一橋大学 先端科学技術とイノベーション 第4回公開講義「レアメタルの光と影 ~ 一般には常識と思われているデマや誤解を解説 ~」を聴講。
レアメタルを使うためには、かなりの環境負荷が掛かっていることを知って驚いた。製品が素材から作られて廃棄されるまでの全体を見たとき、レアメタルを使いまくってエネルギー効率を上げれば良いという単純な発想ではない新しい視点が必要になると思った。
【イントロダクション】
- 一橋大 青島先生とはバーベキューの友。野外活動が趣味で指導員をやっている。地域では超暇な人間と思われている(笑)
- レアメタルの精錬で悩んだら私に聞け。こればっかり30年やってるバカはいない(笑)チタンの製造技術が専門。鉱山は僻地にある。そんな鉱山と精錬所を訪ねるのが趣味。
- 京大>MIT>東北大>東大と移りながら、誰も見向きもしないレアメタルの研究を続けた結果、残存者利益を独り占めできるポジションになった。森にはオランウータンが必要だけど、複数いたら縄張り争いをやる。私のいるところは森はあってもオランウータンはいない状態。
- 東北大助手時代に「幅を広げる」ように恩師に言われ、大学を移るたびに別のレアアースを手がけるようになった(笑)レアメタル便覧とか分厚い本で、どうやって元素を作っているかを書いているのは僕。超つまらない(笑)
- 昔はレアメタルが専門といっても誰も理解してくれなかった。しかし、2006年にレアメタルという名前が日経一面に出てから急にスポットライトを浴びるようになった。時代が変化して「レアメタルが専門って凄いですね」と周囲が言ってくれるようになった。
- 世界に冠たるリサーチセンターを作らなければならないと考えて、東大に材料屋さんを集めて研究センターを作った。駒場にあって、日本でも最も大きな研究所。130の研究室がある。産学連携が大きく、資金規模もかなりなレベル。
- 東大生産研は若いうちから独立した研究室がもらえるのが特徴で、私も35歳で研究室をもらえた。今は副所長で管理側の人間でもある。研究所というのは檻のない動物園(笑)
- お土産に形状記憶合金の輪っかをお配りします。授業中は遊ばないように(笑)終わってから好きな形に曲げて、飲み屋でお湯をもらって漬けてみてください。元の形に戻ります。
【レアメタル】
- 周期律表Feより上は無尽蔵と思ってもらって良い。それより重いものは限られる。
- 自動車会社など製造業の中には「自社工場のごみゼロ化を達成しました!工場で作っているのは環境適合製品です!」と声高に宣言しているところもある。あれは額面通りに受け止められるものではない。
- レアメタルは世界商品で、全世界的にも満遍なく市場が存在する。局所的もしくは時期的にブームが発生する商品は偽物。ゲルマニウムローラーとかバナジウム天然水とかプラチナイオンスチーマーなど、レアメタルの効能を訴える商品は大体偽物。語感とか有難いイメージで販促している。日本ではプラチナでも、インドに行けばゴールドイオンになる(笑)
- イノベーションは工学で起こる。学校で習うのは自然の心理を探求する理学。工学は理学をベースにするが、人や社会に役立つことを目的とし、状況や時代によってニーズが変化する。工学ではコスト・価格・生産量も重要な検討事項だが、高校の先生は教えられない。変化が激しいので教科書に書けない。発明・工夫・高効率化を教えられる教員がいない。
- 日本は海外から資源を持ってきて、製品にして売り出すだけでこれだけ豊かな生活をしている。安全だし飯がうまい。でも、海外に行くと資源がこんなにあるのに、こんなに貧しいのか?と思ってしまう。日本は節約・省エネのパフォーマンスが良いが、飲めるグレードの水で車を洗っていることは不思議で仕方ない。
【レアメタル供給のボトルネック】
- 資源供給制約:Pt、Pd、Rhなどの白金族金属は鉱石に含まれるレアメタル濃度が極めて低い。本質的に供給量が制約されていて、鉱石の大半が南アフリカとロシアに集中している。濃度が小さいだけで掘り続ければ100年以上あるが、取れる地層も薄いので一度にたくさん供給できない。
- 技術制約:資源的には豊富なのだが、メタルとして取り出すことが困難。イノベーションが起こればコモンメタル・ベースメタルになれる。Ti、 Sc、 Mgが代表例。
- 環境制約:埋蔵量自体は問題ないのだが、発掘や精錬の過程で人体や環境に有害な成分が出てしまって環境コストが発生する。銅を精錬する過程でカドミウムやヒ素、水銀が発生するし、強力な磁石の材料であるジスプロシウムを精錬する際にはウランやトリウムといった放射性廃棄物が発生する。
- これらは単体で存在するのではなく、組み合わさって制約が課せられる。
- 大きな勘違いは、レアメタルは特定の国にしかないと思ってしまうこと。確かに現在は中国・ロシア・南アフリカなど特定の国がマーケットシェアを占めている。しかし、これら特定の国からでないと供給できないという点は誤解。中国がマーケットを独占できるメカニズムを発揮しているだけ。
- かつてレアメタルのほとんど米国から出ていた。しかし2000年半ばに輸出がなくなって中国が出るようになった。これはレアメタルが米国で枯渇したのではなくて、中国が安売りをするようになったから。米国は環境コストを負担しながらレアメタルを売るよりも、中国から買った方が良いと判断した。
- 中国がレアメタル生産の90%を占めるが、潜在的な埋蔵量は圧倒的に多く、1000年分は存在する。オーストラリア1国からだけでも十分世界中に供給できる量であるのが本当のところ。
【レアメタルの環境負荷】
- 自動車にはレアメタルが大量に使われており、走るレアメタルと言っても良いくらい。特殊鉄鋼部材、ハイブリッド車のモーター、排気ガス浄化触媒、電池、照明、液晶ディスプレイ、電子基板やセンサなどに大量に使われている。スマホなど電子機器に限らず、飛行機や原子炉もレアメタルの塊
- モノを作るときは廃棄物が発生する。採掘や精錬でも膨大な量の廃棄物が発生しているが、ゴミの発生量は工程の上流(鉱山)が圧倒的に多い。
- 例えば銅鉱石の中で実際に銅が含まれている割合は0.5%程度である。現在の自動車1台を作るためには50kgの銅が必要であるが、これを作るには10トンの廃棄物が発生しているのである。白金などに至ってはレアメタルの100万倍の鉱石がゴミとして発生しているのが実情。
- 中国はレアメタルを精錬し、綺麗にしてから輸出している。精錬の過程では重金属を含む強い酸の廃液が出るし、排ガスも発生する。日本国内でも技術的にはできるけど、環境コストや廃液処理コストが高くて採算が合わない。仮にレアメタルの鉱石を無料で提供されたとしても、日本では売り物にできない。
- 銅の鉱山に硫酸ぶっかけて、硫酸銅の池から濃縮することをしている。薬剤かけたりするので、ゴミの量は多いが、5ppmで最高品質の銅が1トンの鉱石から5g取れる。中国もやっているが、実は米国の鉱山でも同じことをやっている。
- 廃棄物処理コストでは、中国にはどこの国も勝てない。レアアースショックの後で十倍以上に価格が上がった。膨大な国土があって処理できる場所がある。人体に有害という点であればフードをつけて排ガスを制御したりするようにはなったが、ゴミの廃棄などはし放題の状態。
- 技術面を見ると、一部のレアアース精錬技術で中国は日本を抜いている。そのレベルまで水準を上げてきている。
- 放射性物質が出る鉱石の場合、オーストラリアで砕石して、シンガポールやマレーシアで精錬して綺麗にしてから日本に運び込んでいる。天然に放射性物質を含む鉱石を扱いなれているところで中間処理をしている。違法な要素は全くなく、合法的・合理的にこのようになされているのがレアメタルの実情。
- レアメタルは環境負荷が大きいので、最終処分場に埋め立てるのではなくてリサイクルしていくことが大切。ただし、レアメタルを使わず代替金属を使えば良いという話でもない。例えばバッテリーではコバルトを使わない方向に材料開発が進んでいるが、本当に安い素材だけで作られるようになるとバッテリーを回収してリサイクルするインセンティブがなくなる。レアメタルを使わないことが良いとは限らない。
【チタンについて】
- チタンは軽くて強くて錆びない。精錬コストを1桁下げたい。普通は量産効果によってコストが下がるはずだが、酸素と結合しないよな環境が必要になるため技術律速の素材。また、チタンは技術的に非常にリサイクルが難しい。
- ガンダムと浅草寺の意外な関係。それは両方ともチタンを使っているということ。ガンダムはルナチタニウム合金を使ってる(笑)浅草寺の瓦は実は重たい瓦に見えるように加工したチタンを貼ってある。これによって伝統建築物の耐久年数を上げている。国宝級をチタンに変えるのには議論があるけれど。
- 私はチタンの精錬の専門家。チタンは酸化しやすく酸素を外しにくいので精錬が難しくコストがかかる。学生のときにチタン中の酸素濃度をいくらでも減らせる技術を開発した。この技術を持っていたのでレアメタルの研究者として世界を渡り歩けた。
- 素材は軽くて強ければ良いというものではない。炭素繊維もチタンよりも軽くて強いが、ねじれに弱い。どこに使うかによって素材を選択する必要がある。
- 車の場合は衝突を想定しているから今の設計になっている。将来自動運転の普及によって運転席での人の衝突を想定しなければ、今とは異なる形状や素材を使うようになるかもしれない。今は安全基準があって使えない材料も存在する。
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