東北大学未来科学技術共同研究センター 高橋正好さんの講演会に参加するため、再び一橋大学に潜入。
イノベーションに実際に取り組む科学者に直接話を聞くことはとても大切だと思う。高橋さんは小さな泡が持つ特徴を生かして、その原理の探求と水の浄化や洗浄などの応用に力を入れている方。自分で研究している内容を楽しそうに熱く語ってるのは良かったし、原理まで理解できてなくても取り組みを応援する気持ちになってくる。
<半導体洗浄の事例:マイクロバブル>
- フォトレジストを塗布してリソグラフィでパターニングし、イオン注入やエッチングを施して電子回路を組み込んで行く。半導体製造行程では加工プロセスが終わった後、次の行程に流す前に洗浄を行って不要なものを取り除くことが非常に重要。
- フォトレジストの除去には強烈な薬剤(硫酸+過酸化水素水150℃)が必要であった。イオンを大量に打ち込むと光感光性のある有機物(フォトレジスト)の表面にクラストと呼ばれる非晶質な炭化領域ができて硬化してしまう。そうなると硫酸でも除去が困難になる。
- プラズマでエッチングをかけてから処理することで硬化したフォトレジストを除去することはできる。しかし、すでにトランジスタなどが出来た後からプラズマをかけることはしたくない。(プラズマによって電子回路を破損してしまう恐れがあるので)
- 水の中にマイクロバブル(オゾン)を導入して洗浄に使ったところ、強烈な薬液で取れなかったレジストが綺麗に取れるようになった。水だけで綺麗に取れるのは驚き。クラストができたものでは、溶解して除去されるというよりも剥離するような形で除去された。
- マイクロバブルを利用した半導体洗浄技術はオールテフロンで装置を作ることもできているが、既存装置からリプレイスしてもらえない。もう既に製造ラインとレシピが出来上がっているので、洗浄行程だけ取り替えるということはしたくないのだろう。ただ、最初の段階から洗浄装置を導入する場合には候補として考えてもらえるだろう。
<メダカの水槽の事例:ナノバブル>
- 水槽を放置すると水が腐って臭くなってしまう。2週間に1回は水を変えないといけないし、定期的に水を全部取り替えて清掃する必要がある。
- ナノバブルを含む水を使ったところ、メダカのいる水槽の水を交換しておらず、掃除もしてないけれど透き通ったレベルで水槽がとても綺麗に維持されている。メダカは1年半1匹も死なずにいた。
- 水道水ベースの水に海水を混ぜて塩分濃度を1%にし、ナノバブルを含んだ水を使ったところ、メダカ・グッピー・クマノミと海水魚と淡水魚が共存できる環境ができた。
【マイクロバブルの特徴】
- 50um以下の気泡:小さな気泡を作る要求は昔からあったが、水は表面張力が強いので、小さな泡を作るのが難しい。
- 気泡の寿命:通常の気泡は上昇して表面に達すると破裂する。しかし、50um以下の気泡はゆっくり上昇する。1mmの気泡は1分間で5-6m上昇するスピードだが、50umの気泡は 1秒間に1mm程度。水の中に長く滞在することができる。
- 非常に優れたガス溶解能力:気泡の中には気体がはいっている。周囲の水は中の気体を溶解させる能力が高い。
- 収縮:マイクロバブルは水の中でどんどん小さくなっていってやがて消える。水と泡の界面では、表面を小さくしようとする表面張力が働くことで内部の気体が圧縮され、内部の圧力も上昇する。10um径で+0.3気圧、1um径で+3気圧、100nm径では+30気圧にも達する。
- 帯電:泡が電気を帯びていることは昔から報告されていた。マイクロバブルを発生させたのち、水中の電極に電圧をかけることで電位勾配を作り、マイクロバブルの移動方向・速度について計測した。結果、通常はマイナスに帯電していて水のpHによって変化することがわかった。メカニズムを考えると、電離した水のうち気泡界面側にはOH-イオンが集中するため、マイナスに帯電していると考えられる。
- 特徴まとめ:マイクロバブルは水中に比較的長く滞在できる。水中ではマイクロバブルの気体が周囲の水に溶解することによって縮小されて内部の圧力は高まって行く。OH-に起因する電荷が集中することでζ電位が上昇していく。そして極限まで小さくなったところでイオン層が解放され、蓄えられたエネルギーが瞬時に解放されることで集中した電荷の一部がフリーラジカルとなって飛び出して行く。
<マイクロバブルの作り方>
- 旋回方式:水を旋回させ、遠心力をかけることで中心部に圧の低い領域を作り、そこで渦を作って気泡を作成する。濃いマイクロバブルを作ることが可能。
- 加圧溶解法:ビールの栓を抜いてポン!というイメージ。圧をかけておいてノズルから出た瞬間に圧が下がることで過飽和状態を作って泡を作る。
- 細孔方法:セラミックの穴に圧をかけて水をいれることで泡を作る。気体をコンプレッサーで押し出すだけで使えるので、水を動かさなくて良い。生物実験で使いやすい。
- キャビテーション方式:水を流すパイプの径を途中で変えることで、流体力学的な作用で旋回流を作る。水中に溶解している気体がマイクロバブルとして析出させる。水に溶解している気体を強引に引っ張り出すため、周囲の溶解度が減っているのでマイクロバブルは消えやすい。効率的にナノバブルを作ることができる。
<マイクロバブルの計測>
- 液中パーティクルカウンターという小さな微粒子を計る装置を用いた。光を当てて粒子で散乱される散乱光を計測し、数umの粒径分布を見る。
- ただし、一般的な光散乱を見ているものはズレが生じる。本来は水中の固体粒子を対象としている装置。マイクロバブルはモノが存在する粒子とは逆に泡なのでモノが存在しないため、散乱の具合が違う。市販装置で正確に計測できるものがなかった。
- 散乱ではなくて、光をあてて影を見るタイプの装置では比較的正確にマイクロバブルを計測できた。
<ポリビニルアルコールの分解事例:マイクロバブル>
- ポリビニルアルコール(PVA)は世界中で使われており、工場で使うと排水の中に出てくる。しかし、オゾンでは分解しないため処理が非常に難しい。
- オゾンのバブリングとマイクロバブルで分解能力を比較した。TOCで水中の全有機炭素量をモニターして分解を測定した。通常のバブリングでは
- 最初上がって、30時間くらいまではTOCが減少したが、炭素量100以下には至らなかった。
- オゾンを併用したマイクロバブルを使ったところ、22時間でゼロまで減少して分解が完全に進行した。
【ナノバブルの特徴】
- 水の中にでマイクロバブルを発生させ、その後消滅すると思っていたが、「本当に泡は消えるのか?」と考えるようになった。
- マイクロバブルが消滅する直前はイオンが濃縮された状態になっている。電解質(塩類)は存在する状況では、電解質イオンが泡の周囲を取り囲むことで核を形成し、持続的に残る気泡があるはず。
- サンプル(ナノバブル水)に強力なレーザー光をあてると散乱光を発する。大きな粒子は全方向から力を受けるため結果的に均一化して動かないが、小さい粒子はランダムなブラウン運動をする。そのブラウン運動の大きさを見ることでサイズを見積もった。
- また、原子間力顕微鏡(AFM)を使って、正に帯電した基板の上にナノバブルを含む水を入れてマイナスに帯電した泡を集めて計測を行った。結果的にはナノサイズの球状の構造を確認することができた。これこそがナノバブルであろう。
<ナノバブルの事例>
- 切削加工の冷却水:切削加工では常に水をかけて冷却している。その中に油を入れて切削性能を上げている。冷却がよくないと綺麗に削れないが、使って行く内に油が腐って腐敗臭がするようになって困っていた。ナノバブルを含む水を切削水に使うようになったところ、切削クズとして出てくる金属が焼けなくなったことがわかった。冷却が効率的になったことで加工性能が向上し、刃が長持ちするようになった。ナノバブル水をかけたところが洗浄効果が強く、装置の内側が綺麗になっていることもわかった。
- 農業での応用事例:ミネラル成分を入れてマイクロバブル処理した水を何度か与えたところ、イチゴやトマトの生育が良くなった。もう枯れたと思われる植物をナノバブル水に30分じゃぶ漬けして引き上げると、再び芽が出てくるようになった。農家の方のコメントでは、ナノバブル水を上げた翌日は見違えるように植物の調子が良くなるとのこと。
- 殺菌能力:オゾンナノバブルには強烈な殺菌能力がある。細胞を痛めることなく雑菌を処理してそのまま維持できている。それがナノバブルが物理的になくなっている期間でも菌が繁殖していないので、細胞に影響をあたえて免疫力が高まっている可能性がある。
【感想】
- マイクロバブルが水と泡だけでラジカルを効率的に生み出すことができ、洗浄能力が高まっているという説明は納得できた。一方で、ナノバブルの効能がなぜ生まれるのかは未だ解明されていない。モヤモヤ感が残る(笑)
- しかし、ナノバブルはメカニズムは解らないけど応用はやたらとされている。実験してデータやエビデンスは集まっているが、なぜそうなるかというメカニズムは解らない。でも装置は開発されて応用分野がどんどん広がっている。
- ナノバブル自体はメカニズムが分かっていないけれど、使っている成分が空気・水・オゾンとわかりやすいので、使用者アレルギーみたいな拒絶感はないのだろうなぁ。
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