2018年3月19日月曜日

20180319:木村福成先生 東アジア国際分業の変貌と日本企業

今日は淺羽先生・竹内先生のグローバル経営研究会に参加。

講師は慶應義塾大学の木村福成先生「東アジア国際分業の変貌と日本企業:継続課題と新たな挑戦」

<イントロダクション>
  • 国際経済が専門で、東アジアの国際分業について研究している。生産工程を単位として分業する国際的生産ネットワークの分析を行っている。
  • この34年でデジタルエコノミーという随分と新しいことが起きてきた。これをどのように組み込んで開発戦略に入れて行くのか?
  • エビデンスベースの政策評価が重要視されているが、それはデータが揃ってないと何もできないということ。まだデータもろくにないデジタルエコノミーの世界にどうアプローチするのか?もう現実は先に進んでしまっている。経済学の直観がどう使えるのか考える必要がある。


【アンバンドリング】
ジュネーブ国際貿易論学者であるボールドウィンが提案している。 
第2のアンバドリングが起こった機械産業では日本企業の役割が大きかった。第3になったときに日本企業はどのように関わって行くべきか?
地理的な距離をどのように克服するか?技術体系が変わって克服することで分業ができる。

<第1のアンバンドリング>
  • アンバンドリングされる前は国内で生産したものを国内で消費していた。貿易されるのは奢侈品に限られていた。
  • 1820年以降、鉄道・蒸気船の登場によって大量の製品を安く遠距離運べるようになった。輸送コストが下がった結果、生産と消費がアンバンドリングされた。生産されたものを別の国に持って行って消費するようになった。
  • 産業ごとに原材料と完成品が貿易されるようになり、比較優位による特化が起きた。技術水準によって分業するため、先進国と新興国の間の相対的な所得差は開いて行った。


<第2のアンバンドリング>
  • 上流から下流まで一貫して作っていたが、ICT革命によってコミュニケーションが著しく下がった結果、生産工程やタスク単位で分業することができるようになった。特に機械産業は生産工程の分業が得意で、取引量も多かった。
  • 新興国には労働集約的な生産ブロックが入ってきて雇用を産んだ。さらに製造業周辺のサービス業ができたことで持続的に雇用が創出され、貧困撲滅が早いスピードで進んだ。一方で、資源産業ベースの経済が起こった新興国では経済成長と貧困現象は必ずしも同時に進まなかった。
  • 中国・メキシコ・コスタリカ・シンガポール・マレーシア・タイなどではこのような動きが進んでいる。インドネシア・ベトナム・フィリピンなどは集積の形成が十分にできていないし、カンボジア・ラオス・ミャンマーはようやくオペレーションの段階に入ったところで拡大の余地上がる。
  • 近距離の取引では現地子会社と中小企業との企業間取引を行う。一方、国境をまたぐ遠い距離では企業間の取引は不安定になるので本社と現地子会社の企業内取引となる。生産の分散立地と産業集積が同時に起こった。


<第3のアンバンドリング>
  • ICTがさらに進化したことで、Face to Faceのコストがさらに下がり、企業や組織単位ではなく、個人レベルで分業ができるようになった。BtoCCtoCのマッチングも容易となり、在宅勤務とか、技術者個人に仕事を振るなどのビジネスができる様になった。
  • アジアには既存の産業やビジネスモデルがないので、デジタル技術に基づく経済活動は先進国よりも早く適用され、どんどん入ってくる。
  • eコマースを自由にやろうとしたら、セキュリティやプライバシーなどバックアップポリシーが必要。既存産業がないので、あっという間に広がる。ハード・ソフトのインフラは薄い。


第2のアンバンドリングではFTAが大事だったが、第3では消費者個人が大切になる。ハードインフラの社会では外との世界とのつながりや生産面のバックアップが大切だったが、第3では消費者対応が重要になる。
どのような中小企業を振興するのかは、アンバンドリングの世代を考える必要がある。

<フラグメンテーションセオリー>
  • 上流から下流まで見ると色んな工程(生産ブロック)がある。ある工程は労働集約的で、ある工程は技術者が必要ということもある。フラグメンテーションが起こるには2つの条件が必要となる。
  • 1:生産ブロックにおける生産コストが下がらなくてはならない。労賃が安い場所やロジスティクスの優れた場所などを選ぶなど。
  • 2:サービス・リンクのコストが高すぎると成り立たない。部品や中間財を運ぶコストや時間、コーディネートや技術移転のコストが下がらないとできない。これができる国とできない国がある。


機械産業の全輸出・全輸入を見ていると、下記のような傾向が見られる。
1970年代:完成車を輸出する国、輸入する国が綺麗に別れている。
1980年代:部品の輸出・輸入が増えている
1990年代以降:部品の輸出・輸入が大きく増えている
各国がちょっとずつ分業して中間財のやりとりが増えている。

Extensive margin
  • 時代ごとに輸出している商品数と輸出している国の数をプロットすると、国の特徴が現れる。
  • シンガポールとフィリピンでは輸出仕向け国が増えており、ベトナムでは商品数も輸出仕向け国の両方が増えている。カンボジアやラオスは未だに部品が少ないく、輸出先も少ない。


<産業集積>
  • バンコク周辺を見ると40弱の工業団地ができて分散立地している。8割はジャストインタイムに対応して2時間以内で小ロット納品される。
  • バンコクでは高速道路網がちゃんとできている。農村部から労働者が都市部に入って来るが、分散して居住しているので生活費が上がらない。タイの場合は製造業の賃金の上昇が他の国よりも遅い。産業集積の都市デザインによる。
  • 技術者はバンコクの近くでアーバンライフを送っている。大きな港湾や空港もあるので外とも繋がりが大きい。タイの特徴として道路建設は王様が必要と行ったら住民は立退くので土地利用がとても楽。産業集積デザインがうまくワークした。バンコクは面の状態で集積が進む一方で、ジャカルタは点で局所的な集積が進んでいる。


<貧困撲滅>
  • 新興国では貧しい人たちがいて、労働需要ができると、安価な労働力がスムーズに供給される。需要が活発でも農村部から都市部にやって来る貧しい人がいる状況であれば、賃金が上がらない。結果、製造業のコスト競争力がなかなか下がらない。タイでは都会に行ったらすぐに職につける。
  • 一方で南アジアでは貧しい人が農村部やスラムにいるのだが、工場労働者になれない。供給が絞られているため、労働需要が高まると賃金が高くなる。貧困層からフォーマルな雇用に移動するのが難しい。労働供給では教育ギャップが大きくなっていて十分な雇用が創出されていない。


【講演】
  • 経済活動が集中するか、分散するかという視点でみる。
  • AIなどの情報処理を担うITが普及すると、タスクの数を減らして分業する必要がなくなって集中を促す。
  • 一方でCTによってコミュニケーションのコストが下がると、地理的コストを克服して分散を促すことが考えられる。
  • 分散力をいかに利用するかが鍵ではないか。世界のイノベーションをキャッチする窓を開けておく必要がある。
  • プラットフォームビジネスはネットワーク効果が大きく、参入コストが低い。技術変化も早い。
  • 中国は国内市場が大きくて自国の企業を育ててきた。ASEANではアマゾンやアリババに入ってきてもらった方が良いのか考えなくてはならない。大手の参入を恐れて何もしないのはコストが大きい。
  • 東南アジアはハードインフラ・R&Dストック・人的資源がどれも薄い。
  • 国際ルールは混乱状態にある。データの扱いに関するフィロソフィーは重要。基本的にはデータの移動は自由と考える向きもあるが、ヨーロッパではプライバシー保護意識がとても強い。EUの中はデータローカリゼーションをやる。プライバシーの情報は外に持ち出さないというポリシーを出しており、EUと同じレベルで保護している国にはデータを出す。電子商取引をどのように作っていくか。




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