今日は産研講演会に参加して、慶應義塾大学三橋先生の「イノベーションとインセンティブ 成果主義は社内研究者ネットワークをどう変えたのか?」を聴講。
慶應を卒業し今も慶應で教鞭をとる三橋先生だが、受験生時代は早稲田も受けたらしい(笑)
来月の学会で発表されるそうなので、こちらでは概要のみ。
<概要>
- 成果主義はイノベーションを促進するか?という問いに対し、多くの先行研究では「成果主義はイノベーションを抑制する」と否定的に考えられてきた。
- しかし、パートナリング行動(誰とチームを組むのか)に対する影響は未知。その常識を再検討しようと研究をスタートした。
- 1993年~1994年に富士通が成果主義を導入した。その時期を研究対象に定めてコントロールに三菱電機と日立を使ってDID分析(Difference-in-differences design)を行なった。
- インセンティブ(金銭的)・イノベーション(特許)・パートナリング(チーム構成)の3つを同時に見る研究を行なった。その結果、成果主義導入により功利的パートナリングが発生し、イノベーションを促進していたことを見出した。
<研究質問>
- 成果主義導入は、社内イノベーターのパートナリングに対してどのような影響を持つか?
- 成果主義はイノベーションに有害か?
<先行研究の整理>
- 成果主義は実験的行動を抑制し、失敗に対する寛容度が喪失してしまう。真のイノベーションとは開拓的でなければならない。
- 深掘(exploitation)と開拓(exploration):開拓にはリスクを引き受ける必要があり、何もケアしないと深掘ばかりしたがるバイアスがある。開拓を行うためには多様性が必要であり、トライアルアンドエラーが必要
- 成果主義はリスクテイキングとトライアルアンドエラーを抑制してしまうので、イノベーションが起こらないのではないか?
- Azoulayら(2011):2種類の研究資金をもらった科学者を調査した。①実績が求められる資金と②成果をあまり気にしない資金を比較すると、②ではパブリケーションでは有意に高い成果が出た。その一方で従来と比較して劣位なものも存在した。これは開拓に伴う失敗と解釈される。
- Ederer&Manso(2011):ビジネスゲームを用いた実験で、成果給・固定給・固定給から成果給に変更の3種類で比較した。すると、最もパフォーマンスが良かったのが最初は固定給で、それから成果給に切り替えた場合だった。これが最も失敗に対して耐性が高い。
<功利的パートナリングとは?>
- イノベーターによる、誰とイノベーションチームを組むのかに関する意思決定。
- パートナーを道具と見立てて「使えるか?」「役に立ちそうか?」で選抜する。
- パートナリングとイノベーションの関係を考えた時、ネットワークを通じて多様な知に対するアクセスを確保する。多様性のあるメンバー構成が望ましいと考える。
下記のような行動を取るようになる
- チームを多用:個人よりもチームに
- チームの大型化:メンバーを充実させる
- 馴染みのパートナー回避:開拓のためには新しいメンバーを好む
- 似た知識を持つパートナー回避:馴染みメンバーと同じ
- 優秀なパートナーを好む
- パートナリングのパターンに変化が生じる
<成果主義により功利的パートナリングが発生すると?>
成果主義導入
→努力
→多様な知へのアクセス確保
→功利的なパートナリング
→non-local search:全く新しい知識を用いて調査を行う
→イノベーション価値:特許の被引用数が高まる
- 1993年~94年に成果主義を導入した富士通をトリートメント群とし、三菱電機と日立をコントロール群とした。時期の前後でアクティブな筆頭発明者をイノベーターと置いた。
- non-local search:自社特許で引用した文献の中での他社・他分野の特許の割合。また、今まで使ったことのない特許が含まれるか。成果主義導入後、富士通では増加していた。
- イノベーションアウトカム:他社がどれだけ引用したか・他分野の特許が引用したか。成果主義導入後、富士通では増加していた。
- バランスチェック:資産・ROAで企業群が似ていることを確認
- プラセボテスト:90−92年と93−94年でも同じようなテストをして、相関関係が見られないことを確認している。
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