山崎先生の「「持たざる企業」の優位性 基盤技術を保有しない企業の製品開発」読了。
製品に機能を持たせる基盤技術は、差別化や低コスト化の源泉となる。
しかし、本書では基盤技術を自社で保有しないことによって、新たな発想で価値軸の異なる製品を生み出して競争優位を実現するロジックを提案していて興味深い。
自社で基盤技術を持っていると高機能化に向けた開発によって差別化でき、工場で大量生産することで規模の経済を働かせて低コスト化が実現できる。
しかし、自社で基盤技術(特に生産能力)を持っていると、製品開発が蓄積された技術を活用していく方向に固定されやすい。結果として、工場の固定費がまかなえる規模の市場や、工場で生産可能な製品だけを狙うようになり、経営の柔軟性が失われるという側面もある。
しかし、自社で基盤技術(特に生産能力)を持っていると、製品開発が蓄積された技術を活用していく方向に固定されやすい。結果として、工場の固定費がまかなえる規模の市場や、工場で生産可能な製品だけを狙うようになり、経営の柔軟性が失われるという側面もある。
基盤技術を保有しない企業にとって、アウトソーシングを活用することで柔軟に経営ができるという保有のデメリットを受けないというだけでは、ただの裏返しの議論に過ぎない。
本書では基盤技術を保有しないことで、製品開発の競争軸を変える着想につながる可能性を指摘している。
基盤技術を保有していると機能向上競争に持っていきがちになるが、保有していないとその競争にはそもそも踏み込むことができない。そこで、メジャーな機能向上以外の軸で価値を提供して市場を奪う必要性が出てくる。
基盤技術を保有していると機能向上競争に持っていきがちになるが、保有していないとその競争にはそもそも踏み込むことができない。そこで、メジャーな機能向上以外の軸で価値を提供して市場を奪う必要性が出てくる。
事例は液晶パネル技術を持っていないけどテレビを売るソニー、センサー技術を持っていないけどデジカメを売るカシオ計算機、CPU技術を持っていないけどゲーム機を売る任天堂。
自社で技術(特に生産能力)を持っていないため、その時点で最適なデバイスを選択してサプライヤーから調達できる柔軟性を持つ。デバイスメーカーから見ると基盤技術を持っていないが故に競合とは看做されない。むしろデバイスを調達してくれる顧客と認識されるため、信頼を獲得して最新の情報を得ることもできる。
そして基盤技術がない故に、ハードウェアの性能競争以外の要因で差別化しなくてはならない。ソニーは絵作り、カシオ計算機は薄型にするデザイン力、任天堂は誰でも分かりやすく楽しく遊べる設計力を生かした製品開発に成功した。
<感想>
- アウトソーシングを活用して身軽でスピーディな経営が望ましいというだけではなく、基盤技術を保有しないが故に競争優位を生み出すという論理はとてもユニークで面白い。いままであった方が望ましいと言われていた要因が、実は無い方が良いという話の展開は良かった。
- 今回の理論はどのような産業・環境において成り立つだろうか?基盤技術を持たない企業は外部調達やアウトソーシングに頼ることになるため、モジュラー化された部品を組み合わせるアーキテクチャーの製品産業が望ましい。今回取り上げられた事例は全て家電・ゲーム機だった。
- 性能向上以外に多様な価値が求められるようになった成熟産業、つまり製品普及のS字カーブを一旦登り切った後で脱成熟が望まれるフェーズの製品群で起こりやすいのかもしれない。基盤技術に依存する性能向上から得られる価値よりも、設計・デザインで得られる価値を高められる場合に適用できると良いのだろう。
- 持たざる優位性は、企業が持つことになると失われてしまうのだろうか?外部委託で作っていたときは面白い製品を作っていたけど、内製化した途端に魅力のない製品ばかり作るようになったりするのだろうか?基盤技術以外で差別化できる知識を持っている企業であれば、基盤技術を保有することになったとしても、いろんな軸で差別化できる可能性を残すのではないか。
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