『謙虚なコンサルティング クライアントにとって「本当の支援」とは何か』(エドガー・H・シャイン:英治出版)
組織心理学と組織開発の第一人者であり、多くの企業にコンサルティングを行ってきた著者が、25のコンサルティング事例を出しながら「謙虚なコンサルティング」について解説した本。
この本の対象はコンサルやコーチに限られない。本書の「クライアント」を「部下」や「上司」に読み替えれば企業内でもとても役に立つ内容になっている。
専門家と顧客という関係(レベル1)に留まらず、クライアントの力になりたいという思いやりを示し、個人的な話のできる関係(レベル2)を構築する。
たいていの問題は複雑で厄介なもの。すぐに全てが解決するわけではないが、解決に向けて一歩前進できる実行可能な行動をコンサルタントとクライアントが一緒に探索する。
「QC活動のように、なぜなぜ分析を5回で真の原因を突き止めて、それを解消する」という論理的なアプローチもあれば、「他のクライアントではこのようにやって上手くいった」という成功体験からのアプローチもあるだろう。
しかし、コンサルタントがクライアントが置かれている立場や環境を完璧に理解できることはあり得ない。そこには必ず見落としているエッセンスがあり、それによって完璧に見える改革プランも実行されないままファイルの奥底に眠ってしまう・・・
「自分はプロだから相手の問題を特定して解決できる」というスタンスは「問題で困っているクライアントを助けたい」という気持ちから生じているものだろう。自分のプロ意識という主観的な要素もあるけれど。
しかし、たいていの社内の問題はとても入り組んでいて、「上流の1つの問題が解決すれば芋づる的に全ての事態が改善する」ようなものでもない。
クライアントが主体・主語となって問題を理解し、その場しのぎをやめて本当の現実に対処することを支援すべきというのが本書のスタンス。コーチングに近いイメージに感じた。
使っているキーワードは抽象的でも、本書では具体的なコンサルティングの事例を使って解説されていて大変わかりやすい。さらに、上手くいった事例ではなく、失敗してしまった事例とそこからの学びもまとめられている。
コンサルタント・コーチだけでなく、部下を持ってコーチングなどコミュニケーションを学んでいる社会人にも広くおすすめできる一冊。
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