早稲田大学で開催された「日本経営学会関東部会6月例会:イノベーションを語る」の講演録。
法政大学西川先生のユーザーイノベーション、KBS清水先生の根来先生を彷彿とさせる辛口トーク、WBS入山先生のぶっちゃけ講演&パネルディスカッションと盛りだくさん。
「失敗の目利き」という言葉は腹落ち感のあるワードだった。
そしてイノベーターはガンダムと口にするそうなので、ガンダム義務教育論が再燃するな(笑)
「ユーザーイノベーションをどう活用すべきか?」西川英彦先生(法政大学)
イノベーションを起こすのは誰か?
- 伝統的な研究・実務上では専門的な技術者・開発者・マーケター・デザイナーが担うものとされており、ユーザーは重要なニーズの特定に役立つが、解決アイディアを持っていないとされていた。
- それに対してvon Hippelが「ユーザーが直面する課題に対して自らの利用のために製品やサービスを創造や改良すること」をユーザー・イノベーションとして提案した。ユーザーは購買するだけではなく、消費者像を見直す契機となった。
- ユーザー・イノベーション事例1:マウンテンバイクは自転車メーカーではなく、危険な山道で死ぬかもしれないような無謀・乱暴な運転をしたい人が自分で作った。これはメーカーでは作れない。
- ユーザー・イノベーション事例2:無印良品の体にフィットするソファ。お客様の声を聞きながら作った商品
- これらのユーザーイノベーションの背景を見てみると、実現したユーザーは多用な使用知識・経験を持つだけでなく、他分野の専門家でもあった。普段は整形外科医とか、航空技術者とかをやっている人が、背骨に優しいマウンテンバイクとか、ジャンプしやすいバイクなどを作って進歩してきた。イノベーションの発生が内部の知識を使っているので低コストで済んでいた。
- ユーザー・イノベーターの数は英国290万人(6.1%)・米国1170万人(5.2%)・日本390万人(3.7%)イノベーター1人あたりの平均支出額(ポケットマネー)は12万円~14万円程度。消費財メーカーの研究開発費と比較すると日本では13%程度の規模。
- ユーザー・イノベーションが生まれる分野は国ごとに特徴がある。日本の場合は住居関連が多い。家が狭くて有効活用しようとしているのかもしれない。
- ユーザー・イノベーションで生活に根付いた製品が生まれている。電子レンジでご飯を炊いたり、車椅子に乗ったまま着脱できるコートだったり、片手で着られる服など。
- しかし、これらのユーザー・イノベーションはほとんど活用できていない。日本ではだれも知的財産を要求していない。英国は比較的活用しているが、日本では知識を共有する人も少ない。やっている本人にとって、自分が使いたくて工夫しているだけなので、それがイノベーションかどうか分からない。自分の専門領域なら分かるが、そうでなければ自覚がなく、画期的と感じていない。
- ユーザー・イノベーションでは実際の製品レベルになるものは1万人に1人くらいの割合。ほとんどが1回きりの1発屋で、探すことがかなり難しい。大手企業では5千人~1万人にモニター調査を行なっているが、そこでサンプリングした中に含まれない可能性がある。
リード・ユーザー探し
- ユーザー・イノベーターなら誰でも同じというわけではなく、商業的に魅力あるイノベーションを起こすリード・ユーザーが存在する。
- その特性として先進性・高便益期待の2つが大事。便益期待が高まるとイノベーションが発生しやすくなり、先進性が高まるとより魅力的になる。そのようなリード・ユーザーを探すには2つの方法がある。
その1リード・ユーザー法
- 企業が動いてユーザーを探しに行く方法で、イノベーション・コミュニティ探索で競技大会やハッカーサイトを当たる方法。
- 特に先進類似市場という、想定市場に類似しているけど、技術が先進的で切実な状況に置かれている市場を探索し、そこの専門家の声・アイディアを吸収することが重要。
- 例えば自動車のブレーキを作りたい場合に、飛行機市場にアイディアを取りに行く。移動しているものを止めるという技術は飛行機にも厳しく要求されており、それを自動車のブレーキ作りに生かす。
- リード・ユーザーを探す場合は総当たりにするスクリーニング探索ではなく、紹介の紹介をたどっていくことで効率よく詳しい人に当たる。総当たりするやり方に比べて4分の1くらいの手間で探すことができる。
- より離れた、問題と分野の隔たりが大きい先進類似の方が斬新なアイディアが出る。大工が屋根職人に話を聞くより、インラインスケーターに話を聞く方が斬新なアイディアが生まれる。
その2クラウドソーシング法:
- ユーザーに自らアイディアを応募してもらう方法。副業で自分の余剰時間を使ってもらうと、違う専門知識を持った人が別の分野で知識を生かすことができる。社内の専門家より非常に多く多用なバックグラウンドを持っている。
- LEGO IDEASではユーザーがレゴで組み立てたアイディアを投稿し、1万人から賛同を得られるとレゴが製品化する。レゴの顧客のうち10%は自分の好みを作りたいと思っている。そのうちの1%は他の人が購入したいレベルでものを作ることができる。
- 第3者サイトであるInnoCentiveは2001年米国で開始されたが、P&Gやデュポンなどが匿名で課題を提示して解決策を募った。29.5%の課題に解決策が示され、50万円~1億円の報酬が支払われた。企業を匿名化して特定されないように抽象化した結果、分野を超えて共通する問題構造(深層構造)を提案することができ、多様な解決策案が集まった。ある分野で大問題となっているテーマであっても、異分野の人が見れば7割の人が一瞬でわかることもある。問題そのものを言うのではなくて、問題設定をどのように言語化するのかが肝。技術者に分かるけれど、他社にばれないように文書化する。
ユーザー・イノベーション2つの効果
- その1品質効果:製品の品質を要因と見るモノ的効果で、社内の専門家だけで作った製品よりも効果やアイディアの新規性が優れている。無印良品でもユーザー創造製品は売上高も有意に増加してロングセラーになっている。
- その2:発案者効果:製品の開発源の情報を要因と見る心理的効果で、ユーザーの声を聞いて作ったことが分かると消費者も納得して欲しがる。無印良品で実験したところ、全く同じ商品で片方のグループには「お客様のアイディアから生まれました」という表記をタグに加えたところ、売上数が上昇した。逆に「開発スタッフのアイディアから生まれました」表記を加えた実験もしたが、こちらは有意な差は見られなかった。ユーザー創造という表示が効いている。
効果をもたらす活用について
- リード・ユーザーを参加させられないと品質効果を改善することは困難。平均的ユーザーが加わっていてもダメ。
- 製品分野の適合性の問題もある。ニーズに基づいた使用上の問題解決には向いているが、技術・材料に基づいたテーマには向いていない。
- 多様性の確保が重要。多様とは多数のこと。無印良品でも1テーマごとに400~2000のアイディアを集めた。インセンティブ設計や、そもそも本人がイノベーションかどうか気づいていないので、言いやすくすることも問題。
- 発案者効果は影響するので、プロモーションでユーザー創造であることをしっかり行うことが大切。特にローテク分野の製品には有効。発案者効果だけを頼りに低品質の商品ばかりを出していてもダメ。
「『世の中をよくすること』がイノベーションの目的?」清水勝彦先生(慶應義塾大学)
- 10年間CDIでコーポレートディレクションをやった後、16年間アメリカでMBA・Ph.D.をとって大学で経営戦略を教えていた。2010年からKBSで企業変革を扱ってきたが、イノベーションは避けてきた分野ではある。
- ロジカルに強いコンサルタントはイノベーションが苦手だと思う。グループインタビューとかやっても全然分からなくて、素人のセリフだと思ってしまう。結局「安くて良い奴が欲しい!」と言われて分からなくなる(笑)
- アメリカにいて10年教えていた。PhDの2年目から教えていたが、経営戦略ばかり教えていた。
- 「インベーションで世の中を良くしたい」「日本はイノベーションが必要だ。」「日本企業は、技術はあるのに、イノベーションが生まれない」なんて話をよく聞く。
- ある教授の指摘:日本の大手の重工はなんであんなに偉そうなんだ?凄い利益が出ているわけでもないのに。本当に儲ける気があるのか?GoogleにせよFacebookにせよ、いかに儲けるかをめちゃくちゃ貪欲に考えているのに、日本企業は儲ける気がないとしか思えない。社会に役立つことと、儲かることは相反する話ではないはずだろう。
- 日米自動車メーカーの売上高営業利益率の推移を見た時、2007年ごろまではフォードとGMの利益率が高くて、その下にトヨタとホンダが来ていた。世の中的には日本の自動車メーカーは良い車を作ると言われているが、利益率は上がっていない。儲ける気あるの?という話になる。利益率を抑えているから売れるのか?値付けが良くないのでは?
- ベンチャーキャピタリストの指摘:大企業のCVCは基準が甘くてびっくりするCVCではなくてCSRと思うと腹落ちする(笑)新しい商品の開発を考えるためにやっているはずが、お金が余っていて使わないといけないからやっていて、政府の予算みたいになっている。
- Inventionとはお金を使って新しい技術・製品を生み出すこと。Innovationとは新しい技術・製品を使ってお金を生み出すことと考えればすっきりする。日本企業には新しい技術をどうやって作るかというR&Dの議論はあるが、Inventionばかりになっていて儲ける気ないんじゃないの?と思える。
- イノベーション論のGAPを考えてみる。シュンペーターの新結合やダイバーシティはアイディアを産む段階の話であって、儲けるかどうかに踏み込んでいない。それに対して松下幸之助は「いいアイディアを産むのは大変だ。そのアイディアを形にするのはその10倍大変だ。儲けるのはさらにその10倍大変だ」と言っていた。アイディアを産む話と形にして儲けるところを繋ぐステップの議論がないのではないか。
- クリステンセン教授じゃ成長は気長に、利益は性急にと言っていた。VCもアントレプレナーもスケールが大切。スケールしても利益を生まないビジネスはある。アマゾンも最初は利益でなかったので「Amazon.comではなくてAmazon.orgにドメインを変えたらどうか」と皮肉られていたくらい。成長を止めればいつでも利益が出るが、それでも投資に投資を重ねていった。スケールを目指す前に、そもそも利益が出る構造なんですか?という議論はしておく必要がある。
- 新規事業を行う際の判断基準について、日本能率協会が日本企業に調査したところ市場規模が大切という回答が最も多かった。これから新しいものを作るというときに、なんでそこに市場規模があるんですか?(笑)調査会社に頼むと、「これからは医療・農業・インフラが成長市場です!」と報告してくるが、それはどこの企業でも知っていてやろうとしていること。最初から市場で議論していて良いのか?ビッグアイディアなんてどこにあるんだ?と思う。後から振り返ってみて「あれはビッグアイディアだった」となるんだろう。
- 最近の日本のイノベーションで言うと、コンビニおにぎりみたいな地味な仕事から出てくるものが該当する。一気に派手なことは出てこない。おにぎりで市場規模がいくらと誰も言ってないが、弁当も含めて大きなビジネスになっている。
- イノベーションに必要なものは「やりたい想い」瀬戸内寂聴曰く毛穴から血が吹き出る程の願いだけど。もう一つは「できると思うんですよねぇ」マザーハウス山口絵里子さんの言葉で、100%の確信ではないが、一か八かを賭けるようでもない。頭で考えすぎて心が停止状態になると機械みたいな判断になってしまう。
- イノベーションに不要なもの1「政府の支援」政府がファンド作って支援するとか言い出すが、それどうなったの?と聞いたことがない。100やって1しか当たらないのは構わないけど、使わないと叱られるから支援をやるのではダメ。「支援はしたけど投資先が頑張らないから」とかの言い訳が出る。そもそも支援という言葉がついた途端に上から目線になる。ちゃんとしたビジネス感覚にならないのではないか。
- イノベーションに不要なもの2「でかい思考」:最初からでかいことがあれば良いけど、いつか本気出すよみたいなことはやめてくれ。最初から本気出してくれという。
- イノベーションに不要なもの3「プライド」:大企業の方に多い。新しい・独自性という言葉が出てくるが、1から10まで独自に自分たちだけでやりたいと言ったり、パクるのは良くないと思ったりする。インターネット業界ではパクるのは当たり前で、問題は勝ちを顧客に提供できたかどうかだけ。誰が発明したかなんて顧客にとってはどうでも良い。NASAはオープンイノベーションで解決できない課題を提示したら、3ヶ月くらいで解決された。NASAのエンジニアとしては屈辱的だったかもしれないが、それによって安価に問題が3分の1解決できた。やりきるプライドはともかく、何が何でも自分でやるというプライドはイノベーションの阻害要因。
- イノベーションに不要なもの4「私心はダメという考え方」それを判断基準にしておくと「そもそも顧客に喜んでもらうのは私心なの?」という議論になる。そこに重点を置きすぎない方が良いのではないか?社会起業家って応援したくなるけど、「欲しくなくても、ちょっと高くても買わなきゃ」みたいな雰囲気になるのはどうなんだ?世の中のためになる事業を応援しないのか!というマインドセットになると、お客様をハッピーにして対価をもらうというビジネスを損なうのではないか?
- 海外の大手の現状:お金が大量にあり、優秀なエンジニアもある。それでもなかなか成功しない。スタートアップを買収していて、そういう形でないと大手は難しいのだろう。
- マッキンゼーのレポートによると「チャンスよりもリスク重視の幹部 28%」「失敗から積極的に学ぶ幹部 38%」「当社では失敗から学ぶことが奨励されている 23%」イノベーションに必要なリスクや失敗に対して、幹部層が十分に受け入れられているわけではない。「これはイノベーションか、それとも改良にすぎないか?」という議論で結構会議の時間を使っていたりする(笑)
- イノベーションが生まれない理由1「社会貢献したい」「世の中をよくしたい」「人の役に立ちたい」といった明確な基準がないことに拠っているから。これらは必要ないわけではないが、そちらに振りすぎてないか?
- イノベーションが生まれない理由2「リスクマネ―不足」「時間が足りない」「リスクをとる人材がいない」といった言い訳を認める土壌。他人事で当事者意識がなく、誰かがやるだろうと思っている。日本に人材が足りないと文句を言うなら自分でやれ(笑)
- イノベーションが生まれない理由3「儲けへのこだわりがうすい」「儲けへの拘りが薄い」顧客が喜んで対価を払うことという基本から目を背けていて独りよがりになっている。
- Yコンビネーターでは起業家がバットを振る以外のことをしている時間が長ければ成功のチャンスが減ると言っている。起業家がビジネスに捧げる時間は24時間だ。この1択しかないとも(笑)誰も製品やサービスを提供してないアイディアが一番良いものではない。むしろ有象無象が存在する方がビジネスになる。
- 「持続的であるためには貪欲なリーダーが必要だ。母なる自然より大きな力は貪欲たる父性だ/To be sustainable, We need greedy leaders.There is only one force bigger than mother nature, and that is father greed」
- 「やりたいことへのこだわり」「やれそうかへのこだわり」「儲けへのこだわり」の3重点を探さなくてはならないが、儲けへのこだわりが一番少ない。さらに持続的進化していくことが必要。1回やっただけではだめ、何度も繰り返して継続していくことが重要。
- 失敗・ミステイクという言葉を出すとそこで止まってしまう。大企業の中では日米ともに同じ。上に行った人が失敗してないから。創業者は失敗を言える。そうでない方は失敗を乗り越えて出世した例がないから、失敗の目利きができない。失敗のマグニチュードがわかってない。「転んで擦り傷なら良いけど、骨折はダメ」という経営者もいたが、多分わかってない(笑)
- 両聞きの経営に成功している企業は極めて少ない。ほとんどの新規事業は買収して行っている。会社の仕組みとして、2つの文化を持つことは難しい。短期的な生産性とイノベーションは多くの企業では相反する。投資家も業績が乱高下するよりは安定した株の方が評価される。だからといって、イノベーションを軽視して良いではない。経営者が高い給料を貰っているのはそのバランスを取っているからだろうに。
「世界の経営学から見る、日本企業イノベーション創出への示唆」入山章栄先生(早稲田大学)
- イノベーションと知と知の組み合わせ(シュンペーター1934)イノベーションが生まれない企業では、認知の幅が狭くて探索が足りない。スタートアップはできているが、歴史のある大企業が苦しんでいる。目の前にある組み合わせは既に試し尽くしていて、新結合がない。
- 新結合を実現するには遠くを見て知の探索をしないといけない。自分の認知の外に出ることが大事。
- ネスレ日本の高岡さんはマーケティングの天才。彼にとってのイノベーションとは認知の外に出ること。ドルチェグストはカートリッジで簡単に美味しいコーヒーが飲める。美味しいコーヒーを飲むにはお店に買いにいかないといけないと思い込んでいたところ、これがあればオフィスに居てもいつでも飲める。その移動時間は無駄だと思っていたけど諦めていた。そんな我々が諦めていた認知の外のニーズをつかめるのが本当のイノベーション。
- 知の探索は大変なのに失敗が多い。しかし、予算を達成しないといけないので、目の前で儲かっているところをやろうという話になってしまい、コンピテンシートラップにハマることになる。
探索をするために何をしなくてはならないか。
- 個人レベルの知の探索:スティーブ・ジョブスは知の探索人間。遠いことを探索して、持って帰って製品にする。ヒットメーカーと思われているかもしれないけど、大失敗王でもある。これは言うのは簡単だけど、やってみると大量の失敗を生む。どうやって失敗を許容できる組織になるかを考える必要がある。みな失敗できない状況でやっている。最大の理由は経営者に問題があり、機能に分けると人事がとても重要。従来は成功か失敗で評価していた。そうなると失敗する可能性が高い知の探索はしないようになる。それが問題で、グローバル企業ではいかに紋切り型の成功・失敗に基づく評価をやめるようにしている。より評価が大変になってきている。
- 戦略レベルの地の探索:オープンイノベーション
- 組織レベルの知の探索:人材の多様化。それによって遠くの幅広い知を組み合わせることができてイノベーションにつながる。日本企業の中には、なぜダイバーシティをやるのかという点が腹落ちしてないとこもある。一人の人間が多様な経験を持っているイントラパーソナルダイバーシティという考え方も重要視されている。
- 人脈レベルの知の探索
センスメイキング理論(Weick 1995)
- 正確性よりもそれをやることに納得している腹落ち感が戦略を実行する上では重要という理論。
- 腹落ち感は欧米と日本企業を比べると圧倒的に日本企業が弱い。日本企業でもスタートアップ企業とファミリー企業では見られるが。大企業になると弱い。
- 探索は大変な割には失敗が多い。なぜこの会社で働いているのか、納得感がほしい。明確なビジョンを語り、腹落ちさせるストーリーテラーの経営者がいると変わる。
- グローバル企業ではこれらの取り組みを経営者個人の属人的特徴において置かずに、委員会などの仕組みを作って長期的なビジョンを描いている。社員一人一人が納得しているから長期の方向に進むことができる。全てのビジョンが花開くわけではないが、そのうちのいくつかは時代の潮流に合うものが生まれる。
パネルディスカッション
清水先生(司会):西川先生、ユーザーイノベーションのユーザーって誰だろうか?無印良品のユーザーといった最終消費者は分かりやすい。B2Bまで広げるとどうなる? ユーザーイノベーションは知の探索のあり方の一つだと思う。企業はいいリードユーザーにどうやって選んでもらうのか?その競争になるが、どういう企業だと選ばれるか。
西川先生:講演ではユーザー=消費者としていた。しかし、この分野の研究の最初は企業ユーザーで、もともとはB2Bで生まれる企業インベーションが多かった。デジタルになって、個人が入ってきた。
選んでもらうためにはユーザーの声をフレンドリーに聞き入れることを示すことが大切。そしてきっちり対価を支払うこと。5万円あげますと言われても(笑)50万~1億円もらえるとなると、全然インセンティブが違う。対価が安すぎると、あんまり顧客の声を真剣に聞きたくないんじゃない?と思われる。
清水先生(司会):本当にイノベーションはマジックワードで使わない方が良いのではと思えるくらい。新しいアイディアを生んで、お金を生むことがセットでないとだめ。後半が疎かになっているのではないか?「イノベーションだよね」で済ませてしまうと本当の問題が見えていない。問題は戦略や政策のところにあるのではないかと思った。
思いとかが最初に来ないといけない。オープンイノベーション担当になったけど、どうすれば良いですか?と聞きに来る人がいる。やりたい思いがないとダメだろ(笑)
清水先生:イントラパーソナルダイバーシティで色々やったら良い。やる前に考え過ぎていてやれていない。日経の「私の履歴書」に載っているような人は「無理やり入らされました」みたいな人ばかり。やりたいことや思いが見つかるまではフリーターやってこうとか思っちゃう。
清水先生(司会):日本企業に探索が足りないと言われているけれど、納得感を持たせられるリーダーがなぜこぞって日本から無くなっちゃんだろう?日本のTFPは70年代から低下している。
入山先生:その頃から社長の人気が短くなった影響もある。70-80年代は大変な人口ボーナスがあって、ほっといてもマーケットが増えた。その頃に誰が社長やっても良い時代になって、短期で社長が変わるようになった。上場企業に関しては、ファミリー企業の業績が良くて任期も長い。目の前の任期である3年間を乗り切るために中期経営計画を立てて、どうやって乗り切るかだけを考えるから探索をしない。
フロア:所有と経営の分離をしている企業では株主提案によって経営者が更迭されたりする。失敗が許されるかどうか、イノベーションが起きるかどうかは株主にもよるのではないか。
入山先生:だれが株主かは重要な問題。知の探索を促している企業は機関投資家・アナリスト受けが非常に悪い。あいつは失敗しかしてないと言っている。綺麗なガバナンスにすることがイノベーションにとって良いことかは分からない。ファミリービジネスなどに見られるような、ちょっと汚いガバナンスの方の会社が知の探索が進むこともあるだろう。
清水先生:中期計画では作った後にちゃんと見ているかどうかが重要。達成できなくても言い訳して終わりではない。
シナリオを作るときに、なんでも良いから面白いのを作れと言っても良いものはできない。このジャンルで作れと言わないとかけない。逆説的だが、人や金がないからイノベーションができないのではない。言い訳ができちゃうからコミットメントが高まらない。
西川先生:ユーザーイノベーションの失敗と言えば、ポケットマネーの13万円ほどで、山ほど失敗事例がある。自分で改造したマウンテンバイクで山から降りてきて、失敗すると自分で直す。その様子をコミュニティで見て成功も失敗も共有しやすい。誰にも何も言われないからスピード感を持って取り組んでいる。
フロア:儲けないと人材育成に投資できない。どうやって失敗を許容しながら成果を出して育成するか?
清水先生:30年前から議論されているテーマでもある。大企業での講演の中で「失敗が重要だと思う人は?」と聞くと皆が手を挙げる。「失敗を評価された人は?」と聞くと誰も手を上げない。個別の企業の事業の特徴などを見極めて対応を考えていく。
入山先生:会社全員が一度に失敗して良いわけではない。がっちり稼ぐ分野と、稼ぎを無視して失敗しても良いから挑戦する分野を分ける。組織でやる意見もあるし、15%ルールを使って、時間で分けるやり方もある。会社の企業の問題というよりも日本社会全体の問題なのかもしれない。センター試験みたいに失敗したところから減点される仕組みで教育を受けている。
西川先生:子会社の経営を実質的に任されていた時、40か50くらい新規事業をやって、残っているのは1つだけ。でも黒字化はした。実務をやっているときに研究をもっと読んでおけばよかったと思う。実はその時点でわかっていることがあったのに。海外の企業は経営者が経営の論文をもっと読んでいる。失敗が重要と言いながらも思いつきだけでやって失敗するのも残念。考えてやって失敗して欲しいな。
入山先生:失敗をしたことを報告した人が非常に評価される仕組みを取り入れている企業もある。失敗したこと自体を評価対象にしないことでミスをなくそうとしている。
清水先生:失敗しても良いという心理的な安心感がないと失敗したと言い出せない。成功の確率を2倍にする法則というものがある。当たる理由は分からないが、明らかに失敗する理由はわかっている。100回のうちに、明らかに失敗するのを半分にできれば成功確率が2倍になる。
入山先生:経営学者が大切ってことですね(笑)
フロア:社長の任期が長いこと、相談役や会長の人気が長いことも影響しているか?イノベーションを起こすには理系の社長や子会社の活用も効果的ではないか?
入山先生:欧米企業では新社長が来たら前の社長はすっぱりやめる。事業承継の最大の問題はお父さんが80過ぎまで権力持ち続けてしまうこと。本当に体が悪くなって承継するときには息子も60歳を超えているということになってしまう。
経営を切り離すのもその通り。両聞きの経営の本にもあるが、USA todayが電子媒体で成功できたのは子会社のトップをシリコンバレーから連れてきて、本社から切り離して経営したから。
清水先生:LCCができたとき、大抵の経営者は親会社から社長が来た。しかし、もろにカニバリする上にローコストの基準が全く違って、親会社基準で見た時のローコストになってしまう。
こ会社として切り離す基準は親会社とのシナジーを生かすかどうか。完全に切り離すとシナジーなくなるが、くっつけると親会社に引きずられる。親会社のリソースにアクセスできるようにしつつも独立を維持する。
西川先生:自分も外から連れてこられて良品計画の子会社トップをやっていた。本社のボードメンバーの中に「西川さんに任せるから5年は口出すな」と守ってくれた人がいてくれた影響は大きい。ゴール地点を設定しておくことは大事。本社とのシナジーがないとつらい。消費者から見たブランド拡張でいけるか?バランスをもってやらないといけない。
0 件のコメント:
コメントを投稿