『社会科学のリサーチ・デザイン 定性的研究における科学的推論』(G・キング、R・O・コヘイン、S・ヴァーバ:勁草書房)
ハーバード大学政治学部で「社会科学における定性的分析の方法」という大学院演習がベースとなって出来ている。
条件を揃えて再現性も取れるラボの中で実験ができる物理や化学と違うし、なんでもかんでも観察してデータを増やせば良いという訳でもない。
本書では研究の事例が政治学なので畑違いの人も多いと思うが、定性的な研究の上で事例の観察をどのようにするか、どのようにデータを取るかイメージが湧きやすいと思う。
実験はできないけど、確かにクーデターや革命の研究をしてメカニズムを解明することは大切だものなぁ。
以下は読書メモ
<研究の問い>
- 現実世界で重要であるべし
- 学問の発展に貢献すべし(既存の業績の枠組み内に自分の研究設計を明示することで、到達水準を理解できる)
<理論>
- 反証可能な理論を選ぶ
- できるだけ観察可能な含意を作る。
- 具体的にする。
間違っている理論からの方がより多くを学べる。
集めたデータを見た後で、より広く適用できるように条件を緩和する修正は良いが、適用できる幅を狭めて条件を増やすように修正するのは避けるべし。不適切な理論の救済になってしまう。新しいデータを集めることなしに、理論を限定的にしない。
<データ>
- データを作り出す過程を記録して報告する
- 観察から可能な限り多くのデータを集める
- 測定の妥当性を高める
- 再現性のある方法でデータを集める
- データと分析が追試可能であるようにする
<データの使用>
平均して正しいデータとなるような、バイアスのないデータを用いる
- 選択のバイアス(母集団を体系的に歪めるようなやり方で観察対象を選んでしまう)
- 変数無視のバイアス(説明変数と相関し、従属変数にも影響を与える変数を無視してしまう)
データは有効的に活用する。データに含まれる関連情報の全てを用いる
<推論>
記述的推論:観察された事実から、観察されない事実に関する情報を推論すること。観察された事実の中で、体系的な部分とそうでない部分を区別すること。
因果的推論:1つの現象が起きる原因を知ること。
推論に伴う不確実性を最小限にし、それでも残っている不確実性を正直に報告する限りにおいて、因果的推論を行うべき。
因果的効果:実際の観察結果と半事実的条件で得られたであろう結果(もしそれが起こらなかったらどうなっていたか)との差
単位同質性:説明変数が同じ値をとる場合、従属変数も同じ期待値を持つと仮定する
条件付独立:説明変数の取る値が、従属変数の取る値によって左右されない
1)説明変数の取る値を割り当てる過程が、従属変数の取る値から独立している
2)選択バイアスがない
3)変数無視バイアスがない
<因果的推論>
- ルール1:反証可能な理論を作る。謝り得ない理論は理論ではない。理論が世界のどの程度の範囲を説明できるのかを把握しておく。例外の多すぎる理論は棄却されなければならない。
- ルール2:ない的に一貫した理論を立てる。一貫していないと、最初から間違っている理論ということになる。数理的にフォーマルモデルを利用することも有効。
- ルール3:従属変数を注意深く選ぶ。
<変数の選び方>
- 従属変数はあくまでも従属的でなければならない。説明変数に変化をもたらす従属変数を選ぶ場合もある。外生的な説明変数、内生的な従属変数を選ぶ
- 従属変数が一定となる観察を選ばない。因果的効果がゼロを意味しているにすぎない
- 説明しようとする変動を代表する従属変数を選ぶ。従属変数は取りうる値全体をカバーするように設定する。幅や値を意図的に制限すると選択バイアスをもたらす。
- 具体性を最大化させる:抽象的な概念の代わりとなる測定可能な指標を選ぶ。実証・反証のためには観察可能な概念を選ぶ。
- 可能な限り包括的に理論を述べること:反証可能で具体的である限りにおいて、なるべく広い範囲に適用できる理論を記述するべき。
<不定な研究設計>
因果関係に関する仮説について何も学べない研究設計
- 観察された含意よりも多くの推論を行う
- 2つ以上の説明変数が完全に相関してしまっている
N個の観察は、観察が独立でない場合には、n個より少ない推論を生み出すのにしか役に立たない。
Z=aX+bYで、1個の観察でX,Y,Zのデータが得られたとしても、a,bの係数は定まらない。
1つの説明変数で別の説明変数を完全に予測できる状況
Y=Xが成り立っているとすると、
Z=aX+bY
Z=aX+bX
Z=(a+b)X
XとZのデータから(a+b)の値を推定できても、a,bそれぞれのパラメータは算出できない。
<観察の意識的な選択>
- 説明変数に沿った観察の選択:従属変数のことは考えずに、説明変数に散らばりがあるように観察を選択する
- 従属変数が取る値の範囲の選択:
- 説明変数と従属変数の両方に沿った観察の選択。仮説と一貫するように意識的に観察を選択するのはまずい。
- 鍵となる原因変数が一定となるような観察の選択:因果的効果を測定できない。別の研究結果と組み合わせられるのは良い。
- 従属変数が一定となるような観察の選択:
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