木曜は立本先生の「製品アーキテクチャ論」
「セガ田三四郎」の名前をWBSの授業で聞くとはな(笑)
<ケース研究の分別>
日本で「ケーススタディ」というと2種類存在するので、混乱しないようにご注意あれ。
- 事例研究法:事例を詳細に調査して科学的な法則を探る。正しい答えを求めて、科学的知見を得る。
- ケースメソッド:事例を使ってディスカッションを行い、理解を深める教育。正しい答えである必要はなく、スキルの訓練に主眼が置かれる。ディスカッションが盛り上がるように、敢えてクリティカルなエビデンスは加えない判断もありうる。数字を落としたり編集したりしているので、ディスカッション目的以外で使うときには要注意。全てがファクトとは限らない。
<科学的ケーススタディの要件>
1研究デザイン
- 定性的アプローチの妥当性(なぜ統計ではなく事例分析なのか?)
- 研究のコンテキスト及び対象の選択理由(なぜその対象を選んだのか?)
- インタビュー対象の選択基準とプロセス
2データ収集(インプットのデータが正しいか?信頼性)
- データの三角測量:シングルソースで結論を出さない。
- データの記録法の客観性
- インタビュー・プロトコル
3データ分析
- データ分析の方法とプロセス
- コーディングツール
- 分析はコーディング結果の妥当性・信頼性
<重視すべきポイント>
トライアンギュレーション(三角測量):入力情報の信頼性の確保
- 1人にインタビューしても、それが正しいかどうかはわからない。2人以上に同じことを聞いてファクトを確かめる。
- 1次資料(インタビュー)と2次資料(文献)との間ですり合わせる。対象の回顧バイアス(昔話美化)・主観バイアスを避ける。
- マーケットにおけるポジションによって、インタビューに対する答えが変わってくる。属性のバイアスを除去するような対象にもインタビューに行くことも必要。
- 国際ビジネスの場合は、国籍もバラした方が良い。国によるバイアスも存在する。
- 情報量については、情報ソース(インタビュー・書籍・レポートなど)が20~30以上あった方が望ましい。少なすぎると偶然誤差が避けられない。
- ベテランはインタビュー時に無意識にやっており、思いがけないコメントがあったときに強く反応する。
研究デザイン:ロジック(因果関係)を抽出する推論の妥当性
- やりたい分析と研究テーマは不可分な関係。
- 科学的知見を出そうと思ったら、実は自由度は少ない。
- 常識ではなくて事実で判断しなくてはならないので、常識はずれの結果が出たときにきちんと対応できるように作法の方を厳しく縛っておく。
<ミルの因果推論法>
事例研究(比較可能な複数の事例を持ってくる。典型的には2)
- 一致(合意)法:複数事例で共通な結果を持つとき、共通の要素を原因と見なす。パターン認識しているだけ。
- 差異法:成功と失敗の結果を揃えたとき、異なる要素を原因と見なす。一致法よりもスッキリする。
- 一致差異法:一致法と差異法を同時に行う。
統計研究
- 変動法:2変数が相関しているときに、因果関係があるかもしれないと結論する。
- 残余法:重回帰した結果に基づき、因果関係があるかもしれないと結論する。
<単一事例分析>
- 破綻企業分析:決定的事例・逸脱事例分析など、事例が1つしかない場合は科学的分析まで行くのは難しい。
- キング・コヘイン・ヴァーバの3者が本を出しているが「単一事例では無理です!」が強いメッセージ。
- 場所や時間を分けて観察して比較したり、概念を抽象化して他事例に適応して比較したりする。
- 「通説通りならこうなるはず(Most Likely Case)」「通説通りならこうならないはず(Least likely Case)」という理論事例と実際の事例(反例)を比較し、通説を批判する事例研究法。通説がよほどしっかり醸成されていないと納得感がわかない。
- 藁人形論法「世の中一般はこうなってますよね」という通例を生贄にして反例を出す。実は仮想値・理論値が導けるくらいに下積みをしておくことが必要。
【インテルのプラットフォーム戦略】
- プラットフォーム企業は周辺市場参入を行いやすい。しかし、インテルがCPUだけでなくてパソコンも作るわ!となると、補完企業の投資意欲を削ぐ。ユーザーや協力企業のモチベーションを下げてしまう危険性もあり。
- 最初の頃はただの半導体メーカーだったが、1992年ごろから売上が急増するようになり、1995年にプラットフォームが完成したと言われている。
- 80年代半ばまで、メインビジネスはメモリだったので、CPUはライセンスビジネスをしており、参入企業も多かった。386からメモリから撤退してライセンスビジネスをやめて企業数は減ったものの、90年代に入ると、インテルの許可を取らずにCPUを出す企業が増え始めた。
<プラットフォーム構築>
- インテルはCPUに加えてチップセットまで手がけるようにした。当時、DRAM Controller・IO Controllerはパソコンメーカーが手がけていた。これらはCPUとの間で情報が行ったり来たりするので、タイミングを合わせて処理するノウハウが必要だった。外に対してはオープンインターフェースとして公開した。
- インテルは過去のメモリ事業の教訓から、ライバル企業が参入してきたときに止める手段を持つべきと考えていた。CPUとチップセットとの間のバスのプロトコルに特許を設定していた。技術的はそれほど凄いことではない。定められているのは手順。プラットフォーム企業で間の特許がとても重要。技術開発の成果として出た特許ではなくて、ビジネスに近いところは直前に出す。
- チップセット市場に参入してCPU市場の囲い込みを行い、バーゲニングパワーを増大させた。
- 台湾企業は儲かるとわかってから投資するパターン。少し(1年ほど)タイミングが遅れる。インテル側としては最新のCPUと同じタイミングで最新のマザーボードを出して欲しい。そこで自社でもマザーボード事業にちょっぴり参入して台湾企業に行動を促すようにした。結果としてノートPCというプレミアムな製品も台湾で量産できるようになり、シェアを大きく伸ばした。
<プラットフォーム構築後>
- インテルのCPUはHDDやDRAMと比較しても値崩れを起こさなかった。
- オープンインターフェースの先(DRAMやHDDなど)は仕様さえ満たせば何でも良い。価格勝負・投資競争になってしまう。
- DRAMやHDDは投資競争になったが、市場規模は急激に拡大した。そこに強みを持つサムスンは大きく成長できた。
- HDDメーカーのシーゲートは開発はアメリカ、生産はシンガポールにするようにしていた。生産コストの方が影響が大きいことを理解していた。(海外企業に対してキャッシュフローを阻害しないのはシンガポールだけ。台湾は海外企業には厳しかった)
- インテル(プラットフォーム企業)はチップセットを安値で台湾企業(共存企業)に販売し、CPUを高値で米国のPCブランド企業(ユーザー企業)に販売していた。台湾には決してCPUを販売しなかった。台湾企業には安値で販売して需要を膨らませることで、米国企業にCPUを高値で販売することができた。インテルの2面市場戦略と考えれば理解しやすい。
<アーキテクチャ論>
- 部品と機能の関係を見れば良い。Many to Manyの関係があるものがインテグラル・アーキテクチャ。問題解決のためには高い調整能力が必要なため、コア・ネットワークが形成される。
- 部品と機能の関係が1 to 1になっているものがモジュラー・アーキテクチャ。ある機能に対して該当しない他の部品を考慮する必要がない。個々に問題を解決すれば済むので、オープンネットワークが形成されて新規参入企業も活発に存在する。
- インテグラルアーキテクチャの場合、A社・B社の間では知識の共有が必須。これを関係特殊的技能・資産が形成される。
- モジュアーアーキテクチャの場合、A社・B社の間でも知識の共有は不要。それゆえに素早くグローバルにスケールすることも可能になる。
<マザーボード製品のセグメント>
- 1)自社ブランドマザーボード:値段は高いが市場は小さい。DIY市場向けで差別化必要。
- 2)OEM/ODMのマザーボード:受託生産。利益率は低いが、市場が大きい。PCメーカー向け。
- 3)ノーブランドのマザーボード:利益率は低いが、市場は大きい。信頼性は問わないが新興国向けに低価格
A社 自社でR&Dも行う技術リーダー 1) 70%、 2) 30%
B社 フォロワー 1 )60%、 2) 40%
C社 大規模生産(企業向け専業)2) 80-90%
D社 小規模生産 3) 100%
A社:初期から知識共有が始まるCPUが動くかどうかを検証する。技術的な部分では意味がある。
B社:インテルのCPUを使う場合、最新のマザーボードを作るために必要な設計図(リファレンスデザイン)を作ってもらう。
B社はキャッチアップ側の企業なので、リファレンスデザインの設計を委託できた。A社は技術を内に秘めたいのでコア・ネットワークになってしまう。B社のシェアに影響を与えない市場という前提で対応できた。このような技術スピルオーバーを起こすことが大切。
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