2018年10月16日火曜日

20181015:小室 淑恵さん「経営戦略としての働き方改革」企業イノベーション研究会

淺羽先生の企業イノベーション研究会10月例会で、ワーク・ライフバランスの小室さんの講演を聴講。

「働き方改革そのものがイノベーションだ」という着眼点はとてもユニークで目からウロコなポイントが多くて良かった。

【プロフィール】
  • 企業13年目で、2006年に長男を出産して3週間後に起業した。起業したときから時間制約付き社長。
  • 今日は時間外に講演している珍しいケース(笑)青森でもどこで講演しても幼稚園のお迎え1815分に間に合うように帰るようにしている。
  • 講演時間が幼稚園に間に合うように主催者と交渉しなくてはならない。主催者は客の入りが多くなるような遅い時間帯にしたいので衝突する。そこでは自分の仕事に価値を感じてもらわないと交渉のテーブルにつけない。
  • ずっと時間制約付きで、時間内で仕事を終わらせることがいかに難しいかを時間してきた。ずっと価値を磨き続かなくてはならない。
  • 働き方改革に熱心なのは自民党の石破さん。会うまでは「軍艦に興味がある人」としか思ってなかった(笑)「これこそが有事だ!」と勉強会に何度も呼んでもらった。
  • 産業競争力会議の民間議員9人のうち1人に選ばれたが、自分以外のメンバーは60代~70代の男性ばかりだった。会議があっても1人の発言時間は2分だけ。「労働時間を削減することこそが成長につながる」と話していたが、その話をした途端に官邸中が静まり返った。長時間労働を抑えることは官邸が動かなかった。
  • その後、官僚の態度が変わった。いつもは「トーンを抑えろ」と言われていたが、安倍総理になってから「長時間労働是正は大事。骨太に4行入れる」ようになって、パラダイムシフトが起こった。働き方改革法改正では参考人として呼ばれた。来春法改正。働き方改革をずっとやってきた。


【イントロダクション】
  • 働き方改革でお手伝いした会社では、本業でイノベーションが起きている。時間という資源に制約を加えると、制限の中で取り組むことで生まれるイノベーションがある。時間や資源を湯水のように使えると思ったら画期的なアイディアは出てこなかった。来春には法改正があると思って追い込まれたら新たなステージに行く企業が増えた。
  • 全役員で働き方改革の合意を取りたいということで、役員会で話をした。なぜ働き方改革をしないといけないかについて、背景も含めて企業経営をする上で把握しておかないといけないポイント。


<良くある誤解>
  • ワークライフバランスではなくて、ワークファミリーバランスを頑張ってしまうこと。「育児中・介護中の人に配慮する」という社員に優しい制度からスタートする。
  • 中間管理職はこの状況に困ってしまう。一部の人には残業をつけてはいけないので、定時内に処理しきれない仕事があれば、その分を独身の社員に移すことになる。
  • そうすると家族を持っている人と持っていない人との間に亀裂が入ってしまう。優しさに基づいて制度を始めたのに、業績にはマイナスになってしまう。女性活躍というわりには業績がふるわないのはこのケースが多い。


<真のワークライフバランス>
  • 全ての人にライフがある。ライフの中には家族に関する育児や介護もあるが、自己研鑽や運動も含まれる。
  • 20代・30代ほどシビアにライフが必要な世代はないというのが議論になるポイントである。今の40代・50代はAIの普及が本格化する前にキャリアを逃げ切れるかもしれない。しかし、ある日突然AIに仕事を奪われる可能性があるのは今の20代・30代。しかし、企業には2030代を鍛え直す研修をする時間もない。彼ら/彼女らは自分の会社の行く末を自分から提案するようにしないとキャリア基盤が失われてしまう。自己研鑽が常に必要。
  • 40代・50代は健康維持が大切。人生100年時代と言われ、2007年に生まれた子供は107歳まで生きると言われている。定年後に仕事人生よりも長い人生を生きなくてはいけない。体は動くけど脳が動かないのは最もお金がかかる。脳をどれだけ維持できるように生活ができるか?を考えなくてはならない。

脳にダメージを与えないようにするために避けるべきこと
・睡眠不足
・運動不足 脳への血流量が減る
・家族からのマイナス感情の伝播
  • 自分さえ良ければ良いという発想は家族からの日常的なクレームは大きなダメージになる。これを現役世代でやってきたかどうかが、トータルのライフに強く影響してくる。
  • ライフがない人はいない。「ワークライフバランス」と言ったら、全従業員が対象となる。全従業員が対象になると、それぞれの人が違う引き出しを持ってくることになる。そこで色んな引き出しの中身が混じり合って化学反応が起こる。多様なライフを持ち寄ることでイノベーションが起こり、業績にプラスになる。
  • ワークライフバランスとワークファミリーバランスは似て非なるもの。ファミリーの制度を導入してお茶を濁すと、コストばかりかかって業績につながらない。


【人口ボーナス・人口オーナス】
  • 人口の構造によって儲かる時期がボーナス期で、現在の中国・韓国・シンガポール・タイが該当する。
  • 生産年齢比率が高く若者が多い時期。安い労働力を武器に世界中の仕事を受注することができ、高齢者が少ないのでお金を社会保障ではなくてインフラ投資に回せる。爆発的に経済発展できて当たり前。アジアの奇跡は人口ボーナスで説明できる。
  • 中国はボーナス期が終わってきている。農村部の人口が多いのでデータ通りには終わらないかもしれないけれど。
  • 日本は子供の人口が減り、老年人口が上昇している。
  • 従属人口指数とは生産年齢人口何人で高齢者何人を支えているか?という指標。 高齢者若者数で算出される。年金の話をすると昔は騎馬戦だったが、今は肩車と例えられる。
  • 1950年代に従属人口指数が低かったことは明るさを伴っている。この時期は子供が多くて養育費が多かったからだ。子供は育てると分母に移動してくるので時代が経って60年代~90年代になるとこの指標は急速に下がった。
  • しかし、これからの従属人口指数は暗い重さを持っている。高齢者の割合が多いし、どんなにケアしても分母には戻らない。これから指数は上がり続ける一方。
  • 1960年―1990年半ばまでが日本の人口ボーナス期で、経済成長をしていた時期だった。日本の段階世代が頑張り屋さんだったと言われていたが、人口比率のおかげだった。評判が悪い説でもある。
  • 人口ボーナス期は一度終わると二度と訪れない。高齢者をケアしても分母には戻らない。1990年代に終わってそれっきり。
  • 富裕層が子供に教育投資をするようになり、人件費も上昇する。そうなると安い仕事は他国に流れるようになる。高学歴化すると結婚年齢も遅れて少子化社会が始まる。少子化が始まりかけた時期が一番豊かな時期と言える。
  • 国家では高齢者が意思決定者なので、高齢者に対するお金の配分を増やすようになる。成長期は年金用にじゃぶじゃぶお金が入ってくるから使い道にも困るくらい。医療のおかげで寿命も延びるようになる。
  • 人口オーナス期に入ると、その国の人口構造が経済の重荷になってしまう時期になる。人口ボーナス期の手法をそのまま続けたい!といっても続かない。安い仕事をとってきても受かりたいと思っても無駄。
  • 人口オーナス期では労働力人口が減少する。働く世代が高齢者世代を支えることが不可能になる。これはまさに日本の課題山積を言い当てている。全部人口オーナス期のせいではないか?とも思える。
  • ヨーロッパの国々は日本よりも先に人口オーナス期に入っていた。日本が後からオーナスにはいったのに、課題は日本が先行しているようになった。これは、日本では子供が生まれなくなって高齢者の割合が急増した結果、高齢者の割合が跳ね上がってしまったことによる。日本では少子化対策が全くできてなかったので、20年早く人口ボーナス期が終わってオーナス期に突入してしまった。
  • 中国はその問題に気づいて、一人っ子政策を解除して上限なしで良いと認めた。人口政策を徹底して転換した時期は1990年代半ばで、このタイミングで手を打てている。人口政策は手を打ってから結果が出るまで90年掛かると言われるが、中国は問題の理解が20年早かった。一方で日本では待機児童が2.5万人と言われており、少子化に手を打てていないのが実情。


【人口オーナス期の働き方】
人口オーナス期に入ってからが本当の経済成長で、政治家・産業界の腕の見せ所。徹底して2つの政策をとらなくてはいけない。そうしないと税金の重さで沈んでしまう。

<働き方その1:現在の労働力を増やす>
  • 人口オーナス期になったら生産年齢人口が貴重。ここにいる間に、どこまですみずみまで使うか、どれだけ労働参画を増やすかが重要。
  • 半分皮肉だけど、日本には生産年連人口を伸ばす伸びしろがある。あれだけ女性に教育しておいて社会で活用していないのが実情。税金を教育に投じて立派に人を育てているのに使っていない。税金を使っている人は怒らないといけない。明日にも使える潜在労働力が国内にいくらでもある。使えるものを使えていない状態
  • 家族が障害を持っている方や親の介護と両立する必要のある方もキャリアを途中で断念しなくても仕事を続けられる労働環境を作る必要がある。これらは今すぐ手に入る短期的な労働力と言える。


<働き方その2:未来の労働力を増やす>
  • その1を頑張ると女性が活躍して共働きの世帯が増える。しかし、2人が共働きを長時間やったら子供を作って育てる時間ができない。
  • 現在の2人の労働力を活用しながらも未来の労働力を作らないといけない。それには夫婦が働きをしながらも2人以上の子供を持てるようにする必要がある。ワーキングペアレンツにどれだけ提供できるか、従属労働変数を変えられるかがポイント。
  • 官僚の人たちは大変で、政治家から「少子化対策をやれ」とずっと言われて困って迷走していた。そこで「女性手帳を配ろう!」などという馬鹿げた政策まで実行されそうになった。
  • リクルートスタッフィングの社長が働き方改革をやってなにが起こったかを語ってくれた。深夜残業が86%削減し、社員が持つ子供が1.8倍に増えて会社全体の業績も改善して女性管理職が40%を超えた。
  • この事例を見て官僚の目が輝いた。「長時間労働是正と少子化対策は繋がっていたのか!」と理解できたそうだ。私は「長時間労働是正と少子化対策は繋がっていないと思っていたのか!」と逆にびっくりしたけれど(笑)
  • 長時間労働是正を主張すると経済団体から怒られる・自民党から怒られると言われていてホワイトカラー・エグゼンプションを通そうとしていた。しかし、本来は長時間労働の是正と少子化対策は優先が高い問題。


<本当の両立環境>
  • 出生率が2.1を超えないと少子化が進んでしまう。とはいえ独身の人に「なぜ結婚しないのか?」と結婚を促す政策を提言すると炎上する。
  • そこで1人目を持った夫婦に、1人目で思いとどまってしまった困難や理由を、聞き出し、夫婦が欲しい数だけ子供を持ってもらうにはどうすれば良いかを考えるようになった。
  • なぜ二人目を持てないのか?それについては厚労省が追跡データを持っていた。1人目の子供を持った時の夫の帰宅時間が遅く、家事に関わっていなかった場合は第2子を欲しいと思う比率が極端に下がっていた。第1子の子育ての際に夫が参画しないと妻が子供を1人で育てることになり、トラウマになってしまう。
  • 休日に6時間家事をやっていたら、8割の過程で第2子が生まれていた。
  • 男性は育児に必要な存在だった。男性で育児休業が必要。育児の戦力になることは重要。男性に取らせること
  • 自分の第1子のときも夜泣きが多く、ようやく寝付いたと思った深夜2時に夫が帰宅し、音を立てることで子供が目を覚ましてしまっていた。両親も遠方で協力を得ることもできず、追い詰められすぎたことを自分で体感してわかった。
  • そこで土日の昼間に冷静に話し合いをした結果、夫は3食食事を作ってくれるようになった。そのタイミングで「この人をもう1回信用してみよう」と思えるようになった。
  • 熟年離婚の調査結果によると、妻が検討し始めた時期は育児期。夫が働いてお金を持ってくるうちはキープしておいたが、役に立たなくなったら終わりになってしまう。育児期にいる男性がいたら「今、君は分岐点にいる。今家に帰らないと将来の損失につながる」と伝えなくてはならない。家庭を持つ前に仕事で褒められる喜びを体感してしまうと、家族に意識が向かないようになってしまう。
  • 男性議員がデータを元に頭で理解したのは大きかった。彼らは少子化対策には熱心だったが、対象が女性か子供への支援だった。そうじゃないと女性はずっと思っていた。日本の商習慣の異常性を直さないとダメだと主張し続けた。
  • 日本の労基法は異常とも言える。アメリカは平日時間外で15倍だし、休日出勤では1.75倍~2倍になる。さらに連続11時間経たないと働いてはならないインターバル規制も存在する。
  • 日本にはどちらもない。36協定を結ぶと青天井で仕事ができてしまう。
  • 人口オーナス期は労働力確保が重要だったので短期と長期の労働力をいかに確保するかを常に考えていた。人口指数の上昇を抑えないと税金の重さで沈んでしまう。
  • ボーナス期の成功体験にしがみつくと逆効果になる。てんかんできた国・企業が勝つかもしれない。


<人口ボーナス期のルール>
  • なるべく男性が働く:この時期は重工業の仕事が多い上に労働力が余っている。家事労働にも時間がかかるので、こちらを女性がやる方が効率が良い。このように分担した方が社会全体が高効率になる
  • なるべく長時間働く:最初の洗濯機・冷蔵庫が普及し始める時代なので「競合が明日届けるならうちは残業してでも今日届ける」という競争になる。時間をかけても増えるコストはたいしたことないので、社員に長時間働いてもらうことが合理的。
  • なるべく同じ条件の人を揃える:顧客は多様な製品が欲しいわけではない。「隣の人と同じものが欲しい」という右向け右の発想なので、多様性なんていらない。
  • 日本はこれらを他国に真似できないくらい綺麗にやりきった。事実上労働時間に制約がなく、必死に企業にしがみついてくれる人を抱えていた。辞令1枚で人を遠方に転勤させる制度ができている。メンバーシップ雇用だったと言える。
  • 未熟な若者でも会社で育ててもらえるので、若者の失業率が低い。会社に入ってから分かった不合理があっても耐えないといけない。そのため社員が従順化していく。参勤交代からアイディアを得たのでは?(笑)忠誠心を作り上げる制度を作り上げていた。
  • 働き方改革の運動を頑張りすぎると、過去の日本の働き方を否定し始める人がいる。そうではない。人口ボーナス期にこれをやりきってくれたことで日本に貯金とインフラを作ってくれた。
  • 問題なのは、前提条件が変わったのにビジネスを変えないこと。会社には人口ボーナス期に大成功した人が経営層にいる。日本が不運だったのは中国・韓国がそばにいること。ぐんぐん成長する人口ボーナス期の国がすぐ目に入るので、アジアの国々と比較して「日本も昔みたいにもっと成長したい」と過去に引っ張られてしまう。
  • 日本は人口ボーナス期が続いてきた中で、転換しないといけないタイミングがあった。背景が変わったタイミングで働き方も変えるべきだった。
  • 日本に人口オーナス期がきたのは3年半前。ちょうど牛丼チェーン店がストを起こされて営業停止になったとき。これまでは他店舗から応援が来れば営業できるのでストは成立しなかった。しかし、このあたりから「お前の代わりはいくらでもいる戦略」が通じなくなり「お前の代わりはいない」となった。
  • 人気のない職種から人がいなくなってしまった。人気は逆転しない。メディアなど人気のある業界は自然と人が集まるので変化に気づけない。人材奪い合い時代に突入してくるとオーナス期の特徴が出てくる。



<人口ボーナス期からの転換で社内に生じる問題>
  • 従業員が時代の変化に応じて自分たちで意識を変えることは絶対にない。人口ボーナス期に成功体験を積んでいて、自分が仕事で成長した経験と働き方がセットになっている。
  • そこで若い部下に対して「3日も寝ないで働け」と平然と伝え、若手ほどそれを真に受けて、「時間をかけないと成長しない」説が出てくる。若手に働き方改革の伝え方を間違えると「この会社は自分に成長の機会を与えてくれない」と誤解して離職率が高まってしまう。伝え方はとても大事。なぜ働き方をやるのか、マネジメント層の伝え方のトレーニングが必要。
  • 若い頃に負荷をかけないと成長しない。これは真実。しかし負荷の種類が違う。単純に時間の負荷をかけてトレーニングし、案件数を回すことで熟練できた。そのスキルで会社の中で20年食っていけた。今は時間をかけて熟練したものはコンピュータですぐに追いつけてしまう。
  • 今の20代~30代の社員は「社外のコミュニティに出て自分で情報を取ってくる」「専門じゃなくても名刺が通用しない世界に飛び込んでいく」といった自己研鑽の挑戦が必要。それをせずにいつも馴染んだ仕事に逃げてしまうと、自分の言葉が通じる社会でだけ生きていくことになる。
  • 残業代もつかない社会に飛び込んでいくことが、自分の生涯賃金をあげていくということを分かって守らないといけない。


<人口オーナス期のルール>
  • なるべく男女とも働く:厚労省は女性活躍推進法で平均勤続年数や残業時間 同じ産業の中で比較して公開するようになり、基準を満たすとえるぼしがもらえるような制度を導入した。学生たちは企業の具体的な数字を見ることができる。昔は唯一の女性管理職を説明会に連れてきて学生を騙していた(笑)女性管理職比率が2桁以上ないとエントリーシートを出さない。女性役員の数は1人だとお飾りの可能性が高いので二人以上いないとダメ。このあたりの指標は男子学生の方がよく見ている。平均残業時間は20時間以下というのが今の学生の考え方。人材を取れる企業と取れない企業の二極化が進んでいる。基準をクリアしないと良い人材が入ってくれない。数年前は女性管理職の目標を作るかどうか自体が問題になっていた。今はそんな目標を持っていない段階で、学生がその企業に目を向けなくなってしまった。投資家も同じように女性活躍推進法で公開される企業の上位50%に投資する機関も増えてきている。男女をフル活用する企業でないと人材を採用できない時代になっている。
  • なるべく短時間で働かせる人が勝つ(時間制約):短い時間で働かざるをえない人はこれから増える一方。組織をあげて、短時間で成果をあげるトレーニングをあげないといけない。大成建設では育児で休む女性より介護で休む男性の方が増えた。どの企業でもこの逆転が起きる。60代から70代に移ると要介護者の数が跳ね上がる。現在の年間10万人というのは嵐の前の静けさ。育児がひと段落してから介護と思われていたが、30代で子供を産むと育児と介護の時期は重なる。団塊ジュニア世代は育児で介護で共働き世帯なので、24時間仕事して当たり前という意識が残っていたら人材が残らない。しかし、待機児童は25千人、介護施設の待機高齢者は37万人とインフラが整っていないのが実情。育児は2年で復帰するが、介護は10年かかる。仕事との両立が大事。
  • なるべく短時間で働かせる人が勝つ(集中力):人間の脳は起きてから13時間しか集中力が持たない。ここから先は酒酔い運転と同じ。だったら酒を飲みに行った方が良い(笑)そんな状態で仕事をするからミスが起こる。これは火をつけて消しているようなもの。ミスがでるとクレームが発生してブランドが破損する。そんな人を社内に放置するだけでストレス値が上がっていく。切羽詰まると感情のコップがあふれやすくなる。いなくなりたい・死にたいという気持ちになってしまう。目が充血して髪がボサボサになるくらい余裕が無い状態だと、あと一声心無いことを言われただけでコップがあふれてしまう。1回コップをクリアできたなら良かったはず。月間の労働時間上限を定めるだけでは過労死は減らない。前日に帰った時間から11時間経たないと出社してはダメというインターバル規制を先に入れるべき。あずさ監査法人で導入した結果、産業医の部屋に来る人が激減した。何よりの変化だと言われた。
  • なるべく違う条件の人を揃える:人件費が高ければ、斬新なイノベーションを起こして短いサイクルで常に新しい価値を出さないといけない。全然違う製品を出すには均一な組織では無駄。同じ議論をしても同じ結論になってしまう。意思決定層にも多様性が大事になる。企業はイノベーションを起こさないといけない。化学反応を起こすためのダイバーシティが必要なのだが、それを担保する働き方ができていない。早く勝ちに行くためには働き方改革でこけている場合ではない。今も昔も私たちは勝ちに行っている。昔は長時間労働で成長して勝つスタイルだったが、これからは多様性から生まれるイノベーションで勝つというスタイルに変えなくてはいけないということ。


<資生堂時代のエピソード>
  • 資生堂では顧客の9割女性で、社員は7割女性、本社は6割女性だったが、経営企画室は小室さんが初めての女性だった。
  • 新商品の口紅30色を12色に絞り込んだのはオール男性60代の役員(笑)しかし、選ぶ色が20代の女性がつけない色ばかり。20代は顔色がいいから赤っぽい色はつけない。役員は奥様や銀座の女性をイメージして(笑)真面目に良い色を選ぼうとしているが、売れない色ばかり選ぶ。
  • 販売店からは「なんでこんな色出して来るの?」と文句を言われるので「口紅はコーセーがいいと思う」と伝えていたほど(笑)。
  • 全員真面目に仕事をしているが、意思決定がずれている。今はまともになったけど。このように的を外したら悲惨。日本人がOECD生産性最下位なんだけど、サボってるわけではない。価値観とかけ離れた人たちが意思決定している。

<長時間労働の背景>
  • 役員になると100%近く男性になってしまう。日本は他の宗教国家に比べれば男尊女卑ではない。時間外対応も辞さないという覚悟が求められていた。最初は自分に向けられていたが、やがて相手にも要求するようになる。
  • 重要な仕事は時間外ができる人に渡すようになり、そのような人だけが昇進してしまう。踏み絵を踏んだ人だけが先のキャリアに進める仕組み。女性役員がいても「母が24時間育児してます」という人がいたりする。これではもったいない。働き方の足切りをしてしまっている。
  • 以前は時間外労働ができる人に仕事を上乗せして働いていた。しかし、親の介護や定年延長した社員、在宅勤務など働き方も多様になっている。1億総活躍で成果を出すという、多様な人でバトンを渡して仕事をする必要がある。
  • そのためには以下の2つがポイント。
  • 仕事の属人化排除:その人でないとダメな仕事を徹底してなくす。
  • 短時間勤務を活用:長時間労働している人が情報を開示していなかった。時間外ができる人が働き方を変えないといけない。情報はクラウドにあげて、誰もが共有できるのが当たり前!このあたりは本当は日本人が上手なはず。


【変化しなければ財政破綻という実情】
  • 2014年に「選択する未来」委員会が報告した資料では、このまま何もしないと日本は2100年には人口が4200万人、4割以上が高齢者という国になってしまう。誰が高齢者を支えて年金を払うのか?財政破綻に向けてフリーフォールを落ちているような状態と言える。
  • しかし、少子化対策をうって出生率を2.07に回復させられれば人口が下げ止まり、高齢化率があげどまる。100年後でも人口は9600万人で高齢化率26%で止まってバランスしてくれる。
  • 今の状態を放置すると100年後の政権に怒られる。どうしてあのとき手を打ってくれなかったのかと。どうして今か?あと1-2年でボリュームゾーンである団塊ジュニア世代の出産期が終わる。今は率よりも出産数が大事。まだ出産ゾーンに少しでもいるうちに対策を取るべき。人口が激減したときに手を打っても仕方ない。その年の8月に働き方担当大臣ができた。実行計画もできた。


<労働時間上限が法律に格上げ>
  • 単月上限100時間ばかり報道されているが、これが法律に格上げになったことが重要。これまでは36協定の上限は告示で決められていたが、これは法律ではなくて告示だった。36協定を破っても何も起こらないという認識はすごく危ない、
  • 法律を破ったら人数分の罰金を支払うことになるし、略式起訴で終わっていたが、法廷が立つことも出てきた。会社の経営者が法廷にたつことになる。経営者を法廷に送るようなマネージャーはビジネスキャリアが終わってしまう。そこまでの認識を持っているか?
  • 2019年の春以降はそのような案件になってくる。意識改革をしていくことが大事。インターバル規制も努力義務とされた。
  • 長時間労働対応は「やるやらない」という次元の問題ではない。これによって採用できる人材の質が大きく変わっている。今はやっていかにアピールするかの競争になっている。


<よくある失敗事例>
  1. 女性の積極採用
  2. 休業・時短を経て継続できる制度整備
  3. 長時間残業の是正
  4. 評価の見直し・成果主義の定義是正


  • 多くの企業では14の順番に進めてしまう。積極採用して制度を用意しても、長時間労働を評価する仕組みが残ったままでは効果はない。働いてもらえないのは本人の仕事に対する意欲のせいと誤解してしまう。制度を使ったあと、社員は投げやりになったり横ばい思考になったりする。41の順に進めることが重要。
  • 事例で非常に優秀なエース男性社員が介護のために時短勤務になった。時短といっても残業ができない18時に帰るレベルだったが、やがて彼が「難しい仕事は他の人に回してください」と仕事を断るようになった。時短になった途端に「この会社でのキャリアの終わりだと思った。未練を持っていると思われることが苦しいので敢えて強調するように言った」という変化が起きている。
  • これは育休明けの女性心理に似ている。上司の評価はイレギュラーの問い合わせに対応できていないという点で低い評価になる。どんなに働いても負けレースだよとなってしまう。育児で忙しくなると仕事に対する気持ちが一回下がりきってしまうと仕事に対して諦めてしまう。仕事に熱心にやってきた人ほどこうなってしまいがち。
  • 今後キャリアを時間制約を受けずに走り抜ける人はいない。トヨタで5分の1が該当すると試算されている。時間外ができる人とできない人という区分けではなく、時間内に終えるべき。そのために評価の見直しをしっかりやる。
  • 生産性の指標は成果時間なのだが、日本では時間のスケールがその年・その期という長い期間でとらえている。そのため長時間残業して少しでも成果を積みました方が得という判断になる。しかし他国では同じ時間を分母にしている。時間あたり生産性をチーム・管理職の評価に入れていくという評価軸から変えることが大事


<マネジメントが果たす役割>
  • 時間制約のない部下はもういない:職場全体の仕事のやり方を属人化排除して内向きの仕事を捨てる。組織は余裕があると部族ごっこを始めると言われている。外からの脅威がないときは組織内で序列をつけないと組織を保てない。書類作りの綺麗さで地位を作る(笑)そのときに作った仕事をそのままにしてしまうのは問題。
  • 少し黙る:プレイングマネージャーの働き方はキーになる。優秀な管理職ほど
  • 部下が一人で仕事ができないほど情報を教えてしまう。あなたが黙るのが大事。部下が一人で成果を出すかを待つことも育成には必要。
  • 心理的安全性:「このチームでは自分に何があってもバカにされたりしない」という安全性が担保されること。残業がない職場ほどこれができている。「これは無駄じゃない?こうしたい」という気持ちを言葉に出せるかどうか。このためには管理職がプライベートや弱みを開示することが効果的。小室さんはティーチング型のマネージメントをやってきた。NHKのレギュラー番組を持っていたとき、無理して受けていた。しかし本当は嫌で嫌でしょうがなかった。この気持ちを合宿で社員に打ち明けた。そうすると今度は社員が打ち明けてくれるようになった。メンバーの多様性が本当に生きるようになった。社長が踏ん張らなくても会社が回るようになった。
  • 自分が自己研鑽に励むことが大事。会社がノー残業デーを作ると上司が飲みにいくぞーとなってしまうのは問題。
  • 仕事人生よりも長い人生がこの先に待っている。日本で定年60歳と決まったとき、平均年齢は60歳以下だった。会社が評価対象で良かった。でも今はそうではない。元◯◯株式会社と名刺に書いて出歩く人が出てきた。



<働き方の見直し>
  • 現在の働き方を確認する:自分の働き方の予実管理をする。
  • 業務の課題を抽出する:予定通りに進まなかった要因を洗い出す。外からの撹乱要因だけでなく自らの内的要因にも目を向ける
  • 会議で働き方の見直し(カエル会議):工夫をチームで共有して解決策をミーティングを話し合う
  • 見直し施策の実施:ミーティングの決定事項を実施する。
  • このサイクルを小さく何度も回すことが大事。小さな成功体験につながる。
  • 朝メールで15分単位でブレイクダウンして仕事の予定をメールし、夜振り返りをする。残業要因は案外自分の段取り不足など内的要因によっていることがある。
  • 失敗パターンはやり方も全部決めてしまうこと。チームによって残業要因が違うのに、人事部が決めるのが大問題。やり方はチームに考えさせるべき。うまくいったやり方は共有して褒めて伸ばす。



  • 富士電機タイマー会議:アジェンダごとに時間を設定してタイマーを鳴らす。喋り続ける人にはじわじわとタイマーをちかづけていく。
  • 集中タイム:残業している理由を分析したら、若手が静かで集中できる時間が欲しくて夜働いていることが分かった。そこで各自が誰からも干渉されずに働ける集中タイムを決めることにした。その時間は耳栓をしても良いし、集中ルームにこもって良いとした。昼のうちだと他部署から仕事に必要なデータがもらえるので効率的になった。
  • 三菱地所プロパティマネジメント:残業代を皆に還元すると発表した。本気で仕事のやり方を変えて欲しいと社員に伝えたかった。残業代削減のためではなく、皆さんに投資していくと伝えた。働き方改革に最初の頃抵抗していたのが営業部隊だったが、営業部が一番変わった。どの会社も働き方改革をやると考え、子連れ出勤ができる共有スペースを作ったら、福利厚生にもなるのではないかというアイディアで子連れ出勤できる「コトフィス」を作った。するとテナント料をあげても満室になった。今まで床面積あたりいくらで売るかを営業をしてきた。他の企業の助けになる価値を提案できた。働き方改革が実ビジネスのイノベーションにつながった美しい事例。


<まとめ>
  • これまでは社会課題の11個に絆創膏をはるような対策をとってきた。しかし、これらの問題の大元は長時間労働だった。これを是正すれば、問題解決に近づく。
  • ワークとライフは互いに時間を奪い合うように言われてきた。でもそうではない。ワークライフシナジーという考えで、ライフが潤うからこそ良い仕事もできる。そして仕事のおかげでライフも潤うという両方が潤っていくのが真のワークライフバランス。73とか64とか比率を決める考えに陥るのは本来の意味ではない。
  • 社内で男性社員向けに展開するには介護可能性の見える化ワークをすると効果的。自分や配偶者の家族・親戚をリストアップし、何年後に要介護になると考えられるか?誰が介護するかを考えておく。自分に降りかかるまでは考えないものだが、ある日突然降りかかってくる。複数の人の介護をすることを実感するようになる。明日は我が身感を持たせる。








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