2019年3月13日水曜日

20190313:科学技術の社会的インパクトについて


科学技術イノベーション政策の社会的インパクト評価 研究懇談会 第1回「科学技術の社会的インパクトについて」@NISTEPに参加。



「科学技術のソーシャルインパクトの評価」白川展之(NISTEP科学技術予測センター 主任研究官)


  • 「科学技術の社会実装」と「イノベーションの実現」がごっちゃになっている。どちらのインパクトを測るのかを認識しておく必要がある。二項対立ではなく組み合わせで分析。
  • 「情報通信技術を実用化して遠隔医療を行う」というテーマを考えてみると、技術が進化したからといって、従来の往診から遠隔医療に切り替わるようなトランジションは簡単には起こらない。
  • コミュニティソリューションと科学技術ソリューションの組み合わせマトリックスから、シナリオのパターンを考えてインパクトを計測しないと見えない。
  • 2005年から2015年に掛けて、研究評価については世界的に同じ問題意識をもって取り組んだ。世界での先行研究はたくさんある。
  • 単純なリニアモデルを考えても、論文数を見る人・社会に適用されて製品が出たかどうかを見る人・イノベーションを起こしたかを見る人がいる。それぞれで見ているステージが違うので、議論のすれ違いを避けて進めなくてはいけない。全体図を俯瞰して議論してくべき。
  • インパクトはどのように認知されるのか?それ自体も研究対象になっている。数字やエビデンスがあるが、エビデンスがエビデンスとして認識されるかどうかも研究されている。
  • 研究イノベーション学会に新たな仲間を迎え入れて、活動の裾野を広げていきたい。



「ソサエティ・デザイン・イノベーション」木村めぐみ(一橋大学イノベーション研究センター 特任講師)

  • 専攻は歴史研究。自分のアクション・仕事を通じて研究とプラックティスの融合を目指している。英国近代史→mediaCultural studiesイノベーション
  • メディア研究ではインパクトアナリシスが大半。メディアは第2次世界大戦後からどのように社会的インパクトを生み出してきたか?などインパクトを生み出した理由を考える。
  • イギリスブレア政権のときに出したビジョンが10年後にストラテジーにつながった。文化政策の議論の中で、アートとサイエンスとテクノロジーが中心となった経済を作ろうと打ち出した。ここが日本とイギリスの違う点。Creative classを中心とする経済政策。
  • 一橋にはプログラムマネージャーとして来たが、イノベーション研究とのギャップを感じて、それを埋める研究をしてきた。
  • メディア論は効果の研究が多い。情報技術が進歩すると社会が変わる。装置を使わずに話・聞く→マスメディアの時代(本・ラジオ・テレビ)→デジタルメディア。書籍の大量生産で新聞ができてから産業革命が起きた。
  • 社会Societyの考え方もどんどん変わってきている。産業革命が始まる前は結社・Community小さな集団をさしていた。19-20世紀になると大衆が社会を意味するようになった。社会科学の定量的な分析の次にやるべきことはなにか。Society & Will
  • 最初のイノベーションの議論をしていた人たちはフランス人・ドイツ人だった。英語圏の批判をしている。英語・日本語では本に書いてある「知識」と自分が体験して得た「知識」の両者を区別できていない。これを分けて考えることが重要ではないか。
  • デザインは19世紀 FormPerception20世紀になるとFunctionActionが加わり、21世紀になるとQualityAffectionが加わった
  • 一般の人が考えるデザインとは異なる議論をしている。デザインされるのが物からカルチャーへ変わっている。デザインはある時間・空間における人と物の関係性を考えるという議論になっている。
  • Public engagement:科学技術と社会・大学の関係をよくする活動。イギリスでは大人が楽しめる図書館があったり、Welcome campusがある。研究成果とソーシャルがつながる活動・社会の役にたつ活動。イギリスでは、どうすれば良いのかを考えて行動していた。
  • イギリスは3度目のBrexit(ヨーロッパ大陸からの離脱)だと思っている。
  • 1回目は1534年ローマ・カトリック教会からの離脱。2回目は17世紀~18世紀の経済的離脱。ヨーロッパの中で貿易をしていたところから、貿易圏をアメリカや外へ拡大していった。3回目は社会とのつながりからの離脱。エビデンスに基づいた予測ではないが、歴史的に見るとこのようなことが言えるのでは?


「政策と民間の立場で経験した科学技術研究成果の実用化とエコシステム」名倉勝(Beyond Next Ventures株式会社 マネージャー

  • 元々は文科省で大学発ベンチャーの支援を行い、イノベーションエコシステムに関わっていた。民間の現場に近い立場で、イノベーションの捉え方が違うかもしれない。
  • イノベーションエコシステムの観点て、MITではボストン周りが発達している。学術機関やVCが集積している。イノベーションには良い環境。イノベーションを起こすには多様なプレイヤーが必要と学んだ。
  • 今はベンチャーキャピタルに所属して、民間でエコシステムの発展を念頭に取り組んでいる。大学発の技術シーズを実用化して新産業創出とチャレンジする人材を多数輩出することが目標。アクティブに活動していて、2号ファンドで100億円を機関投資家から調達した。また、大学との提携を深めている。名古屋地域5大学公認VCや早稲田大学の公認VCになっている。2014年設立で5年目になるところ。10名で運営
  • 大学発ベンチャーへの投資は技術を見てアクセラレーションプログラムを提供する。技術シーズを持っている大学の先生にどのように伸ばしていくか応援していく。経営人材のプールもしている。
  • 分野は医療ヘルスケアが多く、投資するのはシード・アーリーステージ。バイオベンチャーを目指す人向けの研修と、メンバーを選抜してメンタリング&資金提供を行っている。
  • ブロックバスタートーキョーは創薬系のベンチャー支援。東京都から委託を受けてエコシステムを作るためにやっている。東京には様々なVCが集まっているが、実際の創薬はできていない。研究者や機関をつなげてイノベーションを起こしていく。
  • Braveは研究者がベンチャーとして事業化するための支援を行うためのプラットフォーム。51チーム中19社が企業して、資金調達23億円だった。
  • 日本橋ライフサイエンスビルにバイオベンチャー向けのシェアラボを2月にオープンした。都心でアクセスが良く、製薬メーカーも投資家もアクセスがしやすい。バイオベンチャーを育てていきたい。
  • 大学の先生が自分の科学技術で社会に貢献したいと思っても、経営人材がいない。研究者と共同経営者のマッチングサービスを提供し、なるべく事業化したいと考えている大学の先生にベンチャーになってほしい。
  • 日本では大企業からベンチャーに飛び込みにくい。アメリカであればベンチャーに就職してもおkしいとは思われない。しかし、日本ではベンチャーに就職するのが当たり前でない。経営人材が少ない。ポテンシャルとして多いかどうかは見方が別れるが。ベンチャー経営経験のある人材はアメリカ・シンガポール等に比べて圧倒的に少ない。


「ソーシャルインパクトとEBPM (evidence based policy making):医療ベンチャー企業の成長要因調査から」黒木淳(横浜市立大学国際総合科学部経営科学系会計学コース准教授)


  • 元々は会計が専門。財務諸表・非財務情報をどのように報告すべきか?に取り組んできた。アプローチがエビデンスベースで、計量経済学が基本。
  • エビデンスは(1)一定の方向性は教えてくれる(2)具合的な方法は教えてくれないという特徴がある。
  • 社会的インパクトには時系列的な短期と長期の変化、アウトカムの両方が含まれている。また、変化率と水準(効果量)の両方の意味がある。
  • EBPMの文脈からみた社会的インパクト
  • エビデンスとは、因果推論(Aを行えばBという結果)とインパクト評価(Bの量;変化量・変化率)の要素がある。社会的インパクトの測定は難しい。効果量だけを見ると測定できない。
  • アウトプット(提供されたサービスや生産単位)・アウトカム(サービスの結果・成果)・インパクト(事業による変化)に対して、インプットとアウトプットまでは効率性を見て、アウトプットからアウトカム、インパクトに至るまでは有効性を見る。
  • 現場の行政管理で1年ごとのPDCAを回すときにインパクトの考えとはなじまない。新しいことをやるとき、中長期でどのような影響があるか?など1年以上のサイクルの中でやるのが良いのでは。
  • 社会的インパクト測定の試み:対象は大学発ハイテク医療系ベンチャー(605社)でアンケートにて調査を実施。インパクトの成果尺度をいくつか盛り込んで、どの要因が効いているかを調べた。PIVOTの実態やGrantの影響も見ている。
  • 助成金を獲得すると、利益を上げて特許出願が進む傾向が有意に出た。逆にVCからの資金調達を押し下げている。同時に行われているのは少ない。
  • PIVOTを行ったところは特許出願数が増える傾向が見られた。今後もPIVOTに着目する必要がある。

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