早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター開設記念セミナー「ビットコイン分裂問題の行方」
WBS(早稲田ビジネススクール)にWBS(ワールドビジネスサテライト)の取材が!(笑)
300名の会場が満席になるという大賑わい。スーツ姿の樋原先生が司会進行
「ビットコイン分裂と盛行するICOの最新動向」京都大学公共政策大学院 岩下先生
- 分裂の本質はビットコインコア開発者(主に欧米の技術者)とビットコイン採掘者(マイナー・中国企業が過半を占める)の間の覇権争いである。ビットコインの「渋滞」と「取引時間の遅延」と言うスケーリング問題に対して、解決策を巡って利害が対立し、覇権をめぐる対立構造が深刻化していた。
- bitcoin(BTC)は2017年8月1日21:20に bitcoin(BTC)とbitcoin Cash(BCC)に分裂する。
- 現実生活においては、実際には何も起こらない。両方が並立して存在して行くことになる。
- BTC5兆円くらいで、BCCが6,000~7,000億円程度。従来BTCを掘っていた人たちの一部が、BCCを掘ることになる。
<スケーリング問題>
BTCにトランザクションを入れるブロックは1MBで決まっている。取引量が増大した結果、ブロックサイズの上限に張り付いてしまって、取りこぼすデータが出てくるようになった。取引承認から溢れるようになってきたことがスケーリング問題の発端。1個のブロックを作るのに10分かかる。
スケーリング問題への解決策としては以下2つ
- SegWit ブロック内の冗長な署名データを削除する(格納するデータを小さくする)
- ブロックサイズの引き上げ(格納する箱を大きくする)
コア開発者は1を、マイナーは2を主張していた。強硬策も危惧されたが、マイナーの理解が得られずに管理されない分裂が起きることを回避すべく、折衷案としてSegwit2xが採用された。
現状BTC 1MB Segwitなし
→BTC 1MB Segwitあり→BTC 2MB Sgwitあり(11月15日)
→BCC 8MB Segwitなし?
<ICO:Initial coin offering>
- BTCはここ3ヶ月で3倍の価格に上がっている。スケーリング問題真っ最中で使えない時期で、対立してデッドロック状態の時期だった。
- しかし、3倍の価格に上がったタイミングにもかかわらず、BTCのシェアは下がっている。これは他の仮想通貨の値段が上がっていることを示している。
- ICOとは仮想通貨におけるIPOみたいなもの。株式ではなく、コインを発行している。
- ICOが大流行しているが、日本ではあまり報道されない。ホワイトペーパーを書いて3時間で167億円を調達した例もある。
- イーサリアムは300ドルから10セントまで落ちた。が、しばらくすると200ドルほどになってた。全然懲りてないっぽい・・・
- the DAO事件の顛末:ドイツのIoT企業がイーサリアム上にファンドを作って156億円を調達した。この会社はスマートロックを扱っていて、鍵の受け渡しが手間になっていたAirbnbにうってつけのサービスだった。しかし、codeのバグで50億円分が盗み出されてしまった。そこで、取引記録が残っているブロックチェーンの特性を生かし、強制的に分岐する荒技をとった。
「ビットコイン分裂とICOは何を意味するのか」岩村先生
<観点その1>
BTCの仕様変更に賛成シグナルを出し、一方で分裂後のBCCのマイングを行うことができる
<観点その2>
分裂後のBTCの延伸速度はマイニングパワーが抜けた分だけ低下するが、新しいBCCのターゲットが適切に調整されていればこちらは遅延しない。
- 相手がはっきりしている方が分裂しやすい。イーサリアムの1ヶ月間の方がよっぽど困る。
- マイナーたちがBTCからBCCに移動するので、BTCの延伸のスピードが落ちる、10分に1ブロック。ただ、時計の10分間という意味ではない。ポアッソンプロセスで10分に1回の割合に落ち着くと言うこと。
- BTCの半分がBCCに行ったら、半分になる。期待待ち時間が20分になる。マイナーの移動がほどほどにあれば遅くなるが、そのうち治る。実際のマイナー数に合わせて調整されるので、その頃になれば再び問題が優しくなって調整されるはず。ターゲットの大きさは4倍までしか調整されないが。
【ビットコイン分裂騒動が教えてくれたもの】
自律分散系のエコシステムでは、それを進化させる方法論は大きく2通りある
<第1の方法論:投票あるいは多数決>
BTCでもビザンチン将軍問題は解決されているわけではない。
矛盾したブロック延伸なら、マイナーの利己心で排除される。
アダム・スミスによるビザンチン将軍の封印(触らないようにしているだけ)
矛盾した取引を排除する。不正取引は排除しておいた方がマイナーの利益になる。
9人の将軍がいて、4人が攻撃を支持し、4人が撤退を支持した。
過半数(5人以上)が同じ行動を取らないと失敗に終わる状況下で、1人の裏切り者がいた。裏切り者は攻撃・撤退の両陣営に賛成のメッセージを出し、結果的に攻撃も撤退もうまくいかずに敗退してしまった。
<第2の方法論:分離とシステム間競争>
生物は繰り返し子を生むことによって進化する(らしい)
ブロックチェーンのフォークは進化の一形態とも言える。
自由参入型の多数決システムではこのような仕組みを持っている。
シグナリングの効果しかない。
<観点1>
ICOで発行されるコインってなんだろう?それは株式なんだろうか?
株式とか社債は一般的な概念だが、現実の株式は特定国の法律に準拠して設立された会社が発行するもの。ところがバンコールプロトコルは特定国の法律による法人ではない。あくまでもスマートコントラクト。しかし、それで資金調達ができたという事実は消せない。
<観点その2>
スマートコントラクト(だけ)で世界は変わるのであろうか?
会社は契約書の束ではない ロナルド・コース「企業の本質」1937年
ディスカッション 岩下先生×岩村先生
岩下:ビットコインコアとマイナーの覇権争いの勝者はいるのか?どちらか?
岩村:過激なことを聞かれると答えざるを得ない。マイナーの方じゃないか。よく考えると変わっていることをやってそうだが、彼らはわかってやっている。正しくビザンチン将軍問題を理解している。コアの欧米勢は標準化とか制度を守るという人たちがハマる罠にはまっている。国のルールがよく効くのは、境界が厳密で均質性が高い時のみ。
岩村:DAOの世界は自由に入って自由に出て行く世界で、ルールで管理する人は手の出しようがない。今の考え方をしている限り、コアには勝ち目がない。両方敗者になるかBCCが勝つか。簡単にマイナーは移動できる。移動し始めると逃げられた方は延伸速度が落ちて行く。継続的に遅いと使い勝手がとても悪くなる。これで市場価格が下がり始めればマイナーはさらに逃げて行く。負のスパイラルが回り始める。分離してちゃんとした世界を作りたいなら、BTCとは異なる要素を入れて分離すべき。
岩下:コアの人たちは尊敬できる専門家もいる。フォークされてしまった立場の人たち。もっと早く議論をすべきだったのではないか?どうして技術的なところにこだわって、今の事態を招いてしまったようにも見える。
岩村:優れた技術者たちだとは思う。お客様あっての技術者。今の人たちに合わせたものを作らなくてはならない。ブロックを形成することに価値がある。欲張りなマイナーが世界を動かしている。アダム・スミスの言うところの、私たちがパンを食べられるのは、パン屋の利己心のおかげであって、博愛の精神ではない。利己心の方が、世の中が回る。博愛の心は他の博愛を許さない。
岩下:利己心で世の中回っている。サトシ・ナカモト論文のように、暗号学者の間ではデジタルペイメントの仕組みを作っていこうという機運があった。サトシ・ナカモトは神格化されている。全然儲からなかった時代が4年ほどあったが、博愛な気持ちがないとそこをくぐり抜けて伸びなかったのでは?
岩村:博愛の心で出てきたと言うよりも、ビットコインの仕組みを見ると面白い心で出てきたのではないか。頭いいなと思う部分と、こんなに頭がいいのにこんな仕様にしたのかと思える部分がある。4年に1度半減させるなんて仕様は作らないし、こんなことを考えつかなかったとは思えない。9割5分それが良いとわかっていながらも、面白さ・投機性を作るためにこの仕様を入れたのでは?
岩下:賢い人が賢くフォークするのは大事だが、そのようにデザインされている。サトシ・ナカモト論文が聖書みたいな神学論の論争のようになっている。
岩村:これは市場を意識していた。中での多数決と市場で決めることは違う。多数決は人を拘束することでなければ意味がない。シグナリングしても意味がない世界では多数決の意味がない。
岩下:日銀券と同じ。どちらをマーケットは望んでいるだろうか?
岩村:心の中には2つある。確定した価値を追求したい・値上がりを楽しみたいと言う心があり、正邪は決められない。中央銀行通貨は安定した価値。世の中の景気を良くするために持っているのだろうか?1対1でない方が良いかもしれない。BTCは電力本位制の通貨と言える。マーケットの中で自分の選択の中で決定したものは諦めることができる。
受け入れられない人は出て行くことができる方が、戦争が起きない。
岩村:マイニングの利益ではなくて、先物の方が面白いと思っているのかもしれない。自分でマイニングしながら先物を持っているのは乙なものかもしれない。マイナーが簡単に移動するから、熱意に燃えているとは思えないが、欲得の心で動かしてきた。博愛の心で良くなったことはないと思う。
岩下:仮想通貨の争いと現実の争いのリンクはどうなる?
岩村:アメリカの理想と中国の理想は違う。仮にBCCが人民銀行元と繋がることが嫌ならBCCを再度ハードフォークすればよい。長い目で見れば良い政策になるかも。
岩村:中国は電気代も安くないし、向いているとは思えない。スエーデンは電気代安いし、冷房効率も良いけど。
【岩村語録】
- 昔は岩下くんと呼んでいたのがトラウマになっている。先生と呼ぶのも何なので、岩下さんと呼ばせてもらおう。
- 岩下さんがエネルギー満載だったので、私の方は手抜き感満載でいきます。(岩下先生のスライドを引用して)これもパクリでございます。
- ディスカッションの中では憶測の塊をやる。
- ポアッソンプロセスで・・・などと言いだすとファイナンスの先生みたい。ファイナンスの先生が1番嫌われていることも重々承知している。人柄も教えている内容もだいたい嫌われる。でも、樋原さんはファイナンスの先生にもかかわらず好かれている。もしかしたら2枚舌を使っているのかもしれない。
- エコシステムという言葉は軽くて嫌・・・だけど、歳をとってくると現実に普通に妥協するようになる。
- ロナルド・コースは家計(みて触れる)と企業(触れない)について悩んでいた。そういうことで悩むのがすごい。そんな悩みを持つと気が狂うので、私は悩まない。
- コースの本を読んでないのはなかなか恥なので・・・
- (自律分散社会フォーラムの紹介をしつつ)私以外は偉い先生が入ってますので・・・
- なぜディスカッションをするのか?それは口を滑らせやすいから。皆で渡れば怖くないというやつで。私は老い先短いので、相当口滑らせても平気なんですが、どちらの責任でもないと言うことで。
- 大学の先生は学生を脅すと言うことを聞くので、学生相手だと自分が偉くなったきがする。でもそうすると大学の評価が下がって受験生が来なくなるからいかん。今日は来てないけど淺羽先生から怒られる。ねぇ、根来先生。
- 文章破棄されましたとか、存在しませんでしたと言い出されると困る。スマートコントラクトの方が良いかも。
<師匠と弟子対談イントロ>
岩下:私は岩村さんの弟子筋に当たる。25年前の1994年に日銀の金融研究所 にいた時の第2課長が岩村さんで薫陶を受けた。岩村さんには頭が上がらない。岩村さんの歩いた跡を追いかけた感じ。普通は2~3年で異動するから自分で自分の人事考課を見る機会はなかった。課長になってから岩村さんが書いた自分の人事考課を見たら、全然褒めてなかった。
岩村:考課だけ弁解しておくと、部下の昇進の予算管理をしなくてはいけない。褒めなくても勝手になんとかなる人は褒めない。これが鉄則中の鉄則。褒めてないのは優秀な証拠。言葉を尽くして褒めるのはやばい危機感ということで。
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