2017年5月31日水曜日

20170531

『技術は戦略をくつがえす』(藤田元信:クロスメディア・パブリッシング)

模型好きで、防衛省で自衛隊の装備を研究している著者が過去の戦争において「技術」というキーワードで解析した本。

第1次世界大戦~第2次世界大戦の兵器を技術と戦略の切り口で解説している。
一見するとミリタリー本なのだが、内容は技術経営(MOT)の事例研究と言える。

【戦略は非対称性を利用する。技術は非対称性を生み出す】
古来の「戦いは数だよ、兄貴」の時代から、19世紀以降は兵器の技術的優劣が戦略そのものにも大きな影響を与える時代になった。

<ジャッジメント作戦:要素技術をシステム化する重要性>
タラント港に集結していたイタリア海軍の戦艦を、イギリス海軍が航空機と空母の運用で打ち破った戦い。
「空母イラストリアスの開発」と「浅い海でも機能する魚雷を積んだ航空機ソードフィッシュの導入」という複数の要素技術を組み合わせた。

<バトル・オブ・ブリテン:萌芽段階の技術を育てる重要性>
戦闘機保有数2,600機のドイツ空軍に対し、650機のイギリス空軍が立ち向かって勝利を収めた戦い。
イギリス軍は当時実用化には遠いと思われていたレーダーの開発を強く推進し、スピードレースで培った技術で低翼単葉機を開発した。ドイツ空軍による本土爆撃が迫っていたため、戦闘が起こる時点で開発できていたところまでの技術を使って防衛システムを組み上げ、索敵と撃破を実現でした。

Uボート:集中戦略>
第1次世界大戦に敗れたドイツは潜水艦の保有を認められなかったが、再軍備宣言の後にイギリスと取り交わした「英独海軍協定」では潜水艦の保有はイギリス軍と同じだけ保有して良いという破格の条件が得られた。
1946年頃の開戦を見越して大型艦の建造が進んでいたが、1939年に第2次世界大戦が始まったため、短期間で戦力化が可能な潜水艦の増産に注力した。イギリス本国と植民地との間の商船にターゲットを集中して成果を出した。

<本書で紹介されている軍事技術エピソードの一例>
  • 「ノルデン式」爆撃照準器
  • エニグマ暗号機
  • マジノ要塞戦を突破したドイツ戦車部隊
  • 88mm対空砲をモジュールとして戦車砲に応用したロンメル将軍
  • イギリス軍のレーダーに偽信号を返すことで撹乱し、英仏海峡を昼間に通り抜けたドイツ軍の「地獄の門番作戦」
  • VT信管の開発
  • 反跳爆弾でダムを破壊してドイツの生産能力を削ぎ落としたイギリス空軍のチャスタイズ作戦
  • マーク1戦車を投入することでドイツ軍の塹壕を無効化したソンムの戦い
  • 多数の中小企業から構成される供給網が作り上げたティーガー1型重戦車
  • 爆撃機の航法装置からできたGPS


技術だけが勝敗を左右する要因とは言わないが、少なくとも重要な要素であること、新しい技術に対するトップの姿勢が成果につながりうることを示しているあたりはとても分かりやすい。



最後のコラムエピソードで、プログラミングの「バグ」の語源が電気機械式計算機の部品に蛾が挟まって計算が上手く行かなかったことに由来していたのは初耳で面白かった(笑)


0 件のコメント:

コメントを投稿