2019年2月28日木曜日

20190228:『両利きの経営: 「二兎を追う」戦略が未来を切り拓く』

『両利きの経営: 「二兎を追う」戦略が未来を切り拓く』読了

スタンフォードのオライリー教授とハーバードのタッシュマン教授の著書に、入山先生と冨山和彦さんが解説を寄せるという本書。知の探索と知の深化という、矛盾を内包するマネジメントにはリーダーシップが欠かせないという主張。
新規事業の立ち上げに関わった経験のある方なら、自分ゴトとして読み込める内容になっている。

入山先生の冒頭の解説をしっかり読んだ上で、事例を拾い読みから始めるも良し。
背景や文章もすごく分かりやすく書かれているので、豊富な事例を通読しても詰まるところは無いはず。


知の探索はこれまで持っていなかった知識を得る活動で、新たなアイディアを元に画期的なイノベーションにつながる可能性が生まれる。一方で、慣れぬ知識をハンドリングするため失敗も大量に発生する。中長期的に事業の活性化のためには欠かせないが、リスクが高いと判断される。

知の深化はこれまで持っていた知識を深掘りして拡充する活動で、コストダウンで利益につながる漸進的なイノベーションにつながる。過去の蓄積がある分野なので失敗する可能性は低いものの、知識の範囲が限られて新しいアイディアには乏しくなる。

企業には過去の活動を通じて成功体験やノウハウが蓄積されている。短期的に確実に利益を上げることに注意が向くと、知の深化の方に注力してしまう。利益責任を課せられている現場の責任者の立場で考えると、知の深化を進めて確実に成果を出そうとするインセンティブが非常に高い。
過去の勝ちパターンに依存して既存事業の知の深化だけを進める姿勢を継続すると、新しい知の探索に振り向けられるリソースが不十分となり、新規事業がいつまでも立ち上がらない。短期的には利益があがるものの、長期的には画期的な他社の新事業に駆逐されてしまう。このように新しい知の探索へ比重をかけることができなくなり、対応に遅れてしまうことをサクセス・トラップと呼ぶ。まさにこれがイノベーターズジレンマの一因である。

利益とキャッシュを確実に増やすことが求められる既存事業と、失敗しながら学習して新しいアイディアを探索する新規事業では望ましい組織形態もマネジメントスタイルも全く異なる。これらを同じ組織の中に置いて、特段のケアもなく普通にマネジメントしていると、新規事業に行くはずだったリソースは既存事業に吸い上げられ、発言力の弱い新規事業は駆逐されてしまう。
社内で新規事業を立ち上げたものの、なかなか顧客が見つからなかったり利益があがらなかったりしたときに、既存事業の担当から「穀潰しが!」と言われたことのある人も多いのではなかろうか(笑)予算も大事だが、せっかく確保した担当者を既存事業に引き抜かれて持っていかれそうになる事態には苦い思いをした。

お互い矛盾した組織なので「それならば、新規事業は既存事業と切り分けて、距離を置いてマネジメントしましょう」という話になるわけだ。確かにマネジメントはしやすくなるはずだが、距離を置いて完全に独立させてしまうと意味がない。
企業が潜在的に投入できるリソースがあるにも関わらず、それと隔離してしまうことは、何も持っていない状態で始まるスタートアップ企業と変わらなくなってしまう。そもそも自社が保有するリソースを分配しない・活用しないのであれば、リソースが投入されれば実現できたはずの事業の差別化もなされず、そもそも自社でやるべきなのかという根本的な話にもなる。

本書で解説している「両利きの経営」は、違いに矛盾する要素を包含する新規事業と既存企業の両方をマネジメントしていくには、「両利きのリーダーシップ」が必要になってくることを主張している。システム的な方法論というよりも、矛盾を抱え込みながら両方の手綱をうまく手繰って調整してまとめあげるリーダーシップの話になっている。

本書から5つのリーダーシップの原則を引用する
  1. 心に訴えかける戦略的抱負を示して、幹部チームを巻き込む。
  2. どこに探索と深化との緊張関係を持たせるかを明確に選定する。
  3. 幹部チーム間の対立に向き合い、葛藤から学び、事業間のバランスを図る。
  4. 「一貫して矛盾する」リーダーシップ行動を実践する。
  5. 探索事業や深化事業についての議論や意思決定の実践に時間を割く。


経団連の「出島戦略」の提言資料でも同様のことが述べられている。
経団連「Society 5.0」提言資料36ページ

しかし、出島を作ってリソースを投入して後は芽が出るのを待つのではなく、既存事業も新規事業も両方にコミットしてマネジメントしていくことが欠かせない。
経団連の資料には本体の方の役割に関する記述が少ないので、本書で補完すると良い感じ。

本書は成功も失敗も含めて豊富な事例が比較されながら解説されている。
大企業のジェネラルマネージャークラスを想定した事例が多いわけだが、探索と深化のバランスを取るという問題はどの階層にも存在する。「俺には関係ない」と思わずに、どのポジションの人も一読すると学びが多い本。




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