2019年3月6日水曜日

20190306:『ジェネラル・パーパス・テクノロジーのイノベーション 半導体レーザーの技術進化の日米比較』

清水洋先生の『ジェネラル・パーパス・テクノロジーのイノベーション 半導体レーザーの技術進化の日米比較』読了

半導体レーザーの研究開発を通じて、スピンアウトによってサブマーケットの個別ニーズに応えて事業化していくアメリカと、長期間基盤技術の開発競争が続く日本を対比的に分析している本。

以前に早稲田のセミナーでも講演を聞いたが、改めて本を通読しなおした。
本書で取り上げるジェネラル・パーパス・テクノロジーとは、本書で紹介されているLipseyの定義によると下記の4つの要素を満たしたものである。
  1. 一塊の技術であると認識しうること
  2. 生み出された時点では改良や洗練の余地が大きいこと
  3. 多様な製品やプロセスに利用されること
  4. 他の技術との間に強い技術的な補完性があること


例えば蒸気機関も汎用性が極めて高い技術であったが、経済・社会的影響を与えるには長い年月を要した。
本書ではジェネラル・パーパス・テクノロジーとして半導体レーザーを取り上げている。CDDVDのピックアップや光ケーブルの通信用途で用いられているが、このイノベーションのパターンを日米で分析すると、そのスタイルや成果に大きな違いが見られた。このパターンの違いをスピンアウトの観点で分析している。

  • もともと半導体レーザーはアメリカの研究機関が先行していた。
  • 汎用的な技術であるが故に、技術をカスタマイズして応用できるサブマーケットも多く、小さな規模の事業機会が十分多く存在した。起業しやすい環境であるアメリカでは科学者のスピンアウトによってスタートアップでの事業機会追求が進んだ。
  • このような起業競争になると、技術が成熟するよりも早く前倒しで起業することになり、期待したほどの技術になる前にマーケットに投入する事態を招いた。
  • 一方で、日本ではアメリカと違って科学者がスピンアウトして起業することはめったにない環境であり、大企業に籍を置いたまま研究を続けていた。結果、日本の電機メーカーがそろって半導体レーザーの研究を継続することになった。
  • 切磋琢磨しながら基盤技術の開発は進んでいくが、固定費が大きいがゆえに小さな規模のサブマーケットのニーズには小回りよく応えきれない。技術の成熟度が各社似たような水準にある中で、いかに事業機会を見つけてマーケットを確保できるかが課題。


ちょうど同じ時期に取り組み、対照的な研究開発プロセスが観察された半導体レーザーについて、日米でイノベーションに掛かる環境が与えた影響に着目しているのはとても面白いと思った。比較分析する際の参考になる。

事例の中で、ベル研在籍時にレーザーの室温連続発振を実現した林巌雄先生のエピソードも印象的。東大からアメリカに留学していたが、ベル研での半導体デバイス研究に惹かれて東大を辞めて就職した。その後、日本のNECに移って日本の半導体レーザー研究を牽引した。
帰国後の林先生は企業のフェローであったが、ライバル企業の研究者からの質問の手紙にも丁寧に返答する人格者で、半導体レーザーに関する研究会を立ち上げた。そこではチャンピオンデータではなく、失敗した・うまくいかなかったネガティブデータを集めて率直に議論することで、どのように課題を解決すべきかが見えてくるようになった。言わばライバル同士の企業が集まっているにも関わらず、フランクに議論を進めるような環境を築いた林先生の手腕と人柄が凄い。時期的に応用までにまだ時間がかかり、基礎研究に近いタイミングだったことも大きいが。

シャープのロケット・ササキのような、企業の垣根を超えてコミュニティを作って科学的成果を出すあり方も、ある意味スターサイエンティストではなかろうかと思ってみたり。

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