2018年10月20日土曜日

20181020:技術連携の経済分析

『技術連携の経済分析 中小企業の企業間共同研究開発と産学官連携』(岡室博之:同友館)

中小企業が他の企業や大学と共同で研究開発や事業を行う構造・意思決定・効果を大規模アンケートを取得して定量分析を行った岡室先生の論文集。
自分が抱いていたイメージと分析結果との間にギャップがあって面白かった。

興味深かったトピックスをご紹介。

<中小企業の連携先:第4章>
事前イメージ:中小企業は遠方ではなく地元の企業や大学と連携する
定量分析結果:遠方でも最適なパートナーを見つけている


  • 企業と連携する場合は同じもしくは近隣の都道府県の割合が半分で、残り半分は遠隔地の企業と連携している。中小企業が連携する大学は46%が企業から遠隔地に立地している。
  • 地元でコミュニケーションを頻繁に取って交流することで、暗黙知を含む多くの知識移転が促されて、研究開発や製品化が進むと思われている。知識には粘着性があって地域に偏在することから、文科省や経産省のクラスター振興策もそのような知識を活用できるエコシステムを構築することを主目的としている。
  • しかし、最初から地元縛りでパートナーを探すと最適解につながらないケースもある。広くパートナーを探索することで、たとえ遠隔地であったとしても最適なパートナーであれば連携先に選ぶという行動ができている。
  • 11章では産学官連携とクラスターの分析を行っているが、産業クラスター計画に参加するだけでは研究開発生産性は高まらない(特許出願数と被引用数で計測)ことが報告されている。ここでも近隣地域の連携よりも遠隔地との連携の方が効果が高い結果となっていて興味深い。


<中小企業の連携先:第9章>
事前イメージ:公的補助金は技術開発を支援している
定量分析結果:共同研究開発において、技術的な成功には影響なし。商業的な成功にはマイナスの効果 


  • このパートは水野先生の著書で引用されて気になっていた部分で、この本を読むきっかけになったところ。
  • この調査では技術的成功(成果を特許・実用新案として出願したか)・商業的成功(売上増に貢献したか)を尋ねている。その結果、商業的成功は取引先との連携によって確率が高まり、大学との連携によって低下していた。
  • これは、そもそも商業的成功を目的とした連携であれば大学ではなくてバリューチェーンに関わりのあるパートナーと組むはずであり、大学と共同で行う研究開発案件は商業化には遠いテーマであろう。
  • 一方で公的補助金を受けたテーマも商業的成功にはマイナスの影響となっている。ものづくり補助金など公的補助金には「新規事業」「イノベーティブな挑戦」を促すようなものが多く、既存事業の売上アップなどは対象にできない仕組みになっている。このような補助金を使った共同研究では初めての取り組みも多いだろうから、商業的には成功しない事例も多いのは不思議ではない。
  • ただ、技術的な部分では貢献があるのではと思っていたのだが、統計的には支持されなかった。具体的な製品にするよりもさらに前の段階なのだろう。


  • 補助金には、補助金該当事業で大きな利益を出すと受けた補助金を返還しなくてはならないという仕組みがあるため「利益を出せる事業にはそもそも補助金は使われない」という特徴がある。
  • その結果、報告書を集計して財務面の効果を計測しても大半は赤字ということになる。財務指標をそのまま見ると「収益性の悪いところにお金をバラまいてる!」という批判につながりやすい。補助金の効果を定量的に知りたいと思っていたので、このパートは勉強になった。


本書は定量分析の学術書なので、データを読み慣れてないと意味不明な図表が乱舞すると感じるかもしれない。

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