捕食学術誌・出版社にご用心!トラブルに巻き込まれないために
東京大学 野上識先生
早稲田大学で開催された勉強会に参加。
粗悪学術誌・出版社(Predatory Journals/Publishers)への論文投稿に関する注意喚起についてというページでも注意喚起しており、早稲田の学生向けには後日CorseNaviでも登録されるとのこと。
捕食学術誌とは
- ハゲタカジャーナル・偽学術誌・悪徳雑誌・フェイクジャーナルとも
- 最初は図書館が問題を指摘した。アメリカでは10年前、日本では5年前から話題になり始め、2018年から一般の新聞でも報道されるようになった。
- 名ばかりの査読で論文を掲載し、高額な掲載手数料で運営されるオープンアクセス雑誌
- 著名な雑誌と似たものや、同じタイトルのものも存在する
- スパムメールの頻度で投稿依頼をしつこく送りつけてくる
- グローバル・インパクトファクターなどと騙った偽の指標を示している
- 勝手に著名な研究者をエディターとしてサイトに掲載することもある
- 掲載手数料が事前に開示されないなど、不透明な部分が多い。5000ドルとかなり高額なこともある。
- 投稿の取り下げや編集委員の事態に応じない
- 運営サイドの背景:まともな査読さえしなければ、Webサーバとページレイアウトソフトで運営できる。分野を絞らずに学際的ということにしておき、あらゆる研究者に対してスパムメールで集客する。
- 投稿者サイドの背景:成果の公開圧力が高まっており、論文の内容ではなくて数で評価しようとする風潮が出ている。
学術誌としての機能を満たしていない問題
- いい加減な査読のために論文としての質が担保されていない(質保証)
- 二重投稿をチェックできない(登録性・質保証)
- サイトが閉鎖されたら読むことができない(保存性・報知性)
- 文献情報データベースに収録されない(報知性)
研究者個人にとっての問題
- 支払いトラブルに巻き込まれる。
- 二重投稿規定のため、別の雑誌に成果を出せなくなる。
- 論文が収録・公開されても、他の人が見る機会がない。
- 脇が甘い、倫理観が乏しいなどと思われ、研究者としての信用・研究成果への信頼が低下する。
倫理的な問題
- 公的資金が騙し取られる
- 査読がないため科学的に正しくない主張流布に使われる
- 論文業績による人事評価に悪影響を与える
- 研究者・研究機関の信用が低下する
- 学術そのものへの信頼が低下する
新聞報道を受けて東大で行った内部調査結果
- 同じ研究者が何度も載せていることから、うっかりではない。
- 研究者が業績として自身のウェブサイトに掲載していることもある。
- 留学生や外国人ポスドクが帰国後に共著者として投稿した例がある。
- 書誌データベースには登録されないので、トラブルや報道でないと気付きにくい。
- 同じ出版社の中でも質の高い論文誌と粗悪誌があったりする。
組織の対応
- 捕食雑誌かどうかの明確な判断基準はない。「実は査読をしていない」という点を証明することが難しい。
- 各大学や学会での注意喚起。本当に投稿して問題ない論文誌かを吟味する(こちらのウェブサイトを参考に)
- 掲載手数料支援の仕組みの中でチェックする。新潟大では伝票に掲載雑誌名の記載を義務付け、捕食雑誌かどうかを経理がチェックしている。
- 論文を投稿する段階で、論文誌名を報告して承認を得る。
- 質の高い雑誌への投稿を推奨する。
個人の対応
- ホワイトリストの活用:DOAJ(ルンド大学が始めた一定の基準を満たしたオープンアクセス雑誌リスト)、OASPA(オープンアクセス出版社の業界団体)、COPE(出版倫理規定を議論する団体)に掲載されているジャーナル・出版社を選ぶ
- ブラックリストの活用:Beall’s listのジャーナルを避ける。訴訟リスクのためにBeallさんは公開中止。現在は匿名有志が掲載しているので、信頼性には要注意。
- リテラシー向上:Think. Check. Submitのウェブサイトを参照
捕食学術集会
- 対象領域を幅広く取り、招待講演や投稿をしつこく勧誘してくる
- 運営主体や会場が不明確。開催事態が疑わしいこともある。成田の近くのビジネスホテルが指定されていたこともあった。
- 著名学会と似たような名前で案内を出す。
- 著名研究者を無断で講演者として公開することもある。
- 観光地での開催が多い。年度末の予算消化・発表業績稼ぎ・観光などの参加者ニーズにマッチしている。
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