2017年3月6日月曜日

20170118

『経済数学の直観的方法 マクロ経済学編』『経済数学の直観的方法 確率・統計編』(長沼伸一郎:講談社)


現在の経済学は物理学に基づく数学で記述されており、文系コースから経済学に飛び込んだ学生を奈落の底に突き落としている。
一方、理系コースで学んだ学生は、馴染みのある物理の方程式が突然経済学の中に登場してくるため、背景のメカニズムが不明瞭なまま話が進んでしまう。
本著は文系で数学に挫折しそうな経済学部(&大学院)の方と、理系で経済学を学ぼうとしている方を対象とし、数学を歴史的背景・直観的な図&例えを用いた解説によって理解してもらうというコンセプトでまとめられている。

【概要】
マクロ経済学編ではミクロ的視点から出発してマクロ経済を描く「動的均衡理論」の理解を目標としている。
「光は到達時間Tが最短となるような経路を進む」という光学におけるフェルマーの原理から出発し、ラグランジアンLを最小化する解析力学を経済学に応用して、コストの最小化・利益の最大化で均衡するポイントを探す。
確率・統計編はミクロ経済やファイナンスに該当する内容で、正規分布から最小二乗法・中心極限定理と進み、テイラー展開を経て確率微分方程式からブラック・ショールズモデルの解説まで行っている。
確率・統計からポートフォリオによる安全資産の利回りを求めて、そこからオプション価格を算出する。
数学の歴史的背景や、そもそもの考え方の出発点などの記載が豊富で、普通の数学の教科書よりもシンプルながらも本質をストンと理解できるような図が多く「そういうことか!」と感じることの多い本だった。
偏微分方程式の考え方とか、ラグランジアンは最小化・ハミルトニアンは一定に保つとか、数式上でしか考えてこなかったところに意味を与えてくれたのは大きな学びだったかなと。理系で経済を教養として学びたい方にはオススメ。
本著で想定する「文系読者」とは経済学をガチでやる羽目になった人なのだが、高校の理系数学を何かしらの基礎本で勉強してから本著を読む方が良いかもしれない。
自分なりに苦労した経験を経ないまま直観的説明を読んでピンと来るかな?という印象。
理系の先生の「わかりやすく説明すると」はわかりにくいという定説もあるからね(笑)

割と本文中では脱線も多く、経済や数学にまつわるエピソードや著者の信念みたいなものが垣間見えるのがユニーク。
・微積分の世界史的意義の方がルネッサンスよりはるかに決定的
EUは自分たちが作った無理な世界史のストーリーに今の翻弄されている
・日本には数学(和算)はあったが物理学がなかったので科学が発展しなかった。文明開化で海外から最先端の科学が入ってきても、数学の解法だけは追いついていた
・ガウスは確率論に神の指紋を見つけた。他の大多数の学者は人間の手垢まみれで見つかるまいと思っていたから、天体力学と比べて200年遅れた

この手の本にしてはロマン溢れる表現が多く(笑)面白かった。


0 件のコメント:

コメントを投稿