火曜は伊藤先生の「組織の経済学」
今日もしぶとくWMSの内容紹介!
【World Management Survey(WMS)】
<テーマ1:国際データによる分権化と信頼の関係>
以下の関係を厳密な国際データで確認したい。
- 社会的資本(信頼):社会関係資本(social capital)お互い信頼しやすい文化的蓄積
- 企業組織における文献的意思決定
- 生産性の向上
分権化の問題点(コントロールの喪失)を「信頼関係」が緩和しているのではないか?
<理論>
1:信頼↑ → 分権化↑
任されたら覆らない(コミットメント問題)、任された人は上の意向を組んだ意思決定をする(コントロールミスの問題)
2:スキル↑ → 分権化↑
スキルが高いと環境などに適応する力が強い。本来、適応させるためには現場でリッチな情報を持っている人に任せた方が良い。
3:信頼↑ → 企業規模↑
分権化が進んだ結果、トップは時間や労力に余裕が出てきて新しいことができるようになり、会社の規模が大きくなる
<測定>
2006年のsurvey 12カ国6,000社の中小企業を対象(回答率45%)
信頼度を測定する「World Value Survey」
CEO=工場長である組織は分権にならないので省いて調査
- 1:貴工場が本社からの事前の承諾なしに行うことができる最大投資額は?
- 2:正社員として常勤工場労働者を採用する際に、貴工場が本社の合意を必要とする程度は?
- 3:新製品開発・導入の決定が行われるのは工場、本社、両方?
- 4:販売・マーケティングが本社ではなく工場レベルで行われる程度は?
工場長(現場事業部リーダー)の持っている公式の権限ではなくて、実質的な権限を調べた。
<分類>
- A:本社が1つ、生産工場が1つ
- B:本社が1つ、生産工場が複数 (工場によって権限が異なる場合もあるが・・・1つの工場の権限移譲が他にも適用されていると仮定する。仮定はしたが、本当に大丈夫かは一部のサンプルを取ってきて調べている)
- C:本社が1つ、生産工場が1つだが、同じ敷地にある。
- D:本社が1つ、生産工場が複数だが、国が違う。
<法制度・文化的要素>
Rule of Law 世界銀行の調べた指標
工場が立地している国に関する指標。法整備されて守られているか
<WVS(World Value survey)>
人を信用しますか?と企業内などを限定せずに質問する
- 1:だいたい信用できる
- 2:用心するに越したことはない
- 3:わからない
回答者のうち1と答えた人の割合を指標とした。
企業における「信頼度」を使うと因果関係がわからなくなるので、外生的な独立に決まるものを持ってきた方が良い。
<結果>
[分権化]=c1[Trust]+c2[Rule of Law]+c3[Skill]+c4[Size]+c5[Foreign MN]+Other control+noise
- 分権化と正の相関があった。
- 「Trust」「 Rule of Laws」はそれぞれ独自の正の効果をもたらす。
- 「Skill」「Size」「Foreign MN」は分権化と正の相関
- 工場と本社の立地が異なるサンプルに限定すると、Trustの効果が大きく、立地が同じだと小さくなる
- 信頼度の正の効果は、サンプルと工場と本社が異なる国・地域に限定しても、多国籍企業に限定しても存続する。
- 本社の立地国が工場の立地国を信頼するかどうかも、分権化に同様の効果がある。
- MPと分権化は正の相関がある。MPを含めてもTrustの正の効果、その大きさは持続する。
- 規模と信頼度は正の相関がある。
- 「競争は分権化を促進するか?」に対して理論的に結論づけることは難しい。3種類の競争指標(輸入比率、国内市場競争ラーナーインデックス、マネージャーの意識)のいずれも、分権化と正の相関があった。
- グローバリゼーションの進展は分権化と相関がある。
<テーマ2:病院マネジメントと医療の質>
Apply MP 整形外科 心臓病の救急医療
104病院@UK(2006)、1,194病院(2009)
製造業のリーン生産方式の設問を「患者の移動 Layout of patient flow」「標準化された手順」などに差し替えた。
病院のパフォーマンス指標として「急性心筋梗塞による死亡率」「患者の満足度」「財務パフォーマンス」を使用した。
<結果>
MPを改善すると、
Health(急性心筋梗塞による死亡率):6.5%改善(UK)、 7%改善(US)
Patient(患者の満足度)20%改善(満足度:UK)、 0.8%改善(病院を人に薦める割合:US)
Financial(財務パフォーマンス)33%収入改善(UK)、EBITDA 14%向上(US)
MPの中から「Operations」「people talent management」の高い順に並べてみると、どちらを基準にしても変わらない。良い病院は何を見ても良い。
政府が出すお金は少ないが、UKは頑張っている
<MPの相違を説明する要因は?>
規模が大きい → MPが高い
管理者が医学の学位を持っている割合 → MPが高い
私立公益病院・私立非公益病院は高く、 国公立病院は低い
ライバルがいないと思ってると低く、5つ以上と答えていると高い
<テーマ3:因果関係の検討>
複数期間の調査を行なうと、因果の可能性が高いものを見ることができる。
2006年と2009年で医学の学位を持っているマネージャーがどれだけ増えたかを調べたところ、より多く学位の割合を高めた方が、よりMPの伸びが高まっていた。
看護師を雇う・ベッドを増やす・事前承認なしに決定できる最大投資額・自分で予算を決めて投資を行うなど、自由裁量が高い病院の方がMPは高くなっていた。意思決定の自由裁量が最も大きなインセンティブになる。
<国家間でMPの相違を説明する要因>
1:医療支出・国民皆保険
2:病院間比較のための情報開示
3:病院統治 公立と私立 病院長の任命への政府介入
病院のマネジメントは医療の質に影響を与えそうだ
医療予算の大きさではなく、むしろ情報開示・統治が国家間の相違を生み出している
競争・スキル・自由裁量・規模・所有形態が病院のMPに影響を及ぼしそうだ。
<因果関係に迫る>
XとYの値の動きに関係性がある。相関関係を調べることは容易
因果関係には方向がある。Xの値が変化するとYの値も変化する(XがYに影響を与える)
相関関係は必ずしも因果関係を意味しない。(可能性を示唆しているが・・・)
1:他の要因が影響していた可能性 X←Z→Y
MPではなくて経営者能力というZの要素が影響していただけかもしれない。
2:逆の因果関係だった可能性
YがXを決めていたという可能性
ビッグデータの時代だから、観測数を増やせば解決するんじゃね?
→分析で得られた推定量のバイアス(偏り)は無くならない
因果関係である可能性も残っているんだからいいんじゃね?
→因果関係でなかった場合の政策・ビジネス上の損失は大きい。
ただし、因果関係を見極められなければ無視して良いということではない。
専門家・専門職に任せておけばいいんじゃね?
→社内でのサポート、上司への説得のためには基本的なところを理解しておくことが重要。
<相関関係に迫る>
ランダム化比較実験(RCT)
自然実験
推定方法の工夫:操作変数を用いる
サンプルを2つの集団にわけ、介入する集団としない集団に分けて、因果関係を明確にする。
介入結果Ytとし、比較結果(内もしない)Yxとすると、介入したことによって生じた効果はYtーYcで算出できる。集団わけはランダムに行う
しかし、これを社会科学でやるのは非常に難しい。
<インド:ムンバイ近郊の織物産業>
MPの低かった工場にコンサルティングを行ってMPが改善されることで、経営指標の改善が見られるか(因果関係があるか)を時系列でトラックして調査。
17企業(28工場)
介入企業 11(14工場)
比較企業06(06工場)
典型的特徴:創業20年・家族経営・従業員300人・売上高7M$
コンサルティング会社の選定 入札方式(落札企業は米国本社の多国籍企業で、従業員4万人)
最大6人のコンサルティングチームを派遣
介入時期2008年8月~2010年10月
2011年8月~11月 長期パフォーマンス等の測定とデータ収集
<介入によるMP採用率の変化>
- 導入は平均6割で、コンサルを受けていない企業軍との改善の差は12ヶ月以降も持続した。
- 導入が容易なもの、短期的に成果が出るものが取り入れられた。
- 介入企業の実験対象外工場のMP採用率も増加。ただし実験対象ほどではない。
- 不良品率・在庫・TFPはいずれもが有意だった。
- 時系列から判断することで、因果関係を議論した。
<情報上の制約>
Lack of information介入によって比較的容易に改善
Incorrect information オーナーの強い信念のため、改善はより困難なことが多い。知ってはいたけれどうちでやる必要がないと思っていた。
<推定方法の工夫>
病院マネジメントのクオリティ(MP)は「競合を何社存在するか」と捉えることと相関があった。
客観的競争指標:半径30km以内の病院数
X→Y(MP)
問題点:X自体が様々な要因の影響を受ける内生変数
・Z→X、Z→Yの可能性
・Y→Xの可能性
IV(操作変数)が満たすべき条件
Xに影響を与える
Xを通してのみYに影響を与える
IVとYの両方に影響を与える共通要因がない
X:カテーテル治療、Y:健康状態である場合、IV:カテーテル治療を受けられる病院までの距離と置くと上記の条件を満たし、IVとして使用することができる。IVをいかに探し出して設定するかが腕の見せ所でアイディア勝負。
<事例>
UK 整形外科 心臓病の救急医療161病院にインタビューを行った。
X:半径30km以内の病院の数(平均:7.11、 標準偏差9.83)
半径15km以内の患者が来ると言われている。
Y:平均MPスコア
IV:接戦選挙区を適用した。労働党が5%未満の得票差で勝利・敗北した選挙区
半径45km以内の接戦選挙区の割合(平均8.41 標準偏差9.78)接戦だと病院を潰せない(選挙が負ける 病院数が高い)
通常のOLS推計:病院が1増加するとMPが0.161増加した。
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