2017年6月1日木曜日

20170601

木曜は立本先生の「製品アーキテクチャ論」

いよいよ次週最終回。教科書の内容も大詰め

<先週の復習:事例研究法>
日本でケーススタディというと2種類存在するので、混乱しないようにご注意あれ。
  • 事例研究法:事例を詳細に調査して科学的な法則を探る。正しい答えを求めて、科学的知見を得る。
  • ケースメソッド:教育のために行うので、ディスガイズの情報が入っていても良い。


日本の経営研究は事例研究が多いが、学術的な研究においてもピンからキリまである。
論文を書くときも読むときも重視しているのは下記。

トライアンギュレーション(三角測量法):入力情報の信頼性
研究デザイン:2つの事例をどのように比較するのか。
  • 実際には自由度はほとんどない。思ってもみなかった原因と結果が出てくることもあるので、形式の方を縛って論理性を担保しておく。ここをきっちり抑えておかないと「常識的な結論しか出ない」「面白い魅力的な研究結果にしようとして、心理的にバイアスをかけて寄せてしまう」などの不都合が生じる。
  • インタビューが正しいかどうかを文献・統計などの情報源と照らし合わせる。
  • 時間が経っていると回顧バイアスが生じやすい。自分の中でうまく説明するために、Aが起こってBになったはずなのに、BをやってからAになったと順番を逆にして辻褄を合わせて答えてしまう。
  • 事実に対しても立場によっていろんな評価がある。経験上、マーケットの中のポジションは良い悪いの判断に強く影響を与える。川下企業にインタビューしたら、ライバル企業や付き合いの多いツール企業にもインタビューする。
  • 国籍によるバイアス(そもそも入ってくる情報が異なる)インテルが台湾企業に情報を流している自体に対し、東芝などは良くないと判断しているが、台湾企業はやって当然の処置と考えている。


<一致法(統計のアナロジーで言えば因子分析)>
X1,X2,X3,・・・,Xn:原因 Y:結果
事例1と事例2の間で同じYが得られている場合、事例間に共通するXkを共通の原因と考える。

<差異法(統計のアナロジーで言えば回帰分析)>
X1,X2,X3,・・・,Xn:原因 Y:結果
事例1と事例2の間で異なるYが得られている場合、事例間で異なるXk’を原因と考える。

比較可能性のある事例かどうかがとても重要。比較可能性がある場合は、一致法でも差異方でも同じ結論が得られる。
成功事例だけを持ってくると一致法になるが、結果Yが比較可能でも原因Xが比較可能でない事例を持ってきている危険性がある。
差異法の方がロバストで正しいと判断する人もいるくらい。

<単一事例分析>
事例が少ない場合でも、「オートバイと自転車」のように括りの抽象度を上げて比較するなど、差異法を適用できないか調べる。
通説に対して批判するときにしか使えない決定的事例(逸脱事例)法がある。仮想的な

<単一事例分析:プロセス分析>
何が起こっているかに着目し、詳細にプロセスを記述する。
要因の可能性を列挙できるが、原因と結果のペアかどうかはわからないが、複雑な関係を調べることはできる。
学術論文だと、これを認めてくれる論文誌がなくなってきている。これは本来歴史学の研究法。ファクトを積み上げて進めていく。
雑誌の中でも「研究ノート」というカテゴリーを持っている論文誌では許可してくれるところもある。
その後、比較事例分析やデータセットを用いた統計分析を行うべき。

【復習:インテルのプラットフォーム戦略】
  • NVIDIAは計算する半導体で飛ぶ鳥を落とす勢いだが、10年前にプラットフォーム戦略を綺麗に成功させたのがインテル。今のNVIDIAのチップ提供方式はインテルと同じになるはず。
  • 部品企業なのにコンソーシアムを形成してオープン標準を作った。
  • プラットフォーム構築前はCPUだけしかやっていなかったが、チップセットに参入してプラットフォームを作り上げた。インテルはパソコンの中をオープンインターフェースだらけにしながらも、CPU-チップセットの内側はクローズにしたままだった。
  • 販売平均単価の推移で見ると、プラットフォームの外側(DRAMHDD)は値下がりが激しかったが、内側(CPU)は値段を維持した。
  • 部品など川上企業やサービスなど川下企業は付加価値が取れて、組み立てなど川中企業は付加価値が取れないというスマイルカーブがある。パソコンにおいては自然と出来上がるのではなく、戦略的に動いた結果このように形成される。戦略によっては川下も付加価値が取れずに右下がりになる可能性もある。
  • インテルはチップセット市場にも参入することで、CPUとのインターフェースを非公開とすることでCPU市場を囲い込み、バーゲニングパワーを増大させた。
  • インテルはCPUの補完財であるマザーボード市場にも参入した。「マザーボードもとっちゃうよ』とブラフで補完財メーカーに脅しをかけて刺激を与えて市場を動かした。これはとても高度な戦略。
  • 「オープンにしておけば誰か来る」と考えるのではなく、誰も乗って来ないケースも多い。自分から「損して得取れ」で動くことも必要。市場が拡大してネットワーク効果が強まり、スイッチできなくなってから自分の損を相手に押し付ける。
  • 技術イノベーションが起こるとオープンなネットワークからコアなネットワークになり、インテグラル・アーキテクチャになって閉ざされてしまいがち。ところがインテルはそうならないようにオープンネットワークを維持した。
  • 技術イノベーションが起こっても、知識を共有する仕組みを設計することで、コアネットワーク化することを回避した。


【ユーザー企業との関係マネジメント:ボッシュとデンソーの比較事例】
自動車はコアネットワークに依存したインテグラル・アーキテクチャと良く言われるが、閉ざされたコアネットワークの中だけで構成されているわけではない。海外の企業の動きを見れば、コアネットワークに依存してばかりとは限らない。

AUTOSAR標準の背景>
車載エレクトロニクスは2000年以降、止まることを知らずに激変している。

  • 複雑性の増大:ソフトウェアの開発工数の爆発し、ソフトウェが作れないと車を作れない時代になっている。自動車メーカーの多くで取締役にソフトウェア担当がいないというのは驚き。(トヨタはデンソー・アイシンから取締役を持ってきた)車載ECU間でネットワークを形成し出来ることはが増えている。(クラウンのおもてなし機能:記憶している座高にシートやハンドルの高さを調整してくれる)
  • 安全性/信頼性が担保できない:機能がたくさん作れるのだが、世間の標準レベルまでバグを潰したという保証がしたかった。しかし、メーカー毎にバラバラだったのでどこも断言できなかった。ドキュメントを作る・テストをするといった標準がなく認証もできない。
  • コストの大幅な増大をもたらす:毎回独自に作っているので、ソフトウェアの資産化が進まない
  • 標準化/標準アーキテクチャが必要と言われていたのが2000年頃の問題意識
  • コンソーシアムに最初に着目したのはコスト増対策だったが、最後の決め手は安全性・信頼性確保のための標準化だった。
  • トヨタの大規模リコールはドライバーの操作ミスで車載エレクトロニクスの問題ではなかったが、非常に危ないプロセスではあった。
  • ハードの部分はカーメーカー自分たちでもそれなりに理解できるが、ソフトウェアに関しては全体の10%程度しか理解できていないのが実情。
  • 「走る・曲がる・止まる」に関係するパワトレ系(エンジン)・シャーシ系(ブレーキ・ステアリングなど)を「したもの」と呼ぶ。古い車載エレクトロニクスだが、基本的にはカーメーカーは自社では作っておらず、部品メーカーから調達している。
  • ボディ系・情報系(認証・ヒューマンインターフェース)を「うわもの」と呼ぶ。うわもの系のコンソーシアムはOpen Automotive Alliance(OAA)で動いているが、実際にはシャーシ系まで入り込んできている。単にカーナビの代替品で止まるわけはなく、車全体の制御を行うためにしたものに進む。カーメーカーにとってヤバい話になるかも。ポルシェが脱退したのは、Googleが情報を集めすぎているのを嫌った。Andoroidがスマートフォンでやったやり方を車にも適用させようとした。
  • AUTOSARを作った時、うわもの系で、安全に直結するしたもの系はコンソーシアムにはそぐわないと考えられていたが、実際にはしたもの系で進んだ。
  • AUTOSAR前夜、HISドイツの自動車メーカー(アウディ・BMW・ポルシェ・ダイムラー・VW)で結成され、グローバルサプライヤーである部品メーカーに対して活動する予定だったが、活動に限界があった。



AUTOSAR標準の動き>
  • 2001年にHIS設立されると、ボッシュ・コンチネンタルがAUTOSAR設立準備を発表して切り崩した。
  • AUTOSARは1活動3年でフェーズを設定していた。2012年で開発活動は一旦中止して普及に注力している。
  • AUTOSARのスコープは広いのだが、個々に全部作るのではなくて調整役を担っている。
  • 活動目標は「①マイクロコントローラーのインターフェースの標準化」「②ベーシックソフトウェア(OSみたいなもの)の内部コンポーネント標準化」「③アプリケーションのデータフォーマットの標準化(アプリは好きに作って良いが、データの互換性を確保する)」「④メソドロジーの標準化」
  • 標準化活動はワークパッケージごとに推進。
  • 「③アプリケーションのデータフォーマットの標準化」の調整が難航した。コンソーシアムはカーメーカー・メガサプライヤーが牽引しているが、このアプリはメガサプライヤーの活動領域そのものであり、標準化の外に出そうとした。
  • ①②の標準化は進み、④はそこそこ進んだが、③は進まなかった。しかしこの結論は想定通り。
  • コアパートナーは標準化のスコープに拒否権を持つ。自社のビジネスのコアに触れる部分に対しては拒否権を発動させて妨害できる。カーメーカー・メガサプライヤーが共通で調達するものに関するインターフェースは標準化されたが、それ以外のところはクローズにされた。
  • AUTOSARメンバーはヨーロッパ72社・アジア64社(うち日本40社)・アメリカ19社。ヨーロッパ企業から「AUTOSAR標準で納品してくれ」と言われることを想定して参加していた。
  • 2012年時点の自動車市場としては、欧州(1250万台)北米(1500万台)中国(1900万台)日本(540万台)アセアン(260万台)インド(280万台)中国やインドを巻き込めるかがポイントだった。
  • 日本OEMQCDで判断すればAUTOSARを入れる理由はないと思っていたが、部品メーカーはAUTOSAR標準を採用(日本メーカーのためではない)機能安全のためにはAUTOSAR標準対応を進めるべき、急展開した。
  • 中国市場の主要プレイヤーは外資系(ドイツ・日本・米国)6割と地場系(民族系)が3~4割
  • 外資系は旧国営系の自動車メーカーとのジョイントベンチャーでないと外国カーメーカーは出資できなかった。
  • 2012年に中国では地場系カーメーカーが100社~200社くらいあった。とても競争が激しかった。スタートアップだったので品質問題が多発し、沿岸部では売れず内陸部に移っていった。
  • ECUはほぼ外国メーカーが納品していた。その中で極めてシェアが高い(4割くらい抑えていた)のはボッシュだった。
  • パソコンのCPUを買う感覚でECUを買うマーケットが成り立っていた。中国ではニーズはあり、すでにボッシュがデファクトスタンダードになっている。
  • インドで伸びていたのは低価格セグメント。中国に比べるとマーケットが小さい。インドの方が標準に対して積極的だった。インド国内に自動車市場は小さいが、車載ソフトウェア開発拠点として成長した。当時のボッシュもドイツの次に人が多いのはインドだった。現在はとんでもないくらい人を増やしている。


<中核部品企業の中国での事業戦略>
中国で排ガス規制が強くなると予測し、ECUメーカーが進出した。

簡明アプローチ(ボッシュの戦略)
プラットフォーム企業に近い
マネジメント現地化が進み、エンジニアの8割は中国人
市場シェア40%~60%

濃密アプローチ(デンソーの戦略)
カスタマイズ要求が強く、テクニカルセンターをユーザー企業の近くに作る必要がある。
エンジニアは採用できるが、マネージャーが育ちにくい。
市場シェア10%程度

*中国の政府統計はいじっている可能性があるので、推移を見ておいた方が良い。単年だけで判断するのは危険。


<エンジンECUに関するオープン標準>
排ガス標準はデジュリ標準(強制標準)で一種の国際標準となった。
電子プラットフォームはコンセンサス標準(コンソーシアム標準)
カーエアコンの分野は排ガス規制も電子プラットフォーム規制もなく、デンソーの一人舞台となっていた。

<中国のエンジンECU市場のセグメント>
合資系企業へのエンジンECU供給(本国で開発して中国で生産)6割 輸出は認められていない
合資系企業の自主モデル(中国で開発・生産)
民族系企業への供給(中国で開発・生産)輸出OK 本当に独自開発かは不明で、パクっている可能性がある。民族系メーカートップ3に入る企業でも、新車モデル前半分はカローラ、後ろ半分はシビックみたいな車を作ってモーターショーで出している。輸出したら一発アウトなデザインだった・・・

<ボッシュの成果>
中国の従業員はそれほど多いわけではないが、中国での売り上げは欧州と並ぶくらいの規模
一台あたりの利益率は中国ではやけに高い。実はヨーロッパよりも高かった。売ってるエンジンECUの単価は中国の方が安いのだが、標準品を売るので単価も安いが利益率も高かった。ヨーロッパで開発したものをカスタマイズせずに標準品を売るというビジネスにした。

<自動車生産の技術段階>
1 ライセンスに対して、多少の現地向けの修正開発のみ
2 居住性に関するボディのみ開発
3 プラットフォーム開発を含めた車両開発
4 制御品(ECU)を含む車両全体の開発

2と3の間で大きなジャンプがある。走行部分を自社でやるのは難易度が高い。

日本の自動車メーカーはカスタマイズインターフェースを促進していくと思っていた。(デンソーの予測)
実際には標準インターフェースを採用して統合機能の導入まで進む流れに近いのではないか(ボッシュの予測)
民族系企業に対しては良い提案。国内では叩き合いになっているので、輸出できるなら良い提案。

しかしながら、自動車業界は安定している産業だと思っていたら、今は自動運転などの技術が登場し、嵐の中にいるくらいの激動の状況。
本研究は2012年段階のものだが、この時点と比べても大きな地殻変動が起きている。

<おまけ:MADA契約の悪夢>
  • スマートフォンの時にAndroidOSを普及させる時に行ったこと。AndroidOSLinuxと同じオープンソースソフトウェアであり、排他的所有権があるわけでは無い・・・と知られていた。
  • Google5社くらいが発起人としてOHA(Open Handset Alliance)コンソーシアムを立ち上げた。どの企業もオープンソースなので害があるとは思えなかった。しかしながら、2年ほど経って実際に使おうとするとGoogleMADA契約を結ばないと使えないようになっていた・・・
  • メーカーの大半はソフトウェア全体がオープンソースだと思っていたが、実際にはOSだけがオープンで、Appの部分はGoogleの所有物だった。しかもGoogleの定義では通常のOSよりも遥かに幅が狭く、一般的にメーカーがOSだと思っていた部分はミドルウェアとして有償だった。
  • AmazonKindleはオープンソース部分だけを使いながら、他を自作した。他の会社はそこまでは作れないので泣く泣くMADA契約を結んで、いろんな制約が発生した。スマホメーカーにとってしんどいのは「インストールするアプリケーションに制約がある。必ず入れなくてはいけないアプリが指定されていた」「一番最初に入った時の画面デザインを変えてはいけない(ユーザー体験を共通化させる)」ことがあった。言うこと聞かないとGoogle Playに繋げさせてもらえないなどもあった。
  • ソフトウエアの定義を変えることで、どうにでもなってしまう・・・
  • 最初から全部Androidを使うメーカーであればあまり問題なかったが、アプリは自社で作ろうと思っていたメーカーには想定外だった。




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