自動車産業にとって電気自動車へのシフトの影響は非常に大きい。EVの普及について、技術の進歩が企業の経営や環境にどのような影響を与えうるかを議論した本。
自動車産業の将来について、技術の進歩によってどのような変化が想定されるか、それにどのように対処していくのかを考えるのにはピッタリな1冊。
自動車の環境・エネルギー技術に関する将来展望(大聖泰弘)
グラフやデータが豊富で技術課題・政府の規制・エネルギーミックスのデータを示しながらわかりやすく解説している。今すぐにでもEVに切り替わるような勢いというのは表現が過剰なので、それを是正して現実が分かる。
自動車の電動化を取り巻く業界動向と問われる競争力(佐藤登)
業界の変化に対し、各国の電池産業がどのような戦略で動いているかを解説している。どの自動車メーカーとどの電池メーカーが組んでるなどの情報がアップデートできて助かる。やはり変化が激しい。
欧州発「CASE」の大波の行方(長島聡)
ローランド・ベルガーがまとめたEVの将来課題。ダイムラーが提唱し始めたCASEについて、環境規制や技術の変化によって社会がどのようになっていくかを具体的に描いて課題を抽出している。コンサルの書いた論文だけあって実務家には読みやすい感じ。
中国自動車産業の発展戦略と課題(柯隆/河野英子)
中国の自動車産業の歴史を振り返って将来を議論している。エンジン車は諦めてEVで世界を握るとも言われている中国自動車産業において、実際にはどのような経緯で開発が進んできたのか、他の交通機関の状況も踏まえて解説している。
自動車企業が考えるEV化のあるべき姿(藤原清志/本橋真之)
マツダが考える理想とするEV社会を解説した論文。
- 地球を守る:Well to Wheelの観点からCO2削減
- 大都市の人を守る:大気汚染対策
- 長寿化社会を守る:長寿化した社会で必要な車の価値創造
- 国(産業)を守る:産業育成と維持
問題を解決してサステイナブルな社会を築くというメッセージに感じた。
次世代型低燃費自動車のアーキテクチャ分析(藤本隆宏)
EVに代表される次世代自動車のアーキテクチャについて、機能要素と構造要素(部品)の組み合わせを調査し、インタグラル/モジュラーの度合いを計算して比較した分析。製品のアーキテクチャによって企業の組織体制は大きく変わる。すり合わせが必須な製品と、標準部品を組み上げる製品ではチーム編成も全く異なるだろう。今のガソリンエンジン車やハイブリッド車を作る体制のままEVを開発・量産してうまくいくとは限らない。このような論点からの分析はとても面白いと感じる。
自動車の顧客価値(延岡健太郎/松岡完)
カーシェアリングが話題となる中で「自動車離れ」「車はシェアリングで十分」という論調の記事を目にする機会が多いが、本当にそうなっているのかを日本・ドイツ・アメリカ・中国のユーザーにアンケート調査をして分析した論文。
国によって動向に違いはあるものの、概して意味的価値に対する意識は下がるどころか上昇している傾向が見られている。「走る喜び」「使う楽しみ」「持つときめき」とカテゴライズしているが、それらの感性に訴える価値は減少していないし、今後も存続するだろう。自動車産業は随分と深く食い込んでいると痛感した。
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