2018年9月29日土曜日

20180929:イノベーションの理由 資源動員の創造的正当化


『イノベーションの理由 資源動員の創造的正当化』(武石彰・青島矢一・軽部大:有斐閣)

一橋大学イノベーション研究センターで行ってきた大河内賞を受賞した製品の事例研究の総まとめ。23の事例研究と企業内の資源動員プロセスの理論化が行われている。

企業で新規事業や新製品開発などイノベーションに携わる人にとっては「あるある!」と感じる要素が盛りだくさんではなかろうか。
論文+ケースという構成だが、内容は実務家にとっても学ぶポイントが多い本。
WBSの修士論文用に淺羽先生から紹介頂いたのに、卒業してから読了という事態に(笑)


<大河内賞>
戦前、理化学研究所の所長として基礎研究から事業化までを一気通貫で成し遂げるというベースを作った大河内博士の功績を記念して作られた賞。
「生産工学、生産技術、生産システムの研究並びに実施等に関するわが国の業績で、学術の進歩と産業の発展に大きく貢献した顕著な業績に対して毎年次の要領により大河内賞を贈呈して表彰しております。」(公益財団法人 大河内記念会ホームページ

<本書の内容>
  • 大河内賞を受賞した製品(23件)について、その開発プロセスを調査して事例研究を行ったもの。
  • 大河内賞を受賞した製品を「イノベーションを実現した製品」と見なし、それらが世に出るまでにどのようなプロセスを経たかを丹念に記述して、イノベーション発生プロセス解明に取り組んでいる。



  • 新製品を上市して経済的な成果を出すためには、研究開発や市場開拓に企業内の資源を投入し、製品開発や販売網を構築しなくてはならない。
  • しかし、本当にうまくいくかどうかも分からないリスクの高い新規プロジェクトに対し、担当者の希望の満額の資源が投入されるとは限らない。それどころか上司がプロジェクトの意義が理解できなければ、資源配分自体が拒否されることも十分ありうる。
  • 大河内賞を受賞した、結果的にはイノベーションを実現した製品であっても、その開発工程において最初から順調に資源が投入されてきたわけではなかった。
  • 社内では反対にあいつつも、社外大手企業や関連会社から支援を取り付けることで資源投入にGoサインが出たり、当初の予定とは別の機能にフォーカスすることで社内同意を取り付けたりと、多くの紆余曲折を経ている。



そのような事例研究から、本書では資源投入量の決定要因を提案している(本書図表3より)

潜在的支持者数×支持者出現確率×支持者1人あたり資源動員力=資源動員量

  • イノベーションに必要な資源を獲得するには、この分解式に基づいてアプローチを検討する。
  • 試作品を使ってもらったり、コミュニケーションを活性化させて潜在的支持者数を増やす。
  • 経済的に合理性のある事業計画に磨き上げる、別機能を見出すことによって社内ニーズを満たすなど理由の汎用性を高める取り組みを実行する。
  • 資源動員力の大きい上司・役員を説得して引き入れる。




<感想>
  • かつて自分が提案して却下された新規事業案もあったし、同僚が提案した内容に自分が反対したこともあった。そのように振る舞う理由を説明してくれているのが理由の固有性(汎用性)になるだろう。担当者にしか分からない・刺さらないような理由で「資源を投入してくれ!」と起案しても、上司はそれを理解できないので拒絶する。上司に刺さるような切り口を考え直して見たり、懸念点を払拭するようなコミュニケーションをとったりすることが必要だったのだろう。あの頃は(笑)
  • これとは逆に、ワンマン社長が「やるぞ!」と新規事業を立ち上げて、資源は十分に投入されるものの、担当者が社長のやりたいことを理解できずに失敗するという事例も多く目撃してきた。資源が投入されれば何でも成功するわけではないけれど、この考え方のフレームは使い所が多い気がする。
  • イノベーションを実現するにはこのような資源投入の壁も乗り越えなくてはならない。難しいところだが、イノベーションを阻む壁が存在しても、それを外部から力をかけて乗り越えやすくするとイノベーションの成果が弱まるという研究もあったりする。やはり千尋の谷を浅くするのではなく、何度でもチャレンジできる環境を整備することが大切なんだろう。



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