2017年4月26日水曜日

20170425超・生産性会議

東洋経済新報社主催の「超・生産性会議」に参加。

「なぜ、日本の生産性はこれほどまでに低いのか?」リレートーク&ディスカッション。

小西美術工藝社 デービッド・アトキンソン氏
  • 日本では生産性が低い理由として「会議が長い」「残業が多い」などが上げられているが、そもそもこれらは今も昔も変わらない。国民1人あたりGDPが1990年では全世界10位だったものが、今では30位まで落ちている。日本は昔から生産性は高くなくて、他の国々が生産性を伸ばしたから順位が落ちている。
  • 日本の戦後高度経済成長期は稼ぐ意識は不要で、物を作るだけ売れた時代だった。生産性の向上はなされず、人口の急激な増加に寄与するところが大きい。この時期は移民を積極的に受け入れたアメリカよりも人口増加率が高かった。人口ボーナスが消えた段階で経済成長が止まるのも自然なこと。
  • アメリカでは男性と女性の収入格差が縮まる方向だが、日本では40年前とさほど変わらない。この状態で女性を労働力にカウントすれば分母が増えるが分子の増加が少ないので労働者1人あたりGDPは下がる。より稼げるような仕事を行っていくことが重要。
  • 日本は労働者の高スキル割合は世界一。読み書きができて論理に基づいて仕事をする能力を持つ人口が多い。しかしながら国として生産性が低いのはマネジメントが不適切だからと言わざるを得ない。アメリカは高スキル労働者の割合は日本の半分くらいなのに生産性が高い。
  • 1995年以前は効率化のためにITが導入されていたが、1995年以降はITに合わせた業務革新を行なって生産性を上げたのが世界の流れ。日本では従来の業務を変えることを拒絶し、効率化だけをやってきた結果、1人あたりGDPが低い現状がある。
  • 日本でIoT・AI・ロボットを生産性改善の切り札になると期待する考えは間違っている。他国は新しいテクノロジーに合わせて仕事のやり方を変えて生産性を上げているのだから、日本が自分たちの仕事のやり方を変えないままであれば他国と差が開く一方。


キャリア形成コンサルタント 伊賀泰代氏
  • スターバックスやマクドナルドなどグローバルチェーン企業を見たとき、日本とアメリカの店舗のオペレーションを見ても生産性の差は見当たらない。生産性の差は現場でキビキビ働く人にあるのではなく、経営・組織の意思決定から生じている。
  • 日本はプラザ合意までの労働力が安かった時代の、労働リソースをふんだんにつぎ込んで良いものを作る働き方と成功体験を引きずっている。日本ではちょっとでも儲かるならやれば良いという発想に囚われている。GEみたいに「より稼げる事業に」という意識が希薄。少しでも良くなるならいくらでも残業するという意識が強く、生産性という割合で考えることが苦手。
  • 時間になったらオフィスの照明を消すなど残業時間を減らすことを目的としても効果は出ない。仕事を自宅に持ち帰るだけ。あくまでも生産性を向上させた結果としての指標としてみるべき。
  • 日本企業は振り返りが少ない。自分の仕事の生産性は高かったか、改善の余地がなかったかなど見返すだけでも違う。判断基準がどうこうと議論するよりも、計測した上でどう改善すべきかを考える方が建設的。
  • 高い生産性で働く人と、一所懸命働く人を区別していないのが問題。頑張ってるからOKとするのではなく、生産性を上げるにはどうすべきかを一緒に考える育て方を入れていくべき。



エリア・イノベーション・アライアンス 木下斉氏
  • 地方の課題は大企業の課題と共通している。トップが現状のポジションに満足していて、リスクをとって変革するインセンティブがない。
  • 地域振興は制度から補助金をもらうことが目的と化している。たくさんリソースを投入しても成果が出ていない。リターンに敏感な民間の資本が全く寄りついていないのが良い証拠。
  • 地域振興の意思決定は成果よりも非常に重たい手続き・プロセス重視。全体でやっているという雰囲気を作るために儲からない仕事ばかりやっている。


<リレートーク>
  • 伊:保育士不足が問題になっているのに、保育士の生産性を上げる議論に進まない。資格を持つ保育士は子どもと接する仕事に集中できるように、資格がなくともできる他の仕事を別の職員が分担するという発想がない。
  • ア:一番マネジメントが頭を使ってないのが金融業。15時に窓口が閉まるという明治時代の頃の慣習を未だに引きずっている。他国ではそんな慣習をとうに撤廃したというのに。「これが日本の伝統だ」と抵抗する人もいるが「だったらなぜあなたはチョンマゲを結ってないのか」と言いたい。ものごとを変えることに対する抵抗が強い。駅にATMを設置することも20年近く抵抗してた人もいるが、いざ普及すると自分の手柄のように吹聴する人もいる。
  • 伊:大手企業でも「変えない理由を探すことが御社の文化なのですか?」と聞きたくなることがある。
  • ア:成果を評価する基準を設けていない。観光行政では「おもてなしに重点を置く」と決めた。しかしながら、外国人観光客にとって「おもてなしの良さ」と「宿泊先の決定」の間に相関関係はなかった。一番大事な顧客の話を聞かずに指標が決まっている。日本に来た時、スーパーで人参の形が揃っていることに驚いた。イギリスでは不揃いで当たり前なのに、日本では手間暇かけて大きさを揃えて袋詰めしている。切って料理してしまえば形なんて変わらないのに。安い不揃いの野菜が出た時に受け入れられたのも良い例。私の仕事は金儲けではなく、顧客に喜んでもらうための修行だと主張する人もいるが、その修行に皆を巻き込むのではなく休日にやって欲しい。
  • 伊:成果は客が決めるものなのに、日本では供給者目線で決めている。これは本当に市場から見て価値のあることか?ファクトベースで見直すべき。
  • 木:これだけやったんだから良いんだ!という思い込みが強い。
  • ア:欧州は日本と比べてあまり人口が増えていない。生産性をあげて経済を成長させないと社会保障が成り立たず、企業が儲かって株の運用益をあげないと医療・年金が持たない。そのプレッシャーに晒されている。1990年以降、日本企業の株価の成長率は全世界で下から3番目。日本の下にはシリアとアフガニスタンしかないくらい。
  • 伊:生産性は前線で働いている人ではなく、経営者の問題。リソースを最大限に生かしてより儲かる事業は何かを判断しなくてはいけない。研修は日本では若い社員向けに偏りすぎている。アメリカでは価値をたくさん出さなくてはいけない役員クラスほどたくさんトレーニングをするのに。投入した時間に対するリターンが分析されていない。
  • ア:日本は人口が多いことにあぐらをかいている。何も変えないことが本当にメリットと言えるのが、自分でデータをみて検証していない。
  • 伊:日本では研究開発の生産性も低い。ドクターをでた優秀な研究者がマウスの育成をしているのは馬鹿げている。分担してより付加価値の高い仕事に専念するという発想がない。
  • ア:上司の役割は検証すること。自社で本当に儲かっている事業がどこなのか、コンサルに聞いて初めて知る役員がいて驚いた。自社で営業担当が予想する価値と顧客が感じる価値を調べたことがあるが、全くマッチングしていなかった。検証するためにはデータが必要。
  • 伊:数字で伝えても数字を受け入れる障壁が高い。数字の算出根拠がおかしいとか精度が悪いといちゃもんをつけてくる。前向きな姿勢が欲しい。
  • 木:今は無駄ができなくなった。地方も財源がなくなって来て、従来のようにバラマキ型の政策をできなくなった今こそ生産性を上げる方向に舵を切る時代だ。
  • ア:日本は人口減少の文脈で移民政策が議論されることもあるが、減ったとしても8000万人はいる。これでも欧州のどの国よりも大きいレベル。移民を大量に受け入れたとしても、従来の日本の働き方のままで使っては経済は成長しない。日本企業は「変革の提案に対して建設的な意見を言わない」「動き出すまでには物凄く抵抗する」「一旦動き出したら予想以上に速く変革する」という特徴があるようだ。
  • 伊:日本は安い労働力に低い付加価値業務をさせて数で絶対値を稼ぐという発想が根付いている。それでは生産性が低いまま。
  • ア:ホテル業界でも日本は効率化して値段を下げる発想しかない。5つ星ホテルは日本には28件だが、タイには110件もある。富裕層に大満足してもらって高い値段を払っていただくという発想に至らない。非効率的で平等ではなくても、付加価値をつけて高く買ってもらう意識が希薄。
  • 伊:外国人観光客の数は増えたが、富裕層の獲得ができていない。日本の高級旅館に泊まっても夕食の時間が決まっていたりする。富裕層にとっては自由に食事の時間を選べるなら喜んでお金を払う人もいるというのに、自分たちのオペレーションの効率化だけを考えて断ってしまい、富裕層の満足度も下げて稼ぎ損ねている。ホテルでも「プールは朝の9時からです」と言われた時に驚いた。エグゼクティブなら朝食前に運動をする習慣がある人が多いのに、顧客目線になっていない。
  • ア:今の制度を守る意識が強すぎる。今の時代に合わないことを辞めるという発想が大事。マネジメントはやらせるだけでなく、辞めさせることも意識しなくてはならない。



「日本の成長にはいま、何が必要ですか?」課題解決の処方箋
双日総合研究所 吉崎氏・オガールプラザ 岡崎氏・明治大学 飯田氏による公開講座

  • 飯:今の時代、成果や価値が「遊び」になって来ている。生産性とは需要を見つける能力と捉えた方が良い。一番欲しがっている人に高値で売りに行く能力だろう。
  • 岡:地域振興の補助金は生産性を上げない。借りたお金には返さなくてはいけないプレッシャーがあるが、もらったお金にはそれがない。社会の消費が「遊び」に変わっているのに、真面目な人が真面目な消費を求める町を作ってしまう。だから自分は「欲求に素直な町を作ろうぜ」といつも言っている。
  • 吉:友人と付き合うなら、たまにはジャンク債みたいな奴とも付き合って交友関係のポートフォリオを組めと言っている。生産性とは「手抜きをしながら、客を満足させて、ぼったくる」ことに他ならない。人と同じことをやってぼったくれるわけがない。
  • 飯:町おこしでは「他県の事例と同じ」と言われると安心する人が多い。他と同じなら高値がつかないというのに。そもそも役所には金儲けが嫌いな人が集まってるのに、そこにお金儲けをして町おこしをしろと要求していること自体が無理筋。
  • 岡:自分は地域の商工会のトップを降ろされた。地元の店主からは「奴は必ず失敗する」と言われたが、そう言われるということは今までやって来なかったビジネスをやってるということで安心する。地元の銀行も村八分にされたプロジェクトほど融資をしてくれる。地方では野球場を建てるというと予算が通りやすい。でも日本全国で6,000も球場があるというのに、今更建てて差別化できるはずがない。
  • 飯:地域振興の事例を真似してはいけない。それは差別化できずに儲からないビジネスへの道。やる内容ではなくてマネジメントやファイナンスの部分を学ぶべき。
  • 岡:ビジネスのネタを探すポイントは2つ。ニッチテールと言って、ニッチ市場でロングテールから稼ぐこと。そして銀行が融資に応じるバンカブルであること。人の欲望の在処を探っていき、100店舗歩いて1個に絞るようなイメージ。
  • 飯:好奇心のない社長にはあったことがない。でも、好奇心のない市長ならたくさんいる。社長さんはすぐに遊びに誘ってくる。
  • 吉:地域振興の目玉は何ですか?と聞くと「観光と農業です」とどこの自治体でも言ってくる。ツーリズムは大事なのだが、人が外から来てくれることばかりを望んでいて、自分が外に出る気が全くない。
  • 飯:観光に行かない人たちが作った観光施設が面白いわけがない。遊び歩いてないから遊び方を知らない。わからないから他県と同じことをやって失敗してしまう。人口を増やしたくて子育て支援策を拡充したら人口が増えたが、隣の自治体から移って来ただけだった。そこも子育て支援策を導入したら戻って言って、結局地域振興にはつながらなかった。
  • 岡:日本の人口が減るのは止まらないのに、都市計画法などは地価が上昇し続けることを前提に設計されている。宅地も少し足りないくらいがちょうど良いのに人口が流入してくることを前提に作り過ぎてしまう。




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