2017年3月15日水曜日

20170315

『一橋ビジネスレビュー 2017SPR.644号)』(一橋大学イノベーションセンター編:東洋経済新報社)


赤い表紙が目立つ設立20周年の記念号。
「過去なんか振り返ってもしかたがない。これからの20年をどうするかを考えよう」という延岡先生の言葉に沿って、振り返りではなくて未来を見据えた特集。



いくつか印象に残った論文からピックアップ

顧客価値の暗黙化(延岡健太郎先生)

機能的価値と意味的価値の組み合わせとも言えるエンジニアリングとデザインの統合について。どちらかだけでは不十分だが、論理重視のエンジニアと感性重視のデザイナーが高いレベルで共創するのは難しい。
その両方を学んだデザインエンジニアという人材がキーになっている(ダイソン、アップル)
確かに、同じ人間が両方を見渡せるように内部化した方が、コラボレーションコストよりやすくなるのかもしれない。

デジタル技術の進歩がもたらした産業の変化(青島矢一先生)

分野的に馴染みがあって読みやすかった。確かにデジカメは栄枯盛衰がはっきりと見えるから研究対象としてはデータが豊富だね。
ムーアの法則に沿った微細化が限界を迎えつつある状況下で、半導体や電子機器のパフォーマンスがどこまで上がると見るかで将来も変わりそう。

イノベーションを見る眼 周縁と変則(軽部大先生)

イノベーティブなことはブームが来るまでは「何をバカなことを」と思われているのに、ブームの後では「なるほど、その通りだ」と常識になるという大きな変換を伴う。であれば、産業のどセンターではなく、周縁のマイノリティの皆さんに注目した方が良いのでは?という説明は初めて知って興味深かった。

企業の新陳代謝とクレイジー・アントルプルヌアの輩出(米倉誠一郎先生)

時価総額上位10社の顔ぶれを日米で比較すると、米国は産業構造の変化に伴って企業が入れ替わっているが、日本は総合電機がいなくなっただけで代わり映えしていない(=新陳代謝が進んでいない)
米倉先生が今まで10年以上携わった経験から導いた結論が「アントルプルヌアシップ教育などが真剣に探求されているが、そんなものは何の役にも立たないというのが筆者の独断的見解である。アントルプルヌアなど教育できるわけがない」という、米倉節満載のコメント(笑)
教育するのではなく、起業にチャレンジさせてそのプロセスでアントルプルヌアに仕上げることが重要。そして大量に発生する失敗を許容する制度設計と文化が必要と述べている。
大企業が優秀な人材を囲い込み過ぎていると指摘しているあたりも面白い。

イノベーションにおけるインセンティブの役割(大山睦先生)

成功報酬型では知の深化(exploitation)ばかりが進んでしまうため、イノベーションにとっては望ましくないインセンティブになってしまうというのは確かに!と思った。失敗を許容する仕組みが必要になる。
生命科学の世界では、失敗しても研究費は変わらないとした方が、論文の被引用数が多く、新しい分野を開く研究がなされているという報告もあるそうな。
今の日本の政策は真逆を行っているような印象を受けるが・・・
興味深い内容だった。

加速するイノベーションと手近な果実(清水洋先生)

本来、イノベーションは既存産業や価値観を破壊するために、既得権益者の抵抗が大きく普及には時間が掛かるはず。
しかし最近のイノベーション事例はスピーディに立ち上がっている。技術の成熟や進化という要素があるかもしれないが、さして何も破壊していないお手軽なイノベーションですぐに回収できるものを収穫しているだけではないか?という観点はとても面白かった。

イノベーションこそが国を豊かにする!(野中郁次郎先生×米倉誠一郎先生特別対談)

お二人の歴史を知ることができて面白い記事。

「サイエンスだけでなくアートとしての経営を論じ」てリーダーを育てていくことが重要と結んでいる。人柄も現れてるような印象。




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