法政大学大学院政策創造研究科 坂本光司教授 最終講義
<最終講義にかける準備>
- 1年前から準備して来た。坂本先生からは「そんなに大きくやるな。100人くらいでやれ」と言われたが、ゼミ生としては多くの人をお呼びして盛大にやりたいと思っていた。先生を説得するのが大変だった。
- 坂本ゼミは67名の社会人学生で士業・経営者・幹部が参加している。人を大切にする経営を2年間学ぶ。毎週土曜日午後に社会人学生がゼミ室に集まってくるが、日頃忙しい中で、ゼミには生き生きと出席していた。
- 坂本先生は「私の使命は教育者として、ゼミ生に良い経営者になってもらうこと。1つでも良い会社を作ってもらうこと」として、10年間どんなことがあってもゼミを休講にしなかった。
<オープニング>
- 会場を見渡すと、昨日の「日本で一番大切にしたい会社大賞」の表彰式に来てもらった人が多いように見える。あまり大きな規模でやるのは自分の好みではない。老兵去るのみと思っている。多くの人に集まってもらって申し訳ない気持ち。
- 残された仕事が山ほどあり、しんみりする気にはなれない。3月で法政大学を退官するが、12月まで週2日のペースで研修や講演がずっと入っている。営業をしたことは一度もなくて、日程が空いていればお引き受けすることを貫いてきた。営業の産物ではない。その意味で「何が最終講義だ」という気持ちにもなりますが(笑)
- 9月からやりたくもないのだけれど、大学院の仕事も入ってきている。これまで以上に忙しい日になる。今日が最後で、これから喋らないということはない。これからも喋るのでよろしく。
【講演】
- 破壊のための破壊ではなく、新しい価値を提案して古い価値を破壊しなくてはならない。破壊のための破壊ではダメ。間違った価値観・化石のような価値観を丸ごと洗濯しなくてはならない。嫌な制度・嫌な法律を創造的破壊をして他界すべきだ。「悪しき制度は我らが最後に」という覚悟が必要。
- 経営学の中で手法論を教える先生は多いが、そもそも論・本質論を知らない先生も多い。多くの人が不幸な人生を送っている。国の財政が真っ赤っ赤というのは企業が社会に貢献できていないということ。
<企業とは何ぞや?>
業績業でも働かせ業・商品提供業・金儲けの道具ではない。
- 環境適応業:時代時代に応じて変化する。企業自ら
- 市場創造業:これはと思った市場に価値を創造すること
- 雇用維持・拡大業:雇用の場を保有する
- 幸せ創造業:組織に属して良かったと思わせる
- 人財育成業:大学が最後の教育機関ではない。人を成長させる使命
- 納税責任業:税金を納める。私たちは福祉のお世話になるのかもしれない。税金を納めることができない会社は社会の寄生虫である。
- 地域・社会貢献業:納税してさらに貢献する
この7つを行う業が企業である。これがそもそも論であるが、これが欠けている。人をコストと見る馬鹿げた経営学が多い。
- ライバル企業を競争で打ち負かすと、相手の企業の社員はどうなる?ライバル企業の中に重度の障害を抱えた従業員がいたらどうする?勝負に買ったと美酒に酔って良いのか?誰かの犠牲の上に成り立つ経営学は正しいのか?
- 業績向上の手法を教えているが、企業のあり方そのものを繰り返し教える必要がある。あり方論・そもそも論を十分教えてこなかった。
- そのような経営者を育ててきた大学・ビジネススクールは罪深い。いかに法律にかからずに人をクビにする方法を教えている。リストラとは言葉を借りた殺人行為である。講演会場で痛烈に「あなたが、あなたの息子がリストラにあったらどう思うか?」と指摘したこともある。
- 関係する人の幸せを追求し、実現するのが経営の究極の目的。目的を実現するために業績は重要だが、勝ち負けを目的とした経営を実践すると、必ず誰かを不幸にする。
- 売上は業績ではないし、費用も業績ではない。業績は利益。売上が上がらなければ、費用を下げなければ業績は上がらない。費用・原価で最もかかるのは原材料費や仕入れ費用が主だが、その次は人件費となる。
- 精神障害が増えているが、これは社会が生んだ病であり、会社が生んだ病。いい加減な経営をしているから、精神障がい者を乱発している。経営学が人を不幸にしている。業績追求の経営学が人を不幸にしている。
- 顧客第一主義、株主第一主義の前に従業員第一主義を打ち出す。赤字の会社は正しいことをしていないということ。
- 業績は顧客が与えてくれたお礼であり、神様が与えてくれたご褒美と考えている。日本の企業の7割は赤字。正しいことをやっていない。正しくないことをやっている会社が赤字になるのは当然。
- 社長は社員第一主義だと言っているのに赤字の会社もある。その場合、相手(社員)が大切にされていると実感しているか?の方が大事。社長だけがそう思っていてもダメだが、社員が実感している会社で赤字になっている会社は存在しない。
- 外国で講演した時、その考えは日本では通じるが、うちの国では通じないという質問がきた。幸せな人生を送りたいという考え方は同じじゃないか。不幸になりたいと思う人はいない。
- 労働組合も考え方を間違えている。経営者と管理職が大切にしなくてはならないのは社員とその家族だ。社員が大事にしなくてはならないのは顧客や仲間です。自分ではありません。順番を間違えないように。経営者に「社員第一主義」をアドバイスしていた時、組合の会合に呼ばれたことがある。組合にとっては最強の応援団が来たと思ったのに「社員なら自分を守るな」と指摘して、しらけるときもある。
- 制服が違うだけで、我が社のために頑張ってくれる会社がたくさんあるはず。外注先など外部経済。顧客は大切にするけど、仕入れ先を大切にしない会社が多い。三方よしにしちゃうと大事な人を消しちゃう。二人目の社外社員(取引先)を大切にする気持ちが大切。誰かの犠牲の上に成り立つ経営は正しくない。自社ではやれない仕事、やりたくない仕事をしてくれる会社を大切にするのは当然。
- 問題は本質問題と現象問題とがあるが、現象問題への対応に終始している会社が多い。熱が出たからといって風邪薬ばかり飲んでいたら死んでしまうよ。きちんと原因を追求して本質的な問題を解決しなくてはいけない。
- ES無くしてCSなし。これが原理原則。なぜこれに気がつかないのか?
- 神様はバランスを取ってくださっている。深夜まで自分を育ててくれた親の介護をしている人が8時~17時でフルタイムで働けるか?ようやく授かった子供に障がいがある人もいる。そういう人が会議の途中で居眠りするのは常識。それを非常識と考えるのがおかしい。お互い様風土を持つ、温もりのある会社。重き荷物を背負って生活している人もいる。その人に個人戦を敷いて、負けた人がどうする?
- 企業は社会的公器である。社会の関わりを活用している。だからこそ納税はもとより、地域貢献・社会貢献は義務である。余裕があるからやるのではない。義務である。経営者は決して企業を私物化してはいけない。そのようにする経営者は退出させなければならない。
- 日常的に長時間働く会社ではダメだ。幸せを感じるのは夕食の団欒の時。見て来た良い会社の残業時間は最高でも月に20時間。それでも珍しい。
- 経営は命がけのはず。覚悟を持て。人間は景気の調整弁ではない。
- 中小企業は大企業ではなく、社員を通じたサービスを提供すべき。社員が最大の商品。ファンづくり経営をすべき。中小企業が本来大企業がやるべきビジネスに進出し、生きてはいけない世界に生きて支援を求めるのは間違っている。
- 「あるべき姿」―「現状」が問題。あるべき姿が定性的・定量的に示されなくてはならない。一所懸命やったけどうまくいかないのは、あるべき姿を描けていないから。
- 「研究開発機能」「生産または調達機能」「直販機能」の3つの機能が大切。うまく行かないのは前行程と後行程がないことが理由。何か1つの機能だけを行って、うまく行かないと嘆いている会社は間違えている。
- 経営課題は全て人財問題。企業も行政もここにメスを入れなくてはならない。政策では中小企業経営者は正しいことを前提としている。人財不足という問題では従業員が足りないもんだを指している。しかし、どんな組織にも人財はいる。むしろ2年連続赤字企業の経営者の講習をやったほうが良いのではないか。平時において赤字を出すというのは経営が間違っている。
- 誠実に働く社員の都合・社員と家族のために経営すべき。残業の割増賃金を5割増し、22時以降は倍とすれば変わるはず。働き方は多様であって、法律で縛るよりも風土形成を促すべきだ。
- 社員の働き方に本質があるのではない。経営者の経営の考え方・進め方やその資質にこそ問題の本質がある。
- 働きがいを感じる人は全体の50%に過ぎない。自分の能力の10~20%しか発揮していない。有名企業の能力発揮度が問題。発揮できない。社員が能力を発揮しても意味がないと思っているのが問題。過去の遺産を食いつぶして生きている。遺産がなくなったら終わり。大企業も頑張ってもらわなくてはならない。
- 地方の大学の最大の問題は大学にある。中小企業は地方にあるので、本来は地方にいた方が良いのだが、まともな研究や教育ができないのが問題。学生は上から埋まって行く。質を高くしなければならない。うまくいかなかった。50%の大学は定員割れになっている。大学教育はそれで良いのか?という意識はある。
- 高等教育審議会から審議員をやってくれと言われて好きなことを喋ったが、次の年には依頼がこなかった(笑)。社会人経験を積んで10年たった人を教員にしないといけない。
- 医療や物理は企業がやらない。でも経営は大学でなくても企業でやっている。限りある血税は弱者のために使うべき。
- 異常が長く続くと異常があたかも正常に見える。異常と比較しると正常があたかも異常に見える。
- 現場に勝る経営学は存在しない。経営学の成果物を作っているのは企業経営者である。
- 恐ろしいほど背中を見ている。トップの姿勢は大きい。
- 家族を大きくしたのが会社。社長が父で上司が兄姉、若手が弟妹。
『人を大切にする経営学講義』(坂本光司:PHP研究所)
「日本でいちばん大切にしたい会社」シリーズの坂本先生の著書。
【人を大切にする経営で、幸せを追求・実現すべき人】
社員とその家族:顧客満足の実現や感動的な商品・サービスを提供するには、社員満足が実現しなければ成り立たない。家族まで含めた幸せを考える。
社外社員とその家族:仕入先や協力企業の社員を「社外社員」と位置付ける。仕入れは安ければ良いというコストという位置付けではない。
現在顧客と未来顧客:顧客が大切だからこそ、顧客に価値ある製品・サービスを提供する社員と家族・社外社員と家族を大切にすると一体に考えることが大切。誠実に利他の心で提供する。
地域住民・障がい者・高齢者:人間は時間が経てば社会的弱者になる。それを支えられるように貢献活動だけでなく、雇用責任を担うべし。
出資者:ここまでの4人の幸せを実現できれば、結果的に5人目も幸せにできるはず。
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