WBSグローバル経営サミット
早稲田大学ビジネススクールでグローバル経営を専門とする平野先生・池上先生・入山先生の3人の鼎談を岩佐さんのファシリテーションで行うイベント。
岩佐さん
- 2012年から2017年3月までHBRの編集長をやってました。在任中の功績は入山先生の連載を始めたこと。今は紹介されるたびに「元」編集長と「元」が着くのがかっこ悪い。来年になったら新しい仕事を始めるつもり。それまでの肩書きは「東京都民」くらい。
- 平野先生に会ったとき「なんて笑わない人なんだろう」って思ってた。
- 今日初めてお会いする池上先生は前の前の編集長が仲良かったので、横取りしてはいかんと自重してた。
【なぜグローバル経営に携わることになったか?】
入山先生
- 今朝4時半まで飲んでた。意識が朦朧として変なこと言うかもしれない。
- グローバルと意識したことはない。ぶっちゃけ、WBSに来るときに専攻の枠があって、声をかけてもらったのがグローバル経営のカテゴリーだった。経営戦略論で来てたら今日のイベントはなかったかも。
- 自分の中で海外志向はあった。20代半ばくらいからアメリカに住んでみたいと思っていたけど、三菱総研にいてもアメリカにはいけない。アメリカのドクターになれば良いと思って渡米し、10年暮らして帰って来た。
- グローバル経営、インターナショナルビジネスに専門の経営理論はない。ビジネスの大事な法則は世界中同じはず。国内でも国境を越えても、経営の本質を捉える理論は同じ。東京の会社が大阪に行ったら苦労するのと、日本企業が中国に行って苦労するのも本質的には同じはず。幻想とは言わないけれど、グローバルと言う言葉に引きずられない方が良いと思う。
池上先生
- 私のグローバル経営の授業も「国際経営にグランドセオリーはなく、群雄割拠です」と言うところから始める。経営戦略論だとポーターとかあるけどね。
- 国際経営だからある要素とすれば、異文化マネジメントがベースに流れるかもしれない。
- ケンブリッジにいたとき、ディーンのチョン・チョイ先生がグローバルマネジメントの講義をやっていた。彼はスタンフォード出身で、なんだかよくわからないけどごった煮で話している。その「ごった煮感」がグローバルだと感じたし、早稲田で再現できたらいいなと思っている。
- 10年前まで日本と海外で半々で仕事をしていた。ほとんどシームレスに仕事をしていた。あまり意識はしていない。しかし、意識している人は多いらしいとは感じた。異文化マネジメントをしなくてはならないので、複雑性は増す。
平野先生
- 珍しくこの3人は仲が良い。学校に来てわかった 同じ領域で意見交換するのは珍しい。
- 根来さんも策略家・陰謀家。グローバル経営でプロのモジュール担当にされて「そう言うもんか」と思って引き受けた。グローバルでも戦略でもなんでもよかった。
- 日本企業の事業そのものはグローバル化している。利益の半分以上が海外というのはざらにある。だが経営・組織のグローバル化とは異なる。日本企業の場合、事業はグローバルだが、経営はローカルだ。その間の断層は断層として受け入れたマネジメントがあっても良いのか?
- 経営論から行った時、日本の会社は特殊だし、強みの源泉かもしれない。
- 事業・組織・経営のレイヤーごとのグローバル化はあるだろう。
岩佐さん
- グローバル経営にセオリーはない。物理学にグローバル物理学はないのと同じ。
- 日本的経営の裏返しに直結するようにも感じる。
入山先生
- WBS(ワールドビジネスサテライト)に出た時、日本企業が外国人留学生を受け入れるハードルが高いことにコメントを求められた。WBS(早稲田大学ビジネススクールの方)昼のプログラムに留学生はたくさんいるけど、就職先を見つけるのが難しい。3~4ヶ国語喋れる学生もざらにいるのに。日本企業は事業戦略が弱い。結果としてどんな人材を取っていきたいのか深く考えてないんじゃないか?
- JINSは面白い会社で、国内で留学生をバンバン取っている。旗艦店スタッフの半分以上は外国人。しかもJINSの仕事をよくトレーニングされている。田中社長に「なんでこんなに外国人取ってるの?」って聞いたら「世界に進出する長期ビジョンを持ってるから。世界に出てから人を取るんじゃなくて、人を先に国際化させている」と言われた。
- 日本企業の中にはバコッとM&Aで買ってから、事業を回す人がいないと困っている企業もあるし、買ったけど放置しているところもある。
池上先生
- 国際経営のスタイルはどんなスタイルでやるのか?どんな軸でやるのか?という分類がある。
- スタイルは国籍によって傾向がある。日本は中央集権型のシンプルグローバル、 アメリカはインターナショナル、ヨーロッパはマルチドメスティック。最近は崩れて来ているところもあるが。ふと考えた時、日本企業はシンプルグローバルから変えようとして苦労している。
- ヨーロッパは1979年くらいから国レベルで本国のエースを徹底的に育成している。年間数億円の予算を使って、選抜したヨーロッパ企業のエース人材を1年半仕事から切り離して日本に送り込んで来た。彼ら彼女らを育成して日本法人のトップになるというプログラムを作って10年請け負っていた。カルティエ・ベンツの日本法人社長など、累積で1000人くらいの卒業生がいる。
- ヨーロッパは本国のエースはローカルを知らないので、ローカルを知ってもらおうという歴史がある。日本企業は多くの大手企業はヨーロピアンスタイルを真似ようとしているように感じる。
- ローカルの人を活用するよりも、日本人をグローバル人材かしようとしている。
平野先生
- 日本からグローバル人材を育てるのはとても難しいと思う。
- 米国フォーチュン500でインド出身の社長が増えるなど経営者の国籍が多様化しているのに、日本人が飛び込んでトップを取っている企業はない。
- 日本人社長にはできっこない。単独で乗り込んでマネージするのは不可能。
- PMIでは買収してから乗り込んで行って価値を磨き上げるのだが、実際に買収したら、親会社にぶら下げた上で現地のマネジメントに任せる企業が多い。当事者としていろんな事例をやって来たけど、成功例はなかなかない。
- 日本企業は製造業のようにモノというメディアがあると得意だが、モノが無くて人を通してサービスを提供するような事業分野は不向き。多国籍企業では人をマネージする仕組みをグローバル化している。日本企業では人を媒介にしたグローバル化は難しい。
- それを強さにできないか?ハードウェアにして売るという強みは活かせないか?現実論から日本企業のグローバル化を考えなくてはならない。
入山先生
- マクロミルの社外取締役をやっている。ベインキャピタルが(カーライルの人の前で言うのもなんですが)買収してIPOをやった。
- 彼らのやり方は、マクロミルのようなドメドメの企業の社長をアメリカ人にする。100人くらいのリストから外国の経営者を選んで来て据えたところ、毎年売上が10%増で、株価も1600円から3500円くらいまで上がった。グローバルな経営能力を持った人を連れてくると、ガラッと変えてしまう。
平野先生
- シャープも台湾フォックスコンの下に入っただけで、いきなり再生する。
- 日本企業はマネジメントではなくて現場力に依存する。日本の経営は現場にきつい予算を与えてキリキリやる。経営の方向性を考える経営力を高めなきゃいけないのに、現場の成功体験が強すぎるので、経営力を磨かないまま21世紀に来てしまった。
- 現場をキリキリやっても改善しない。経営放棄の表れ。
池上先生
- 最初ネガティブで入った方が、後でポジティブにできる。
- グローバルで勝っていける人がいない。そもそも経営人材がいないんじゃないか?
- 経営経験を積ませるのが遅すぎる。ヨーロッパの幹部候補生を見ると、ポテンシャルはあるけど大したことはない。しかし、20代終盤から日本法人トップをさせてもらえる。送り込んでもらえてる。当然、七転八倒しているが、そう言う経験をしていく中で、鍛えられる。ここは圧倒的に日本企業とは違う。
- 一方、日本企業は現場から叩き上げていく。順を追っていかなければいけない。エースだからといって、20代に任せるようなことはしない。
- ゴーン来た途端に会社が良くなる。彼は稀有なグローバルリーダー。20代後半でミシュランのローカルの工場長をこなし、30代で北米トップについた。そんなスピード感でやって来て、45歳で日産のトップになってターンアラウンドを行なった。
- アサーティブネス:協調性のある主張力・適切に主張する力が大切になって来る。ガンガン押し込む主張ではなく、共感しつつ言うべきことは言う。ゴーンは、実は言いすぎることはない。程よいバランスが取れているようにも見える。
平野先生
- 経営者はきちんと育成しないと育たない。経営者として必要な資質を積ませるべき。
- 日本企業は困ったら人徳で選んでいく。人事部は移動の調整しかやってない。強い現場がまとめていくから、強い経営者である必要はなかった。リーダーシップがなくてもなんとかなっていた。
- しかし、ある日突然執行役員になった途端に経営の難易度が劇的に上がる。経営できるように育成していないので、判断できなくなる。
- コングロマリットのマネジメントはできない。
- 企業はピュアプレイヤーになれ。ポートフォリオは投資家がやれば良い。コングロマリット経営はなんとか支えてしまう。経営の甘えをしてしまう。
入山先生
- 日本ではグローバルニッチトップ企業だけが勝ち抜いている
平野先生
- 業界トップが2番手にいなくて生き残れない。
- マネージできるわけではない。GEの解体が始まったのが20世紀型の精算
池上先生
- 国の経済が発展してないとコングロマリットが良くて、発展してくると単品の方が良くなる。
入山先生
- 制度ができていない=市場メカニズムが働いていない。
- マーケットの環境が整備されると効率が悪い。単独事業になっていく。
- インドや東南アジアで財閥が多い。韓国の財閥が減っているのは市場メカニズム型になっている。
池上先生
- 30代の前半で会社のトップがやりたいと思って、ソフトバンクに行った。チャンスは死ぬほどある。気がつくと4社くらい同時に立ち上げなくてはいけない。経営者として立ち上げて潰す経験ができる。1年で100人くらいの会社を作ることになる。
- その後で日本生命に入ったら居心地がめっちゃよかった。40過ぎで居心地が良くなる。一定量の給料が入ってくるし。
入山先生
- 40すぎて早稲田大学が居心地よくて仕方ない。
平野先生
- なんとかしなきゃと言う気持ちが抜け落ちていく。そのように日本企業はできている。
- 日本企業はやはり民族的なトラストで回している。
- 新しいタイプの日本企業 全く違う思想で進んでいる。
池上先生
- 自分でキャリアデザインをしなくてはならない。
<質問1>
- 会社で事業はどれも大切なものなので、事業トップは失敗が許されず若い人がアサインされる状況ではない。
- 昔はいろんな事業があったので若い人を送り込むこともできたのだが。若い人を育てたいのに、チャレンジさせる場がないと言うジレンマに陥っている。人材も保守的
入山先生
- 会社がそう行った修羅場に行ってないってこと。
- 全部の事業がどれも失敗できないってことは、新しいことにチャレンジしてないってことじゃない?
- 日本企業は事業が先にきて、人や組織が付いてこない。事業が優先しちゃって、経営者を育ててない。
池上先生
- 今のテーマで2泊3日は語れる。
- モデル自体が合わない。ビジネスと戦略・人も合わないことを一所懸命やってますと言うことになる。どちらかを徹底して変えないといけない。
平野先生
- GEのタレントマネジメントはやはりお手本。競争させながら最終的には3−4人にする。非常にシンプル
- 5兆円企業の経営をやるとすると、40代で数千億円、30代で数百億円の事業に触ってないといけない。そのチャンスを与えないのはおかしい。
- 最終的な業績責任といっても、100戦100勝で行くわけない。アサインメントミスもある。評価制度を入れて人のマネジメントをする。やりようはあるはず。
<質問2>
- 自社ではリストラをして来たが、これ以上事業を減らすことは考えづらく、コングロマリットの体制が維持されると思われる。
- コングロマリットのリーダー育成についてどう考えれば良いか?
平野先生
- リーダー成は意識して育成しないとだめ。スキルの育成が欠かせない。ほっといて育つわけでもない。
- 経営者の中において、人材は人事部の責任というマネジメントしかしてこなかった。欧米の経営者に聞くと、一番必要なのは人材育成だった。
入山先生
- GEの人材育成でやられている本人は「自分はクビになる」というイジメにあってると感じるそうだ。
- 全くの新規開拓の次は、ファイナンス。その後で新規事業のマーケティングや人材管理、新規事業のトップなどをどんどん回される。人事としては抜擢している気持ちになるのだが。
平野先生
- GEはフェアに宿題を与えてフェアにやって行く。藤森さんはGEケミカルのグローバルトップまで行ったが、彼をしてもラダーを上がって行くのは難しかった。
- 人材育成はこちらから数字を出して行くことも大事だけれど、経営の根幹だという意識を持って行く。
- 戦略としてコングロマリットを維持することを前提として人材育成をどうすべきかを議論しようとしている。
- その前提はあっているのか?セットで問いを立てると良いのかもしれない。社内で、直球でやると大変かもしれないけど。
- ガバナンス改革の真髄は「経営者の指名を第3者に委ねるか?」と言うこと。
- 指名委員会が最もベストな経営者を選ぶことができるか?1期6年だとすると、10年以上はかかるかも
池上先生
- 日本の社長研究200人をした清水先生によると、社長の最大の仕事は後継者の指名と答える社長が多かった。
- 社長学の権威の調査でもあり、根深いなと思った。
平野先生
- 日本企業も危機的状況になると変わるかもしれない。
- ファンドが入ると、経営者を連れてくる。日本企業には良質な現場があるので、経営者を変えればたちまち良くなることも多い。
- 外部の資本を入れる良さが伝わってくると、変わってくるかもしれない。経営が合理的になれば競争力が増すはず。それを期待している。
入山先生
- いかに良い経営チームを作るか?最高の組み合わせの人材を作るか?経営者候補とはたくさん面会している。
- PEファンドが良い仕事をしていて、良い方向に変わってきている。
平野先生
- かつての日本企業ではコングロマリットの悪いところが出ちゃっていた。
- カルソニックカンセイという日産系列の部品メーカーが再生できたら大きい。
- 日本企業はしぶとい。それなりの業績と株価を出している。ユニークな企業群となっている。悲観的楽観論という見方。
【個人としては何に気をつければ良いか?】
入山先生
- 自分の会社に不満を持っているなら、出れば良いじゃん。魅力的なトップのいる会社に移れば良い。
- 上司が「どうせこいつら出ていかないから、こんな経営でも良い」と思ってしまうのは問題。出て行くようにすれば、経営者が魅力的になる努力をする。
- グローバル経営は良い科目。WBSに「マクロ経済学」「ジオポリティクス」の科目もあったほうが良い。
池上先生
- フォーリンネス:国際経営の概念 外から来た人がくるとディスアドバンテージを持っている。その人がアドバンテージをどうやって大きくできるか?これをリーダーシップに当てはめて考える。
- いろんな投資ファンドでは外から人を取って来流けど、失敗することも多い。どうやって成功するかを意識する必要がある。
- 外から人を入れろって話でもある。外から来た経営者にフォーリンネスのマネジメントを考えても良いのでは?マッキンゼーやBCGはそういう人の塊。
- 動き方の留意点は必ずある。それをビジネススクールで聞けば良い。社内では聞けないんだし。
平野先生
- 言いたいことはいっぱいあるんだけど。こないだトランプが来たじゃないですか。中国は大国だ。デモグラフィーから言っても、中国は強大国。日本はアメリカと中国の間のニッチ国家になった。まだ大国意識があったりする。もうリセットする時期。
- ニッチ国家としてどうやって生きて行くかを考えるとき。海外に行ってもローカルでやってもOK。どうやって日本流の経営をやって行くのか?
- キャリアの部分では、リアル人生ゲーム攻略本を読んだ。この歳で攻略本読んでどうするんだ?ってこともあるが。
- 生まれて来たときに与えられたリソースは時間。いかに時間を幸福にするか。
- 教育に投資してスキルを得るか?とてもクリティカル。
- そのスキルをマネタイズするためにジョブをどこに選ぶか?その選択が幸福にもマネタイズにもつながる。
- 自分が時間に対してオーナーシップを持ち、教育をどうするか。そのスキルを投入するジョブをどう選択するか?金銭的な成功と豊かさをどう両立するか?
- 平野ゼミでシリコンバレーに行った。向こうで活躍している経営者に会うと彼らはみんな大変そう。評価も大変。でも、ものすごくエキサイトしてやっている。
- 自分で自分のキャリアに対してオーナーシップを持っている。大企業に入るとオーナーシップを放棄してしまうことになる。たとえ大企業の中でもスキルをどうオーナーシップを持つか。
- ただ、彼らは「最後は日本に帰りたい」って言ってる。向こうでやってても疲れちゃうんです。アドバイスもフィードバックもたくさん来るけど、成長へのプレッシャーはすごい。
- 結局、日本はよい国。外国から来た人の中には母国に帰りたがらない人もいる。中国とか韓国とか。向こうでずっと頑張ろうという気概はあんまりない。よい国をいかにして企業の競争力に変えて行くか?
入山先生
- 一番キャリアのオーナーシップを持っているのがWBSの先生たち。はっきりいうと「いてやってる」どこ行ったってすごい待遇を得る教員ばかり。日本でここだけ。金銭的にもWBSにいる必要はないはず。「なぜWBSにいてくださっているのですか」という感じ。キャリアのオーナーシップを持っている。おもしれーなーと思ってくれている。
0 件のコメント:
コメントを投稿