2018年1月15日月曜日

20180115:清水洋先生 産研講演会

今日は産研講演会で一橋大:清水洋先生の講演会



【自己紹介】
歴史の研究家(ヒストリアン)としての教育を受けた。歴史家と聞くと昔のことを考える人と思われがちだが、長い時間の中で長期的なパターンがどう動くかに興味がある人。イノベーションがどのような幅を見せるのか?に関心があった。

【講演内容】
素朴な疑問1:本当にアントレプレナーシップにあふれたスピンアウトはイノベーションを促進するのか? 
素朴な疑問2:極めて汎用性の高い技術はどうやって進化していくのか? 

<スピンアウトの定義>
  • 親企業から出て、新しく設立された会社(スタートアップ) 
  • 親企業との関係で、スピンオフは親企業との資本関係があるもの。スピンアウトは資本関係がないものを指す。
  • スピンアウトすると、その後敵対的になって知財で揉めることが多い。 


General Purpose Technology 
  • 汎用性の高い技術で、色んなところに使われる。経済成長の元になる。
  • イギリスの産業革命以降、世界で初めて持続的経済成長ができるようになった。蒸気機関は汎用性が高く、いろんなところに使われるようになった。炭鉱の水の組み上げから始まり、動力・機関車・船・工場に使われるようになった。このような技術が生み出されると、社会全体の生産性が向上する。
  • 蒸気機関はGeneral Purpose Technologyに該当するだろう。電気はどうだ?という議論は存在する。
  • ちなみに、いまだにロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)ではホットイシューが「なぜ産業革命がイギリスで起こったのか?」 
  • 特徴1:経済全体に対するインパクトが大きい。いろんなところで使われるので波及効果が大きい。 
  • 特徴2:汎用性が高い。潜在的にいろんなアプリケーションがありうる。 
  • 特徴3:最初に生み出された時は改良の余地が大量に残されていた。 


<スピンアウトとイノベーション>
  • スピンアウトはイノベーションの重要なパスの1つである。大学を出た・中退した会社を起こす。何らかの企業に勤めてから会社を起こすことが多い。 
  • 新しいビジネスモデルを思い付いたとき、上司に提案してYesとなったら社内でやる。しかし、Noと言われたら、スピンアウトでやる。これは自社(既存企業)では追求できなかったビジネス機会を追求することになるので、イノベーションの源泉になる。 ベル研のショックレー→フェアチャイルド→インテルなどが良い例。
  • ここではイノベーションの定義を技術進化としている。新しい技術進化が経済的価値につながりやすいものを扱っている。パテントの引用数が経済的価値との相関が非常に高いような製品を見ている。


<シリコンバレーモデル>
  • 多くの国でシリコンバレーみたいな集積を作れば良いと言う議論があった。 
  • 「リスクマネーの供給 VCの制度設計」「知識のハブになるような大学」「高い人の流動性」「人と人のネットワーキング促進」こんなパッケージを広がっていったが、本当にスピンアウトを促進するようなシリコンバレー型の制度設計をしてイノベーションに結びつくだろうか? 


<リサーチデザイン>
  • スピンアウトが起こりやすい社会と起こりにくい社会とを比較した。
  • 半導体レーザーの研究を対象とした。日米でほぼ同時に研究開発が始まり、General Purpose Technologyに該当している。スピンアウトしやすい社会(米国)とスピンアウトしにくい社会(日本)を比較した。


<レーザー業界>
  • コヒーレントな光を発振するデバイス。1950年代後半から生まれてくる。
  • 半導体レーザー業界は、1996年時点で日本企業がマスマーケットに強く、7割のシェアを取っていた。アメリカ企業はカスタマイズされた市場に強いと評価されていた。
  • 初期はレーザーの装置がでかくて冷却も必要だったため、このままではアプリケーションがないと危惧された。半導体レーザーはアプリケーションが多いはずで、レーザー界のスターと目された。
  • 室温で連続発振できるレーザーの開発競争が繰り広げられた。転機は1980年代に光ファイバーが開発されたとき。800nmの光を通せばエネルギーロスがないファイバーがたまたま開発された。これを使えば光通信ができる! とテレコム業界でブームになった。
  • しかし、産業用途で使うには寿命が長くなければいけない。 初期のレーザーは線香花火と呼ばれ、45秒発光したら壊れてしまっていたくらい酷かった。
  • 1970年代後半からCDの開発が進んだ(製品は1982年に登場)音楽データのピックアップにレーザーが使われた。
  • テレコム用の半導体レーザーの年代と情報伝達量をプロットすると、右肩上がりに性能が向上していく。後半のブレイクスルーは日本企業が多い。
  • なぜ1980年代以降、アメリカでブレイクスルーがなくなったのか? アメリカでは応用を意識したスピンアウトが多かったからと考えている。 JTECの報告では、スピンアウトは生産設備をほとんど持っていない。スペシャライズされたカスタマイズされた市場を狙っている。 
  • 半導体レーザーの製造方法特許はアメリカのパテントで比較しても日本企業の方が多かった。日本企業はレーザーの基本構造をしっかりやっていた。アメリカは構造から離れてアプリケーションに寄って行った。アメリカがいなくなったから、日本企業のテレコム用のブレイクスルーが多かった。
  • 少しでも利益が上がるように、より市場の大きなサブマーケットを目指して、より早くスピンアウトしようとする競争が起こる。


<議論>
  • イノベーションの技術水準のS字カーブを考えると、アメリカでは研究者が良いサブマーケットを得ようとして、技術水準が低い段階でスピンアウトする。S字カーブで早い段階でスピンアウトするから、熟成した高い完成度まで到達しない。累積的な技術開発が実現しない。 
  • 日本企業は逆で、スピンアウトが起こらず企業の中でひたすら主要命題であった半導体レーザーの信頼性・寿命の改善を図った。結果として既存技術の累積的な達成度は高いところに到達した。




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