2017年5月6日土曜日

20170506

『プロダクト・イノベーションの経済分析』(大橋弘編:東京大学出版会)

今までにない画期的な製品の販売は市場にどのような影響を与えたか、ミクロ経済学のアプローチから定量的に分析した本。

【俯瞰的アプローチ】
イノベーションの主体である企業に対して行ったアンケート調査結果を解析してイノベーション測定を行う。
OECDによって作成されたオスロ・マニュアルに準拠して調査設計・集計を行うことで国際比較も可能になっている。

新商品の売上高を見ると、平均が41億円に対して標準偏差が401億円と大変ばらつきが大きい。対数値でヒストグラムを描いても右に歪むレベル。新商品に画期的なイノベーションが適用されているか否かで分類して差を見ようとしても、平均値や中央値だけで議論することはできない。画期的なイノベーションを含む新商品の75%分位点は画期性のない商品よりも有意に高くなっている。

国際比較をすると、日本のイノベーションを起こした企業の割合は34%程度(2008年)で、参加14カ国中11位と高いとは言えない。
画期的なプロダクトイノベーションの実現割合も最下位、プロダクトイノベーションが売上高に占める割合も下位に甘んじている状態。

【事例】
太陽光発電:公的補助金制度でどれだけ普及したか?
ハイビジョンテレビ:地デジ放送が補完財としてどの程度普及に寄与したか?
スタチン系製剤:後続の医薬品が先発医薬品に与えた影響は?

イノベーションや政策の効果を定量的に見積もる場合、市場データだけを調べてもわからない。本来は「ある場合」と「ない場合」の差分を算出して初めて理解できる。科学的な実験であればパラメータを変えて測定して比較すれば良い話なのだが、「公的補助金がない場合の太陽光発電普及台数」と言ったデータを直接計測することはできない。

そこで実測データからミクロ経済学の授業でやった費用関数・生産関数・需要などを推定してモデルを作成し、パラメータ上で「ない場合」を見積もって行くというアプローチを取っている。

<感想>
「イノベーションの定量化はどうするのか」という点を勉強するために読んだ専門書。アンケートもしっかりと設計して標準化されているとここまでわかるのだなぁと感心した。

基礎研究への支援に対する成果の評価は論文数や特許数などが多いが、締め切り前に同じような内容で論文を出しまくる研究者というのも見ていてスッキリしない(笑)


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