2017年12月9日土曜日

20171209長内先生:日本感性工学会

日本感性工学会・感性商品研究部会研究会@早稲田に参加

「技術とニーズのスパイラル」長内先生(早稲田大学ビジネススクール教授)
研究をするために授業を休むサバティカル中の長内先生に無理を言って来てもらった(笑)



  • 製品開発論の研究ではどうやって作るか(How to make)の議論が活発だった。近年はそもそも何のコンセプトで何を作るか(What to make)の議論が重要。定量的で捉えにくい価値が主流になって来ている。
  • 技術と価値との関係性をどう捉えるか?技術が顧客のニーズ・価値とどのように関わっているかを考える。
  • 定量的・形式知な技術と、定性的・暗黙知的なニーズをつなぐ。技術がニーズを充足するときに商品の消費が行われる。また、ニーズが技術を規定して、ニーズが技術に転換するとも言える。暗黙知と形式知の間の転換のシステムを野中先生のSECIモデルをアナロジーにして考察した。


<1:ニーズが起点 ニーズプル>
  • ニーズ→ニーズ:顧客との共同化(消費者ニーズを理解する)
  • ニーズ→技術:受動的製品コンセプト開発(外部統合)マーケティングのプロセスで外部の市場ニーズとの統合。起点が消費者の声なので「受動的」にコンセプトを定める。
  • 技術→技術:R&D(内部統合)ニーズを充足するために開発すべき技術が決まる。


<2:技術が起点 技術プッシュ>
  • 技術→技術:R&D(内部統合)消費者ニーズに合致するかはわからないけど開発する。古いマーケティング的発想
  • 技術→ニーズ:創発的製品コンセプト開発(外部統合)ある技術によって製品が作られる。起点が技術であり、それをどうやってニーズと合致させるか?を「創発的に」コンセプトを定める。
  • ニーズ→ニーズ:顧客との共同化(消費者ニーズを理解する)


1はニーズが所与で、技術が当てはめられる。一方、2は技術に適合される形でニーズが形成される。どちらであっても最終的にニーズと合致すれば良い。



<ハウス食品のカレー:基本情報>
  • 日本の食品メーカー大手の場合、お互いに越境しない形で棲み分けている。ハウスは珍しい総合食品メーカーで、様々な商品を作っている。
  • 元々は薬種問屋。スパイスが日本に扱っておらず、カレーを作る人は薬種問屋に目をつけた。カレーの原材料を供給する問屋になったが、その後自社でカレーを作ってしまおうと言う動きに変わった。
  • 1950年ベルカレーという会社が固形カレールウを発売した。固形カレーは日本発。この会社は元々チョコレートを作っていたお菓子屋さんで、チョコの金型にカレーを作った。油脂が多く含まれていて、温度が高くなると溶ける。とかして金型に流し込んで冷やして固める。チョコレートの技術が応用でき、それが固形ルウの開発に繋がった。ちなみに江崎グリコの「絶品カレー」では、固形ルウの中にゲル状のルウが入っている。2種類のルウを使う技術を持っていて、これはチョコレートのノウハウから来ている。
  • 1963年にバーモントカレーを出して全国区になった。当時、カレーは大人の食べる高級な食事で洋食店に行って食べるものだった。しかし、バーモントカレーによって子供も食べる家庭の味にした。当時は子供の栄養が問題になっていて、ハイカロリーな食品が求められていた。カレーは効率的にカロリーを摂取できる食品だった。
  • ハウス食品は売上の25%がカレー関連商品。国内シェアは約6割を占め、カレールウでもレトルトカレーでもトップメーカー。長年シェアはほとんど変わっていない。ほぼ横ばいで推移している。
  • ハウス食品は子供向けにバーモントカレー、大人向けにジャワカレーを提供している。子供の成長に合わせてステップアップするようにしていて、ハウス食品は子供向けで圧倒的シェアを持っている。他社にとっては、いかにステップアップのタイミングでシェアを奪うかが問題になるし、ハウス食品はステップアップにいかにつないでもらえるか?が問題になる。


<ハウス食品の事例1:こくまろカレー(1996年)>
  • バーモントカレーやジャワカレーが登場してから40年経ち、新しい商品が必要という機運が高まっていた。
  • 江崎グリコが「熟カレー」を出して来た。辛さではなくてこく・旨みを追求することで、子供も大人もというコンセプトを生み出した。
  • カレーの商品を「辛くない←→辛い」「大人向け↑↓子供向け」の2軸で分類すると、ジャワカレーは「辛い・大人向け」で、バーモントカレーは「辛くない・子供向け」に位置していた。グリコはジャワカレーでもバーモントカレーでもないところを狙って熟カレーを投入して来た。
  • ハウス食品の「こくまろカレー」は熟カレーというグリコが作った既存のニーズに対応する商品を投入した。大人のコク・子供のまろやかさを楽しむ両方が楽しむセグメントが出来上がったが、バーモントカレー・ジャワカレーにとってはセグメントを侵食し始めて脅威となって来た。価格の安いこくまろカレーが出たことで、シェア的には変わらないけど、利益が減る方向に行った。


<ハウス食品の事例2:プライムカレー(2006年)>
  • 新しいコンセプト商品がなくなっていて、流通サイドからは何か新しい商品が欲しいと言われていた。
  • 60年代は国民の栄養状態が悪かったので、ハイカロリーが尊ばれた。過剰摂取されるようになった90年代以降はカロリーが敵になった。ハウス食品の中央研究所の読みとして、低油脂カレーが必要になると思って開発し始めた。市場で明確な消費者ニーズがあったわけではなく、ハウスの都合で開始した。
  • 油にはマスキング効果があり、油によってスパイスの香りが弱くなってしまう。低油脂の場合は、同じ配合量であってもスパイスの香りが強くなる。口に入れた最初の香りも良い。
  • また、油には味を持続させる働きもある。スープカレーは味がすっと消えるので、従来のカレーを期待すると物足りない味に感じてしまう。
  • 90年代終わりに味・食感とも遜色ない低油脂カレーを開発していた。
  • 中央研究所とマーケティング部門で「次世代カレーとしての低油脂カレー」を検討し始めた。しかし、食品業界には「健康=まずい」という認知があるため、健康を前面に出すことはリスクが高いと思われていた。そこで、低油脂の「香りたちの良さ」を前面に出した商品コンセプトに変更したのがバーモントカレー・ジャワカレーのプライムシリーズ。「固形ルウのこだわり」「一目でわかる新技術」「美味しさを一番に訴求」にこだわった。
  • 食品は保守的市場で、新しければ売れるわけじゃない。家庭の味があるので、カレーすら作れないというのはお母さんの存在意義に関わる。新しいルウに手を出しにくい。
  • 油を減らす=フレーク状のルウも考えられ、スーパーでもたまに売っている。日本市場においてカレールウとは固形であるという印象が強い。圧縮整形する技術を活用して顧客のニーズを聞いて開発したわけではない。自社のコンセプトに基づいて行っていた。
  • 低油脂な商品だけれど、低油脂を伝えるのは一番最後。情報は小出しにして、プライムシリーズのリピーターがつくかを見定めて情報発信を工夫した。辛味から香味(=高級)へのシフトが起こった。プライムを出した頃から、ハウス食品の営業利益も改善。


<まとめ>
  • こくまろカレーは、マーケティング部門が持って来た市場ニーズから生まれた。 マーケティング部門が商品開発において主要な役割。
  • プライムカレーは、技術が新しいコンセプトを導いた。技術部門が起点となり、マーケティング部門と議論を重ねていった。
  • 成熟期に向かうインテグラルな変化ではニーズに応える改善が重要で、脱成熟期に分断的・破壊的イノベーションが求められるときは大きな転換を伴う。ニーズがあると言うよりも、知恵・工夫で世に新しい製品を送り出したいときは技術起点が多い。
  • 技術シーズが研究所にあるだけでは作れなかった。創発的コンセプト開発では研究所とマーケティング。製品コンセプトを作る人とマーケティング担当との対話・消費者テストが重要。どれを当てはめれば市場にニーズに当てはまるかを考える。
  • 食品メーカーは感性価値を重視している。機能偏重のエレクトロニクス産業とは異なる。日本の産業が感性価値を生むように変わらなくてはならない。





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