んでる小さな島がイギリス領になっていて、太平洋に面していると主張している(笑)
- アメリカはこっちが日程を提示しても全く返事がこない。アメリカが締め切りを設定したときは、まだかまだかと追及してくるのに(笑)
- 対日貿易赤字は689億ドルだが、在米日系企業による米国からの輸出額が757億ドル。1980年代とは違って、アメリカで走っている日本車の8割はアメリカで作っている。
- アメリカは自分からTPPに戻るとは死んでも言わない。「TPP11が発効したらアメリカが損をする。どうしてくれるんだ」とは言ってくるが(笑)、戻るとは言わない。議会もトランプに何も言わなくなった。USTRは業界団体に案を作らせて交渉してきたが、今は業界団体とのパイプが切れている模様。
【日本のEPAの現状と今後の展望】
渡邊 頼純先生 慶応義塾大学
- 日本の経済連携協定EPA は対外貿易の35%をカバーしている。
- 2つのフロントがあって、1つは東アジア(RCEP・日中韓FTA)で、もう一つは環太平洋(TPP・日カナダEPA)この2つをアジア太平洋自由貿易圏FTAAPに流し込んでいく。APECではこの議論をしている。2025年には作りたいという議論をしている。
- TPPからルールメイキングやマーケットサクセスをRCEPなどに持っていく。日本が中核的な役割を果たす可能性がある。
- 通商政策は今ほどやっていて面白い時期はない。
- トランプの通商政策はマルチ・プルリからバイへ 二国間へのシフトでWTOは無視。自由貿易ではなくて貿易収支が均衡する公正貿易を主張している。
- TPPとRECPは補完的な関係にある。決してTPPを敵視しているわけではなかった。共産党のリーダーによれば、TPPは中国封じ込め政策と言っていたが、中国にとって第2のWTO加盟と言えた。中所得国の罠を抜け出すための刺激が必要。アメリカのTPP離脱の後は一帯一路の方に集中していた。
- TPPも大事だが、RCEPも大事という立ち位置で、日米FTAは避けるべき。TPP12は偽装された日米FTAとも言える。結びたければTPPに戻るべき。
井之上:1990年代の日米自動車摩擦では、ローカルコンテント法があってアメリカに日本から輸出する場合は、一定量をアメリカで生産しなくてはならなかった。トランプはそういったことを気にしない。米中の貿易問題にしても、ユニラテラルな国になろうとしている。
青木:TPP/日EU・EPAへの期待している。国内生産と輸出が拡大する。海外生産は日本生産の2倍くらい。グローバルな完成車供給体制
林:日米自動車協議では、アメリカは自国に合わせろという基準を要求してきた。日本はインフラ輸出をしようとしているが、基準が各国によって違う。電車では日本は線路が複線だが、外国は単線が多い。そのため列車の衝突対応が厳格だったりする。各国のニーズに日本企業が合わせる形で調整する。自動運転などはどこの技術かとしのぎを削っていくことになる。家電はあまり基準というものがない。
井之上:海外にいくとコンセントが違う。それを揃えようという議論はあるか?
林:あまりない。ヤード・メートルの統一などはあるが、家電で何か統一しようという動きはない。安全に関わる議論が多い。
井之上:中林先生はアメリカ共和党の中で仕事をしていた。トランプの行動はplus minusもあるが、どうだろう?
中林:国際経済連携協定という言葉に、トランプ大統領はふさわしくない存在(笑)。アメリカ国内の状況を見てみると、トランプ政権だからとは言えない状況がある。オバマ大統領が進めて来たTPPだが、民主党のヒラリーもTPP反対を打ち出した。どうしてこのような事態になったかを考えると、アメリカの国内の状況が強く影響している。本来、共和党は自由貿易を推奨してきた党。自分が10年間予算委員会で仕事をしていたときも、共和党で仕事をしてきた。しかし、共和党の中も変質しつつある。とくに3月~9月まで政党内選挙である予備選挙が行われている。現職の共和党の下院議員(トランプ反対派)が負けた。議員の問題というよりも、有権者の中にトランプ的な要素が根付いている。たくさんの州で、共和党の中でトランプに反旗をひるがえす議員が敗れている。上院でも外交委員会委員長もトランプ派。中間選挙を通して、共和党の中身がどう変わっていくかをみることで、国民が自由貿易協定を見ているかがトランプ政権の政策に反映されるのではないか。共和党支持者の中では世論調査で9割の支持率。今後、民主党がどれだけ健闘するか。本来は労働組合をベースにしているので、保護主義のケースが強くなる。共和党の中の変質を見ていくべき。トランプが異常だと言われがちであるが、もっと大きなアメリカの地殻変動を見ていくべき。
井之上:米中貿易摩擦では報復が必ず出てくる。アメリカは貿易赤字だから。株価は下がるし、トランプの票田の産業にたいして関税をかけてくる。トランプ支持が続くのかという点も考えておかなくてはならない。
7月1日RCEPの閣僚会議 急激に場面が変わって11月に決着という話になってきた。
渋谷:TPPが発効しそうで、アメリカが焦っている。トランプ政権の影響もあると思う。RCEPは中国だけでなくインドもいる。通商交渉の中ではアメリカ・中国・インドが交渉相手としては大変。TPPが良い影響を与えているのは事実
井之上: 世界GDPに占める割合はNAFTAが22%EU6%、TPP11は世界GDP13%程度の規模。米国が入っていないといって悲観することなく、日本も一緒になって繁栄を享受していけばよい。
渡辺:農産業で82%まで関税撤廃ができた。TPP交渉2013年からやってきた。日本の農業にとって変化の兆しがあった。交渉に入る前2011年~12年は講演会でTPPについて話すと「国賊!」とヤジられた(笑)。今はTPPを使って農業をどうやって強くできるか?という質問が飛んでくるようになった。
北海道では1農家あたり敷地が38ヘクタール。日本全体では1.9ヘクタールなので20倍違う。北海道の農業は競争力がある。TPPを使って北海道で豊かにとれる乳製品を活用して、中国に売るといったことができる。中国のインバウンドの人たちは日本の粉ミルクは安心と買っていく。日本製のミルクを作って中国に売る。TPPを使って伸びていく可能性がある。
日本のマーケットアクセスを開いて来ただけでなく、農業コミュニティのマインドセットが大きく変わって来た。プロアクティブな農業をやっていくことが大事。マーケットをアジア・太平洋だけでなくて南米やアフリカにも広げていく。今までのFTAで扱ってなかったエリアに広げていく。日本の通商戦略には伸びしろがある。
井之上:安い小麦や大豆が入ることで、食品加工を起こすことができる。日本に安く手に入るようになれば、消費を増すというよりも商流に回して世界に輸出できるのではないか。そのようなマインドセットも大事。いちごやピーマンの出来はすごい。世界に影響力を行使しながら良いものを配給できると良い。
中国の貿易政策はどうか?WTOに収斂されるのが良いのか?
林:アメリカは自国中心主義を長らく続けて来た。ニクソンショックに遭遇して大変な目にあった。金ドルの交換をやめて課徴金を課した。2009年にラオス会議でフロアにいた議員から手が挙がって「アメリカで橋をかけるのにアメリカの鉄を使えと要求して何が悪いのか?」と主張していた。「それは当たり前だ」という感覚がある。アメリカもそうだし、中国も自国中心主義が蔓延している。その主張が強くなっている。アメリカに対してその方向を変えるのはとても難しい。
RCEPなり日・EUなどの包囲網を見せて、輪に入らないことによる不利をアメリカの国民に思い知らせることが大切。日本の立場が強くなっている。
中国との貿易戦争。貿易赤字が増えている、中国の自国中心「製造2025」では外資の資本参入とか技術供与、生産割り当て、インターネットの統治システムと一体化した公安に届けろと言われている。世界のインターネットの情報を自国のために使っていこうという姿が顕著に見えている。アメリカはそれに対して戦略的に攻撃している。トランプ政権もそこをついてやってほしいとは思うが、アメリカも自国中心主義で動いているのでよくない。
新しい国際ルールを作るつもりで展開してくれれば良いのに。ヨーロッパも非常に関心を持っているGDPRの規制は中国にデータを利用させないという意識もある。しかしヨーロッパもヨーロッパのためにやるという気持ちがある。本当にこの中で新しい貿易秩序を作っていくべき。日本がイニシアチブをとってほしい。日本の役割が大きくなっている。
フロア:これからの米国について、反グローバルのトランプ現象は一時的な現象ではないか?11月に中間選挙があり、民主党が強くなるのではないか。あと2年は我慢することになるが。
中林:日本の取り組みは、安倍さんが筋が通った発言をするとトランプから煙たがれる(笑)。うまい距離感でやらないとダメ。トランプ政権が短い方が良いという気持ちが多いのは山々。大衆の気持ちはエリートとは異なる。4年トランプが続いて、政権が変わるとアメリカは元に戻るかもしれない。しかし、もう一回トランプが勝つと元には戻れない。
移民の問題があるが、いまだに世界中で一番移民を受け入れているのはアメリカ。自由貿易をリードしてきたのもアメリカ。自分たちの状況が変わって、自分と同じだけの重荷を肩代わりしてほしいと要求している点もある。アメリカの担って来た役割を客観視して、なぜ閉鎖的になっていくのか原因を考えていかなくてはならない。日本もアメリカが背負って来た役割を肩代わりしないと。
渡辺:トランプはあと2年ではないかという意見はあったが、私は再選の可能性もあると考えている。地殻変動の影響は大きい。もう1期あるかも。イバンカ大統領という話もあって、トランプ王朝が続いてしまう。北朝鮮とのやりとりには良いかも(笑)。鉄にしても自動車にしても、実は古くて新しい問題。自動車摩擦は恒常化している。アメリカファーストの大統領はトランプが最初ではない。危機を感じながらやってきたので、アメリカにたいして抵抗力がある。その交渉を担う人は大変だけでど、我慢強く接して来たので、もう一我慢。貿易摩擦を乗り越えるには、中国やEUとは異なる形でアメリカに対応していく必要がある。「晋三、お前だからこれで住んでいるんだ」とトランプは語ったといっているが、WTOのルールでしたがって正論を言いながらも辛抱強く交渉する必要がある。
青木:中国の新エネ規制では18年からの規制導入を阻止した。次世代車規制で中国は自分の国から車を外に出すつもり。
渋谷:トランプになる前からアメリカは通商交渉の場では自分勝手で、自分の主張だけして押し通す(笑)他の国にどう思われても良いというのがアメリカのスタイル。
「このままではマレーシア・ベトナムが出ていくので皆が飲めない案にしないと」と日本が伝えた。日本の農業で例外を認めてもらった。TPP11では凍結案の調整役をやった。チリの署名式前の閣僚会合では、スピーチは茂木さんが最後だと伝えられた。すると、日本に対する感謝が述べられ、最後に皆で拍手をしてくれた。TPP11は日本が攻めるべきところをせめ、守るべきところを守った実績。日本がまとめるならついていくぞという雰囲気が出ている。自国中心論に対して、日本独自のやり方をペイシェントにやっていくことが大切。
林:アメリカは民間の意見を政治に反映させるメカニズムが強い。歴代政権もそうだったし、民間に言われたことがパッと政府から出てくる。ラストベルトなど苦労しているところもあるが、民間に分からせることが重要。農業でも工業でも関税引き上げ合戦をしたらデメリットになると思ってもらわないといけない。民間の方から出てくるように進めていかなくてはならない。
井之上:アメリカの戦略はいかに国の消費者にメリットを与えるかを伝えること。日本は流れの中でやってきた。世界貿易の流れも変わってくる。日本にぜひ抑制の効いたリーダーシップを発揮してくれると良い。
【AI時代のSDGs活用企業戦略】
笹谷 秀光様 株式会社伊藤園
- CSR・CSV・ESG /SDGsをやって来た。
- SDGsは2016年~2030年で解決しなくてはいけないテーマ。五輪の調達ルールはSDGsに乗っ取るとIOCルールで決まった。日本ルールではない。
- 「14海の豊かさを守ろう」であれば、五輪で提供する魚料理の魚は、持続可能なルールで作っているか?認証制度はあるか?休漁期間を設けたり、網でいっぱいとることをやめたりしているか?などと言われ、慌てて認証制度を整備した。五輪の中継車は大丈夫か?仮説の木材を作った時の撤収ルールはあるか?など多くの問題が浮上しているが、ある意味SDGsは五輪が絶好のタイミングでもある。
- SDGsではPeople・Prosperity・Planet・Peace・Partnershipの5つのPに分類される。持続可能な開発目標であり、持続可能性の共通言語とも言える。
- 世間を考えるモードで、できるだけビジネスにつなげる。企業の力抜きで世の中にインパクトを与えられない。エリクソンは即座に17項目全部担当役員を決めた。住友化学はやっていた。世界中が一斉に動いている中で、日本はいまだに解読作業中。
- 身近な技術がSDGsとリンクして説明できるとわかりやすい。考える過程も大事。
- 世界に向けて良いことやってるねというコーポレートブランディングと、私はそういう良い企業に勤めているというインナーブランディングの2つのご利益もある。
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