今日は淺羽先生&竹内先生の企業イノベーション研究会
講演は根来先生の「破壊的イノベーションと既存企業の対応戦略」
60分講演、フロアとの90分の自社事例を踏まえたディスカッションという構成は面白い。
<イノベーション:代替の歴史>
- 1995年に発売されたカシオのQV-10は画期的な商品で、商用で成功した初めてのデジカメと言える。そもそもカードがついてないし、PCに繋がないと見えないし、解像度が低くて記念写真は撮れなかったが。
- 富士フィルムのFinePixは旅行に持っていけるレベルになって、カメラのメイン用途が置き換わっている。
- iPhone Xに至ってはカメラ機能を持つ別物であり、コンパクトデジカメを使わずにスマホを持ち歩くようになった。
- 既存品と代替品の関係は進化している。技術が育つと、新しい用途が出てくる。スマホで写真を撮る人はSNSに投稿するという新需要を前提としている。
- 既存企業の利益源を奪う「新しいバリュープロポジション」を追求する人をディスラプターと呼ぶ。このインパクトを持つ新しいバリュープロポジションを破壊的イノベーションと呼ぶ。これはクリステンセンの定義とは異なる。
<部分代替の概念と事例>
- いきなり全部を置き換わらないと考えることが重要。全てのものが完全代替に変わるのは、長い時間を取っても無理がある場合もある。
- アナログカメラは7年でデジカメカメラに置き換えられたが、現在進行形の製品が、いつ全部置き換わるかはわからない。全部変わるのに何年変わるかわからない。
- 電子書籍は2003年にソニーとパナソニックが出したが売れなかった。ソニーがアメリカに持っていったらそこそこ売れた。私は、d-マガジンで読める雑誌しか読まない。電子書籍は雑誌にとっては厳しい競争相手だが、紙媒体の書籍の代替は完全に電子化されるとはわからないし、スピードもわからない。絶対数としては紙の本の方が圧倒的に多い。紙の本がなくなって本屋が潰れているわけではない。
- 鉄鋼会社の例では、鉄が車のボディに使われ始めたのは20世紀のはじめ、その前は木だった。ただ、自動車では今でも鉄で使われていて鉄以外の材料に変わるイノベーションは起こっていない。しかし、材料として見た鉄でも部分的な代替が起こっている。鉄鋼製品は代替が進んでいるが、自動車用鋼板は100年以上続いている。薄い・錆びない・加工しやすいなど持続的イノベーションが進んでいる。鉄の缶はペットボトルに変わったが、缶詰はいまだに鉄が使われている。
- 7~8年で切り替わってしまうなら、経営的にも割り切れるが、20年~50年で切り替わるものをどう考えるかが経営的には難しい。
<プロセス代替の概念と事例>
- パソコン(汎用製品)とワープロ(特化製品)の例:1988年にパソコンがで始めたが、ワープロのピークは91年くらいだった。ワープロのリーダーとパソコンのリーダーは同じだった。
- 要素技術を含めて、パソコンを作るプロセスとワープロを作るプロセスには類似性があった。技術者や工場をワープロからパソコン工場に転換することが可能で、バックヤードも共通していた。パソコンが立ち上がり始めたとき、ワープロ市場はまだ残っていた。転換して企業内が大混乱に陥るものではなかった。バリューは大きく変わるけど、プロセスが似ている場合
- 一番怖いのは製品代替が完全に進んで、プロセスが全く異なる場合。製品代替とプロセス代替を分けて判断することが重要。両方が急速に進むことが怖い。2種るの代替には独立の要素があり、片方が急速ではないということもありうる。
<既存企業の対応戦略の行き詰まり>
- 日販「本やタウン」(1999年):ネットで注文して書店で本を送料無料で受け取れるサービスだった。当時、アマゾンが日本参入してくるのは時間の問題と思われていた。ネット販売に出るべきであったが、既存書店を潰すことはできず、結局全く成功しなかった。書店が減って来てはいるのは確かだが。
- 読売新聞:紙を取っている人だけにデジタル版をサービスをしているが、他の新聞社は電子版だけでもやる。読売は電子版だけ売りたくない。紙を守りたいし、販売店が嫌がることをやりたくない。主観的合理性はある。ナベツネの合理性かもしれないけど。しかし、読売新聞の10年後、20年後を考えたときにこの決断は大丈夫なのか?
- 対応戦略は客観的な矛盾構造を孕む。
- 1つはカニバリゼーションの問題。デジタル化を進めると既存製品がカニバリを起こす。電子版を普及させようとすると、紙の新聞を食ってしまう。しかし、そのデジタル化の進行速度が読めないことは課題。5年後に「紙媒体がなくなる」「本屋がなくなる」という確信があれば、あのような背略はやらない。この先を読めないゆえに、代替のスピードが遅くなると考える傾向がある。拡大や大体はゆっくりだろうと考えてしまう。
- 2つめは資源の問題。デジタル化によって社内に余剰が生まれるのは困る。新聞社としても、系列販売店という資源が余剰になってしまうととても困る。雇用や取引先との信頼関係を守りたいという気持ちがある。それを壊してまで進めたいとは思わない。また、デジタル化に即した人材を確保できない。資源の余剰と不足の両方現れると、動きが鈍くなる。
- 制約の方は主観的だし、突破する人もいるかもしれない。多くの人は制約を前に動けなくなる。進行が遅いと見て、余剰があると動きが鈍る。対応戦略は客観的矛盾の中で対応を考える必要がある。
<対応戦略>
防衛-退却:ニッチ市場に縮小する
防衛-収穫:部分的にデジタル化しつつ、既存事業を長持ちさせる
攻撃-破壊:ビジネスモデル転換を図り、既存事業を代替する
攻撃-創造:既存事業のことを考えず、対応という受け身ではなくて自ら新しいビジネスモデルを作る
- 退却戦略例(ツタヤ):急速に閉店を進めている一方で、書店ビジネスを拡大している。書店市場全体では縮小しているのに、あえて参入している。しかし、パフォーマンスを見るとうまくいっている。ツタヤはフランチャイズビジネスなので、フランチャイジーを潰してしまうのは問題。書店ビジネスはフランチャイジーも参加できる。
- 収穫戦略例(日経電子版):電子版と宅配の価格差を調整して、できれば両方取ってほしい。紙が減るのはしょうがないが、一気に電子版に変わるとも予測できない。日経新聞は他の新聞と比較して系列販売店は少ないが、印刷所や流通スタッフはいる。できるだけ紙を長持ちさせて両方やりたい。電子版+紙の購読数合計を見ると横ばいで維持できており、朝日新聞や毎日と比べて被害が小さい。今のところうまくいっている。
- 収穫戦略例(コメ兵):中古ブランド品に特化したフリマアプリ。鑑定機能という自社の資源を使って後発で参入したが、デジタルビジネスに慣れていない。全く伸びていない。
- 破壊戦略例(リクルート):リクルートはもともとマッチングビジネスをやっていた会社で、一気に変えてしまおうという戦略を取った。もう行くところがないと腹を括り、自ら破壊してデジタルでもトップシェアを取っている。じゃらんも雑誌があったが、じゃらんネットに変わった。雑誌は広告ビジネスで営業担当のインセンティブにも基づいていたが、ネットは手数料ビジネス。変更の時には強い反発を受けた。リクルートは新ビジネスで活性化させる文化があり、破壊に成功した。
- 創造戦略例(コマツ):もっと難しい戦略。2003年からKOMTRAXを開始し、建機に通信モジュールを標準的に搭載することで、建機の稼働を最適化して、修理のアナウンスができるようになった。施工計画のシミュレーションができ、スマートコンストラクト自分の建機を使う施工計画に多角化するようになった。
- コマツが開始したLANDLOGではAPIが両方オープンになっている。建機はコマツ以外でもキャタピラーや日立建機でも良いし、トラックやドローンも存在する。また、LANDLOGに集まったデータは、オープンAPIで出す。自社以外でも他の会社が使うこともやる。自社はいくつかのアプリケーションをやる。競合のものもいれても良い。これだけでコマツの競争力が高まるとは言えない。データ独占もしない。手数料ビジネスで世界ナンバー1になる。ハードの販売でキャタピラーを追い抜くのは難しい。北米で取れず3分の1の規模しかない。データを引っ張るところで課金している。
<両利きの経営>
- 客観的矛盾構造を持ち、どの戦略をとるかを自由に考えられるわけではない。
- 「デジタル市場への進出」と「既存ビジネスの維持」の2軸で考えると、破壊と退却戦略についてはそれほど判断の余地がないし、それ以外できない。スタッフを大量解雇して一気に電子版に変わるというわけにはいかない。やっても仕方ないと思っている。そんなに急速には進まない。
- 創造戦略(攻撃)か収穫(防衛)は既存もデジタルも両方やる両利きの戦略だが、これらは固定費が高い。
- 対応戦略を考えるときは「代替の範囲がどう拡大するか?」「製品代替に伴うプロセス代替は大きいか?」の2つのことを読まなくてはならない。
- 代替範囲の拡大が急速の場合は、破壊か退却かしかない。7年で既存製品を急速に置き換わるなら、収穫や創造をやっている場合じゃない。
代替範囲(速)プロセス代替(大):退却
代替範囲(速)プロセス代替(小):破壊
代替範囲(遅)プロセス代替(大):創造
代替範囲(遅)プロセス代替(小):収穫
<主観的制約と対応戦略>
- 製品レベルとプロセスレベルの変化が読めれば、選択肢は絞られる。しかし、既存企業は読みが「ゆっくり」と見ているので外れることもある。
- 客観的構造を制約と見る。突破できるかどうかは人によって違う。楽観的な経営者は制約を広くとるし、気配りしすぎる人は制約を狭くとる。経営者はフリーハンドでは動けない。生存可能領域がずれることがある。
- 既存企業は客観的矛盾構造の中にあり、読みが浅くなる。主観的可能領域が狭くなり、読みが外れると悲惨なことになる。
- あるべき対応戦略とは、代替の範囲を甘く見積もらないこと。イノベーションのスピードは速いかもしれないと考える。
- 収穫戦略をとりたくなるけど、退却・破壊戦略をとる必要があるときもある。余裕がある企業は創造戦略に取り組むべき。
- コンセンサス中心でやっていたら、やって行けない。社内にも感度の違う人がいるので、中心でコンセンサスを取ろうとすると遅くなる。ギリギリでコンセンサスを取ることが良いのではないか。これをやると社内に敵ができるし、嫌がる人はいるけど。
- 竹内先生:若いときはゲインを最大化しようとする。年をとるとロスに対してセンシティブになる。
【WBS漫才】
- 淺羽先生:配布資料の後ろの方に根来先生の紹介があります。スライド番号に「115」と書いてあって、意味がわからないんですけど(笑)
- 根来先生:3時間分のコンテンツを大幅に端折って持ってきたので、本来のスライド番号が残ってしまっていたんですねー
- 根来先生:マイケル・ウェイドの「対デジタル・ディスラプター戦略」の話をしてくれと言われていたが、そもそも他人の話を紹介するのは面白くない。浅羽ゼミは私のプライドの高さを知らないのかと言う感じ(笑)いじるネタはたくさん用意してきました!
- 根来先生:私は早稲田大学ビジネススクールの責任者を6年やった。善人の淺羽先生には8年、10年とやって欲しい!という言葉で、本日のプレゼンテーションを終了したいと思います。
- 淺羽先生:本当にそれで終わりで良いんですか?(笑)みなさん、最後のメッセージは完璧に忘れて結構です。
- 根来先生:(勤め先の鉄鋼メーカーでのエピソードが盛り沢山)
- 淺羽先生:不満が根来先生の活力の源なんだろうなーと分かりました(笑)
- 根来先生:今日喋った早稲田大学のことは全部愚痴ですから!(笑)
- 淺羽先生:そのことは、今後改めて個人的にお話を伺います。
【ネゴロク@丸の内】
- 投資が終わると事後チェックをしないのが日本企業の凄いところ。
- 利益は必ず売上より小さいが、マイナスは売上を超えることもある。凄いね!
- オーナー経営者の書く本は役に立たない。「役員会全員が反対したから、俺は敢えてやった」とかいう話があるけど、そんなことサラリーマン経営者ができるかー
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